文化祭 7
瑠衣は、文化祭というものにトラウマを持っていた。中学校から女装をさせられて、さらしものになった。去年もそうだ。男子校で、男子だらけで潤いを求めている。行事のごとに女装をさせられて文化祭は一番のさらしものになる行事だった。今回は女子校と共同で行うため、軽減されると思いきや大間違いで、瑠衣のかわいさに女子たちも女装をさせたがる始末だった。尊美にさらされては嫌だと思ったが、クラスメイトの勢いは止まらなかった。メイド服、チャイナ服、ナース服を着させられ、クラスの出し物は女装メイドカフェであった。二日間絶対に尊美には見られまいと時間を指定して会う予定をたてた。
尊美はバスケ部も屋台とクラス出し物でも、二日間沢山働くことになっていた。尊美はバスケ部の午前中のシフトだけこなし、午後は瑠依との待ち合わせまで優衣と一緒に聖和の校舎をまわっていた。
「へー、いろいろやってるねぇ」
パンフレットを見ながら、優衣がそう言った。小さい2人は視線を集めやすい。小学生が回っているように見えるらしい。声をかけられそうになるが、尊美が威嚇していた。帽子をかぶって、ショートカットで小学生の男の子に見えるらしい。
「歩夢くんとは一緒に回るの?」
「んー、昨日まわったから、後夜祭で会うの。尊美ちゃんは?」
「そうなんだ。僕は1時から。あと1時間半くらい暇」
「じゃあ、それまで一緒にいよう」
「そうだね、優衣ちゃんミスコンいくよね?」
「あ!!そうだよー。じゃぁ、私の行きたいところ付き合ってくれる?メイドカフェにめちゃくちゃ可愛い男の子居るってきいたんだ。見てみたいんだよねぇ」
尊美は瑠依の顔が浮かんだ。たぶん瑠依のことだろう。自分もみてみたいと思い、了承する。
「うん、いいよ。僕も行きたい!」
そういって、マップを頼りにメイドカフェまで歩いていく。聖和の2年生の教室を歩いていると、2人は湊に話しかけられた。
「あれ?尊美ちゃんと優衣ちゃん?」
「あ!どうしたの?」
尊美が聞くと、湊はにこっと笑っていた。
「俺、舞台も終わってミスコンまで休憩中。どっかいくの?」
「そこのメイドカフェに」
それを聞いて、湊はぱっと瑠依の顔を浮かべた。
瑠依は、毎年いやだいやだといいながら、なんだかんだ引き受けてしまう。
それが瑠依のいいところでも悪いところでもある。
しかし、尊美に見られたくないということをぼそっと昨日の夜につぶやいていたことを思いだした。
「そういえば、孝志が尊美に貸したい漫画あるっていってた」
「は?なんも、、、「あるだろ」
湊は自分の教室にいる孝志に視線を送る。
湊の伝心を受け取ったかのようにあぁと孝志は立ち上がった。
少年誌を机から取り出して、尊美に持ってくる。
「はい。たかみん」
そういって尊美は雑誌を受け取る。
「あ、これね!「ここの教室使ってないから読んでく?」
湊がそういうと、尊美は教室に入った。優衣は歩夢の席に座りたい!といって湊に教えてもらっていた。完全に二人ともメイドカフェにいく用件を忘れている。孝志と2人で机を挟んで読んでいる。
「たかやんは、単行本もってるの?」
「や、俺は毎週読めばいい」
「へー、僕は単行本派だからなぁ」
孝志と話していると、ドアがバタンと大きな音で開いた。
それに驚き全員が視線を向けると、可愛く化粧をされ、かつらをかぶっている瑠依がメイド服を着て怒った顔をしていた。
「おい、なにしてんだよ」
「え?」
孝志は殺気を感じていたが、尊美は不思議そうにしている。
瑠依は二人の使っている机の前に立ち、どんとグーで叩くと、そのまま尊美の腕を掴み、走っていなくなる。
尊美は腕を掴まれたまま屋上まで連れて行かれた。後姿は本当に女の子のようだ。
屋上に向かうと、あーもう!!と言って、瑠維はカツラをとった。
「なんだよ!」
瑠維は怒った顔をして尊美をみていた。
尊美は動揺する。そこまでの事をした覚えはない。
「なんで他の奴といっしょにいんだよ?!」
「え?なんでって、湊くんに呼ばれて入ったの」
「だからって、孝志といちゃついてたじゃん」
「たかやんは、漫画で盛り上がってただけだって!だんじていちゃついてない!」
「でも、顔近かったじゃん!」
瑠維は嫉妬心をむき出しにしていた。
尊美は動揺を隠せない。
「顔近くないよ!」
「でもやだった!!」
尊美は怒っている瑠衣に近づき、頬に手を添えた。
「…僕は、瑠衣以外好きじゃないもん!」
尊美は見上げると、瑠維は恥ずかしそうに視線を反らした。
我に帰ると、自分がメイド服ということと、尊美が半袖であると言うことに気が付いた。
少し肌寒いのに申し訳ない。それでまた恥ずかしくなり真っ赤になった。
「ごめん…」
尊美の瑠衣の目の前でしゃがみ込み、瑠衣の頭をなでた。
その感触に瑠衣は顔をあげた。
「俺さ、いっつもこんなカッコばっかさせられて、尊美にだけは見られたくなかったんだよね
しかもお前はお前でさ、他の奴と仲良くしてて、もー、俺やだ。こんなはずじゃなかったんだけど」
そういって、俯く。
「なんで?僕は瑠衣のことこの学校で一番男らしいと思う。
僕にとっては男らしいよ?どんなに可愛くたって、小さくたって、
僕はそのままの瑠衣がいいし、そのままの瑠維でいてほしいよ」
尊美はえへへと笑うと、瑠維はそんな尊美を見て、抱き寄せていた。
「……なにそのほめ言葉」
「僕は、思ったことをいったんだよ」
「…ごめん、なんかキスしたい」
尊美は思い切り目を瞑ると、瑠衣は勢いをつけて尊美の唇に自分の唇をあてた。
その温かい感触が一瞬すると、瑠衣は立ち上がった。
「さんきゅ、なんか勝手に怒ってごめん。俺戻んねーと怒られるわ
また連絡する。」
瑠維はそういうと、先に屋上から出て行った。尊美はしゃがみ込んで真っ赤になっていた。
携帯が鳴ると、優衣からの着信だった。
「尊美ちゃん、どこー?」
「ごめん、戻るよ。優衣ちゃん」
そういって、尊美は屋上をでて、湊の教室に戻ると優衣は湊と話していた。
尊美の姿に優衣はほっとした顔をしていた。
「可愛い子って、尊美ちゃんの知り合いだったんだね」
「あー、瑠衣のこと?」
「さっき写真撮ってもらったの」
優衣は、デジカメを見せた。尊美はそうなんだといってデジカメを覗き込んだ。
ちゃんと可愛くしてるがぶすっとしている瑠衣とにこにこ笑っている優衣が写っている。
「瑠衣、男女問わずファンがいる感じだったもんな」
湊はそう言った。尊美は苦笑いを浮かべていた。
優衣は梓のミスコンの手伝いがあるため、準備をしに行ってしまい、尊美は瑠衣との待ち合わせ場所にいた。瑠衣は、不貞腐れた顔で待ち合わせに現れていた。校舎の玄関前で、尊美はちょこんと座り待っていた。すこし気まずい空気が流れていた
「さっきはどうも、なんかごめん」
「気にしてないよ。それよりミスコン見に行こう」
瑠衣は尊美の腕をとって手をにぎっていた。
「尊美髪の毛伸びたな」
ベリーショートからショートになってきた。天然パーマでくるくるしているが、瑠衣と同じくらいの長さになっていた。
「うん、これより伸ばしたことないから、どうなるかわかんない」
「いいじゃん。くるくるでかわいいじゃん」
ストレートに言葉を伝えてくれる瑠衣に尊美は顔を真っ赤にした。ミスコンが盛大になっている。ステージの周りには沢山の人がおり、小さい二人は見えるところまですり抜けていった。予選の梓の晩だった。可憐という文字が似合うような風貌である。口調は梓そのものでギャップがある。
「あれ、生徒会の?斗真の幼馴染み?」
「そうだね、僕もびっくり」
梓の番が終わり、ほかの人が出てきた。尊美は梓に会いに裏へ回ろうも瑠衣に提案した。瑠衣と一緒に裏にいくと、梓と斗真がやり取りをしていた。
「天敵と回るなんて嫌よ。あんたと一緒にいて良い経験なんてしたことないわよ?!」
「いいじゃん。せっかく素敵な格好してるんだし、俺も暇だしさ」
「いやよ!」
「つれないなぁ。幼馴染じゃん」
二人の勢いのあるやり取りに、圧倒されて話しかけずに違う場所へ向かった。
「あいつらあんな喧嘩してんだな。斗真があんなにやっかまれるの初めてみた」
瑠衣は怖い女だわと呟いていた。二人で案内をみてどこを回るのか話し合う。ご飯をたべて、占いやトリックアートをしてるクラスにいったり、ステージの出し物を見るということで話は落ち着いた。
まず、占いをしているクラスに行く。尊美は順番になると、個室に通される。名前と誕生日を書き占ってもらう。
「占いたいことはなんですか?」
「僕、、は、気になる人がいて、、どうなりますか?」
「彼の誕生日は?」
尊美は誕生日を伝えた。占い師に扮している生徒は答えた。
「あー、その人とは、相性最悪です。関係の継続は難しいかもしれませんね。あんまりおすすめできませんよ」
尊美は、心で愕然としていた。あんなに話しやすいのに相性最悪なんて、これから喧嘩が耐えなくなるということか、、、。
「あ、ありがとうございました」
そういって個室から出た。瑠衣は外で待っていてくれていた。
「行こうぜ、ステージ行くんだろ」
「うん、行くけど、、、」
明らかに様子がおかしい尊美に、瑠衣は首を傾げていた。
「なんか言われた?」
「ううん、言われてないけど?
瑠衣は首を傾げたが、気にせずにステージにむかった。尊美の頭のなかではぐるぐると占いで言われたことがめぐっていた。見たかったステージもどこか集中出来ず、上の空になっていた。瑠衣が話しかけても、何を話していたのかわからないことが多かった。夕方になるにつれて、瑠衣はだんだん苛ついてきていた。尊美はそれに気づかぼーっとしていた。手をぱっと離され、尊美は驚いた。
「なんなの、おまえ!!!いいたいことあるならいえよ!話しかけてんのに上の空だし面白くなさそうだし、まじつまんねーわ」
尊美は驚いた。
「あ、ごめん、、、ぼく、、、」
「謝罪がほしいんじゃねーんだ。まじムカつく、今日は解散だな。しばらく口聞きたくない」
そういって、瑠衣ははや歩きでいなくなってしまった。尊美は、唖然としたままだった。占いなんてしたことないし、文化祭の所詮高校生の戯言かもしれないのにすごく気になってしまう。一人でトボトボ歩いていると、涙が出てきてしまった。涙を拭ってパーカーの帽子を深くかぶった。ミスコンの結果発表の時間になっていた。尊美は、一人でステージの客席からそれを見ていた。みんなが盛り上がるのに、自分だけは盛り上がれない。そんな尊美がはっと我に返ったのは、一位の発表からだった。
「2年、奥出湊さん、2年、藍原梓さん」
知ってる人が二人とも一位をとっていた。驚きである。
「2年生凄いね。ミスコンの上位ほとんど2年生でした」
楓が、二人に景品を渡しコメントをもらっていた。湊の挨拶は慣れていてとても流暢であったが、梓はたどたどしさがあった。2人から、コメントをもらうと、楓はそのまま続ける。
「1位のお二人には、サプライズ!もう一つ特典があります!これから一ヶ月、校内の売店のものはただとなります!そして、ここでいま客席に皆さん、そして両校全校生徒さんに相談です。後夜祭終了まで二人のわがままを聞いてあげられますかー?!」
楓が目立つ姿にあまり良く思っていないであろう他校の女子が冷ややかな目で見つめている。湊はとても、人気であるし有名な男子である。楓はそんな湊も対等にやりあって湊もとても楽しそうにしている。そんな二人のやり取りが尊美は好きだった。楓は他の人に何を言われてもあまり気にしない性格であるのに対し、尊美はどうしても気になってしまう。だから、占いも気になってしまった。
楓が盛り上げてからお辞儀をし次の段取りに進もうとすると、湊が楓からマイクを奪った。
「じゃぁ、言いだした神山さんに最初の権限を使いますね。みなさん、よく見ててくださいね」
そういうと湊は隣の梓にマイクを渡し、楓の両頬をがしっと掴み唇を奪った。一気に真っ赤になる楓と、してやったりな湊が舞台上にいた。湊のファンの女の子たちが、悲鳴をあげる。
「まじなんなの。ほんとにむかつくわ。神山」
「顔可愛くないのによく湊くんの隣にいるよね」
「ほんとね、しかもあいつ男友だちばっからしいよ。女にもてない女って性格悪い典型じゃん」
「あいつ、男子に気に入られたくてわざとサバサバしてるって話だよ。ほんとは一番男子にもてたそう。」
「うっわ!湊くん騙されてるってこと?かわいそー」
尊美は、その会話が許せずに悪口を言ってる人の前に仁王立ちしてきっと睨んだ
「それ、違いますよ。楓は可愛いし、人の悪口なんか言ったことないです。それに、男女ともに友達多いし、男子に気に入られたいなんて1ミリも思ってないし、湊くんのことも騙してないです。そうやって陰口ばかり言ってる人たちなんかより、数億倍性格も良いですよ。いつも一緒にいると分かります。あなた達のほうがよっぽど性格悪いですね」
喧嘩を売るような言い方になってしまった。悪口をいっていた他校の女子たちは、尊美に罵声を浴びせる。
「なんなの、お前、調子乗ってんじゃねーぞ」
「あんたになにがわかんだよ!」
「なんだよ、くそが。お前も可愛くねーし、男みたいだし、きもいんだよ!」
尊美は、怯んだが、また立ち向かおうとした。前に立ってくれる瑠衣がいた。
「おめーらのがよっぽど性格くそなドブスじゃねーか!そんなに楓が羨ましいなら同じように仲良くなりゃいーじゃねーか!ま、おめーらなんて湊は、見向きもしねーだろうがな。あいつおすみつきの俺の顔より可愛くなってから来てみろってんだ。ばーーーか!!!」
瑠衣の可愛らしい顔からは想像できない口調に驚かれていた。女子たちは退散していった。周りもこちらを見ており、二人も気まずい雰囲気になってしまった。ミスコンがお詫び後夜祭のキャンプファイヤーが始まる。尊美と瑠衣も人の流れにのり参加している。冠をつけた湊が楓と言い争っている姿があった。小春は真由と優衣は歩夢とそれぞれカップルでいる。がやがやするなかで瑠衣がいった
「あんなん、ほっときゃいーのに。楓は1ミリも気にしねーよ」
「でも、僕が嫌なんだよ。友達の悪口言われるの」
「ま、そっか」
「さっきはごめんね。ぼーっとしてて」
「とりあえず理由は?」
「占いのところで、僕と瑠衣の相性は最悪で、このまま関係継続は難しいですよって言われて、気になっちゃって」
真面目に理由を話す尊美に、瑠衣は吹き出していた。笑い声が響いて周りの人がみている。尊美は驚いていた。
「なんで、なんで笑うのー??!」
「いや、お前さそんなの気にすんだな。別に相性なんて血液型とか星座とかわけわかんねーので決まるもんじゃないだろ、あー腹痛いわ。とりあえずバカなことで悩むんじゃねーよ。真剣に受け止めんな。」
瑠衣は優しく尊美の頭をなでた。そして、手を握っていた。
「瑠衣は占い信じないの?」
「信じねーよ。俺はそういうのよくわかんねーし、信じて何かが変わるわけでもねーし、相性悪いなら最初から悪いだろ」
「そっか。瑠衣はすごいね。僕はきにしてばっかりだ。昔っからなんか」
「凄かねーよ。そういうの気にすんのめんどくさいだけ。それより俺もごめんな。もっと話聞けばよかったわ」
キャンプファイヤーの光が心を落ち着かせる。尊美の長くなった髪の毛を瑠衣は触っていた。尊美は驚いて一歩後退る。
「あ、ごめん。柔らかそうでつい」
「ううん」
お互いに顔が真っ赤になり、しばらく沈黙が続いた。沈黙でも自然にいられる。尊美は周りをじーっとみていた。いろんな人がいて、知ってる子も知らない子も楽しそうにしている。楓といる湊の楽しそうな顔や、幸せそうな優衣の顔に尊美は勇気が出てきた。
「あのね、僕、、、」
「わたしな」
「あ、わたし、瑠衣の告白本当に嬉しかったんだよ。瑠衣の周りに振り回されないで自分を貫けるところとか尊敬するし、羨ましい。ほんとはずっと気になってて、やっぱりこれが恋なのかなって思うようになった。ぼく、よくわかんないんだけど、、、瑠衣はかっこいい。瑠衣はすごくかっこいい」
瑠衣は尊美の言葉に大きくため息をついてしゃがみこんだ。尊美歯慌ててしゃがんだ瑠衣の顔を覗きこむ。瑠衣は真っ赤な顔をして顔を隠していた。
「いま言うんじゃねーよ…ずりーなぁ」
「えっ?!ごめん、タイミング違ったの?」
「いや、いいけどちょっと嬉しすぎてやばい。腰抜かしたわ」
「そんなに?!」
「そうだよ。大好きだもん。お前のこと」
瑠衣は真っ直ぐにそう伝えると尊美はさらに顔が真っ赤になった。瑠衣は尊美の手を握った。
「あー、もうやっぱムカつく。他のやつも仲良くしてるのとか、やっぱ無理。たぶん俺独占欲かなり強いんだよな。こんなめんどくさいやつでも俺と付き合ってくれる?」
「もちろんだよ!え、僕でいいの??」
「俺は人生で尊美しか好きになってないからな。でもお前くらいだろ。俺のことかっこいいって言ってくれるの」
尊美はそっかぁも言って、変に納得していた。瑠衣の手は汗が吹き出していて緊張しているのがよくわかる。尊美はドキドキが止まらず、瑠衣に聞こえているのではないかと思うほどだった。瑠衣は繋いだ手を握る力が強くなっている。
「あの、末永くよろしくお願いします」
尊美は頑張って言葉を絞り出した。瑠衣はぷはっと吹き出すようにまた笑った。
「末長くね、こちらこそよろしく」
瑠衣は照れ臭そうに笑って返した。繋いでいた手の力はお互いにいい加減で握り合っており、尊美はとても安心した気分になれた。