文化祭編 5
2日目のお昼、瑠奈は午前中の公演を終えて着替えのために教室に戻っていた。聖和の女子更衣室に行き着替えようとするとかさかさという音が鳴った。
「…?」
瑠奈は辺りを見回すが、人気も感じないのでワンピースを脱ごうとした。
「良いパーツ。かわいいな、本当に」
「え?!」
瑠奈の背後にはすでに男子が立っていた。そして、瑠奈の太ももを触ってきてそのまま瑠奈は硬直した。
どうしよう、助けて、透くん。透くん。そう声をあげたいのにあげられず、
押し倒されて全身をまさぐられ、太ももを舐められた。
その感触がひんやりと自分のみに落ちてくる。ドアの音で彼は逃げていった。クラスのメンバーが来た時には、ワンピースは乱れ、下着姿になっていた。
楓に抱きとめられるまでに起こったことは覚えていなかった。触られた感触だけが残っていて、気持ち悪くなった。若葉がきて、梓もかけつけてくれた。清蓮の生徒会室に連れて行かれる時にも、恐怖で本当は動けない状態で、梓におんぶで運んでもらった。斗真と3人だけの生徒会室で、斗真が優しくお茶とお菓子を出してくれた。そのまま手前に座って優しい表情をみせていた。そして、優しく声をかけてくれた。
「透が自慢したくなるの判るなぁ」
瑠奈はきょとんとした顔を向けていた。
「俺、透と同じクラスなんだけど、あいつは神崎さんの話するときかなり嬉しそうでさ、言うほど可愛くないだろって思ってたけど、言うほど可愛くてびっくりしたよ」
そう言われて思わず瑠奈はくすっと笑ってしまった。落ち着かせてくれているのだ。斗真は梓の話しだけでは酷い人だが、本人をみると全くそうじゃないようだ。斗真は梓の方へ振り返ると、指示をした。
「梓ちゃん、透に連絡と犯人調査の応援頼むから、話は聞いてくれる?」
斗真が出ていくと、梓はソファーに座る瑠奈の隣に腰かけた。
「ごめん、梓、ミスコンもあるのに」
瑠奈は少し落ち着けた。
「いいって、そんなの気にするよりも瑠奈のほうが大事」
想いだすと、怖くなり震えが止まらなる。
「…………私服だったの………もういないかもしれないし」
「特徴は?」
「………ふとってた。顔は……ちょっと太い眉………青いシャツ…着てたかな」
瑠奈はつっかえながらも答えた。梓はメモ帳に特徴を綴っていた。瑠奈は思い返すと、また感触が思い浮かんできて、涙を溜めていた。怖かったと漏らすと、涙が流れていた。小春に悪いことをした。多分責任を感じているはずだ。楓にも迷惑をかけた。梓は生徒会でミスコンにも出て忙しいのにつれてきてくれた。
いろんな人に迷惑をかけている自分も許せなかった。
「瑠奈は、みんなに迷惑かけたとか思わないでね。瑠奈が一番大変なんだから」
梓の言葉にまたはらはら泣いていると、バタン!とドアが物凄い勢いで開いた。
瑠奈と梓が音に反応して顔を向けると、透が凄まじい形相で現れた。
そして瑠奈に近づいていく。梓は立ち上がり、透の邪魔にならないようにあけた。
透は瑠奈の前で立て膝をつき、瑠奈の手をとった。
「瑠奈…」
瑠奈は透の手を払いのけた。透は、驚いていたが瑠奈の手は震えていた。
「……何されたの?」
「………聞かないであげて」
梓がわってはいった。透はそれを聞くと、冷静にへ―といっていた。瑠奈はまだ泣いている。自分の手でどうにかしてやりたい。
「………梓ちゃん、特徴わかった?」
「あ、うん。ふとってて太い眉で青いシャツだったって」
梓が特徴をいうと、斗真がうーんと考えていた。透はあまり人を気にしたことはないので、分からない。斗真も困っていた。
「部外者かな、、、」
「顔、ちゃんと見れてなくて、、ごめんなさい」
斗真はうーんと口に手をあてて考えていた。透は瑠奈に自分の来ていたジャージをかぶせて立ち上がっていた。
「僕も探すよ」
透はな笑顔を向けていた。
「じゃ、俺たちで探すし、お前らはいけよ。ミスコン始まるだろ?」
聖和の生徒会メンバーがそういうと、斗真は頷く。梓と一緒にいなくなる。
「瑠奈、、せいふくになにかついてる」
瑠奈は、その制服に付いている黄色い紙に気が付いた。
「あ…この黄色い紙、チラシかな?」
透に差し出すと、透は生徒会のメンバーと一緒にそれを見た。
「黄色って、3つくらいの団体のチラシだよな。」
盛り上がっている男子のなかに、瑠奈は入っていく。
「あ、あのぉ…」
「神崎さん、なに?」
瑠奈は震えながらいった。
「、、、、誰かよんでもいい?弓道部かクラスの人、、、怜奈がくるっと話してたから」
「あぁ、いいけど、、」
瑠奈は震えながら、空いてそうな人に連絡をしていた。
透は悲しいやるせなさが胸を襲った。
生徒会メンバーは特徴はわかっているので、探しに行こうということになり、2人ずつに別れていくことになった。
行動する前に、瑠奈は思わず透のシャツを引っ張った。話しを切り出せずにいたが、透が話しかけてくれた。
「……男が怖いんだね」
瑠奈は小さくうなずいた。
「……ごめんね、、は、時間割いて一緒にいてくれて…クラス皆にも…「被害受けてる人がそうやって皆の心配しなくていいよ。悪いことしたのは瑠奈に痴漢したやつ。瑠奈は悪くない。待っててよ。
だれなら来てくれそう?」
透は瑠奈のクラスメイトがくるまで一緒にいてくれた。
手分けして黄色いチラシの団体を全部まわった。しかし、どこも違った。高校の手安はチラシなんて皆だいたい薄いペーパーである。冷静になって考えればそれが手掛かりというわけでもない。瑠奈のいった特徴だけが手掛かりなのだが、探し回ってかれこれ一時間したところである。探していると、斗真から電話がかかってきた。
「もしもし?」
『ねぇ、漫研いってみて。俺の予想だと、去年卒業したの由藤って人だと思うんだよね。
神崎さんの言ってくれた特徴で知ってる人がその人だけなんだけど』
「ありがとう。行ってみるよ」
そういうと、携帯を切った。
「斗真?」
一緒にいた生徒会メンバーが質問する。
「そう、漫研かもって、いってみよう。田中は、由藤って人知ってる?」
「…去年の卒業生?」
「その人って、瑠奈の言ってた特徴にあってる?」
そういいながらも、透の足はだんだんと早くなった。パンフレットを見て漫画研究部に行くと、透はドアを思いきり開けた。人気のないブースで、パソコンに向かっている3年生がいる。画面を見てあーだこーだと話している。そのなかには、昨日観客席にいたメンバーがいた。
透は
「去年卒業された由藤先輩って、いらっしゃいますか?」
天使のような笑顔をむけて、透は冷静にそう言った。
「由藤先輩なら、トイレに行ったけど」
「ありがとうございます。ついでに、画面みせてもらえますか?」
そういって、画面を隠そうとする部員たちから無理矢理パソコンを奪った。
画面上には、魔女衣装をきた瑠奈の写真が何枚も写っていた。その下には着替えの写真と、下着姿で抵抗する写真が大量にあった。透はすぐにパソコンを床にたたきつけた。笑みのまま、透は3年生に威圧をかける。3年生は怖気づき腰を抜かしていた。壁に押しやると、足で逃げられなくした。
「せーんぱい、これは何ですか?」
一緒にきた生徒会のメンバーも怖いと思うほどの勢いがあった。
「瑠奈ちゃんきれいでかわいかっ…「つい?」
透はそういうと、手をグーにしていた。勢いをつけて殴ろうとしたが、寸前で生徒会メンバーに止められた
「最初の写真は趣味の範疇だよ。しかも、この人たちは悪くない」
「…っ!!!すまさないからな」
透はそういうと漫画研究部からでていった。そして、そのまま近くに或る男子トイレに向かった。はち合わせるように、瑠奈を襲った犯人が目の前に現れた。怒りを押さえて透は冷静を装って、笑顔を見せていた。
「由藤先輩、初めまして、」
瑠奈の特徴全てが当てはまる。青いシャツに太った体格をしていた。自分よりも10センチは背が低い。
「お前…誰だよ」
「2年B組の秋月透です。先輩がいたときは一年生でした。あの、、は、神崎瑠奈って知ってます?」
「あぁ、知ってるよ。地元が同じ中学校だったんだ。俺は断然玲奈ちゃん派だけど、瑠奈も身体は大体一緒だし、一卵性双生児だろ?昨日の舞台でちょっと可愛かったよな」
「…俺も同じ地域でしたよ」
「へー、じゃぁ噂知ってる?瑠奈が玲奈の彼氏略奪したって、だから腹いせに、俺あいつにいたずらしたんだよな。可愛い姿しちゃってさ、中身は冷徹な女のくせに…あいつのせいで怜奈ちゃんに近づけなかったんだ。なかなかよかったよ玲奈ちゃんに触ってるみたいでさ」
透はそれを聞いていると、笑顔ではいられなくなった。そのまま由藤の顔面をめがけて殴りかかった。生徒会メンバーが透をとめにかかるが、なかなか離れない。とめるな!と大声をあげていた。普段の温和な透からは考えられない様子だった。瑠奈は電話を入れてから、クラスメイトと一緒にきていた。
「透くん!やめて!」
男子トイレの前で人だかりができてるなか瑠奈は透に後ろから抱きついてとめていた。手は震えていた。
「なんで?!許せるわけないだろ?!」
「許せないよ。でも、透くんが怒る必要ないよ。怒る価値がないの」
瑠奈が悲しそうにそういうと、透は手を止めた。そして由藤から離れて立ち尽くした。
「お前、俺にさわられてまんざらでもなかったんだろ。怜奈ちゃんの彼氏横取りして、スカッとしたかよ」
瑠奈は涙をためて、由藤のほほをひっぱたいた。タイミング良く透のスマホに斗真から電話がかかってきた。
『ごめん、先輩に変わってくれる?』
そういわれて、透は由藤にしぶしぶ携帯を渡した。
『あ、由藤先輩ですか?僕、生徒会副会長の相田斗真です。はじめまして。今回の件は、聖和の理事長にお話ししようかと思っておりまして、先輩が行っている大学の停学になるかと思います。僕の大切な友達を傷つけたみたいなんで、停学中は毎日来ていただいてこちらに来ていただいて3ヶ月は全フロアのトイレ掃除をお願いします。もちろん、僕がチェックするのでお見知りおきを。ちゃんとバイト代はお支払しますので』
斗真の言葉に打ちひしがれている様子だった。瑠奈は涙をはらはら溢して震えていた。そのまま座り込む。
「怜奈の彼氏は僕です。瑠奈が悪いんじゃないです。僕が間違えて勘違いしたんですよ。せめるなら俺にしてください。もう神崎姉妹には近づかないでくださいね」
冷たくそういった。生徒会メンバーが、由藤を捕まえて生徒会室に連れていった。
「瑠奈、大丈夫?」
クラスメイトが心配してくれた。
「うん。寮に戻ろうかな」
「瑠奈。僕、もう今日はなにもないから話したいんだけど」
瑠奈は戸惑っていた。
「いってきなよ」
クラスメイトが後押ししてくれた。透の3歩後ろを歩いていた。清蓮の使われていない多目的室に入った。透は、はーっとため息をついて、外が見える席に座った。瑠奈は透と少し距離を置いて窓をみていた。
「…瑠奈、また責任感じてるんだね」
「……巻き込んじゃってごめん…」
「大事な子が襲われたら誰だって怒るでしょ。それに巻き込まれたんじゃないよ、僕も当事者だよ」
瑠奈は首を横に振った。
「私の問題だよ」
瑠奈は床に座り込んだ。触られた感触が生々しく残っている。透は立ち上がって瑠奈に触ろうとしたが、震えられたことを思い出し躊躇した。
「あ、あのねすぐシャワーあびたの。感触が残っちゃって…怖くて、ごしごしこすってたら、真っ赤になっちゃって、ひりひりするのわかんなくて、、、」
そういって、瑠奈は涙を流していた。首元が赤くなっているのが見えた。透は怒りが収まりそうになかったが、抑え込み、ふーっと深呼吸した。
「なんでそう全部自分のせいにするのかなぁ…一番怖かったのも、一番痛かったのも瑠奈でしょ?それに、迷惑掛けていいんだよ。前に話したでしょ。瑠奈は人に迷惑かけまいって生きてきたんだと思うけど、僕は君の彼氏なんだ。迷惑かけるのは悪いことじゃないよ。支えるのがお互いの役目なんだよ」
「ありがとう」
「いいよ」
瑠奈は、涙を止めて透を見上げた。
透は、頬を触ろうとしたが瑠奈が、怖がっていた。
「僕のことも怖い?」
瑠奈は、首を横に思い切り降った。
「違うの。汚いから、、、私の体、、、透くんが触ったらだめ」
「どうして、どこが汚いの?瑠奈は全部綺麗だよ」
「でも、、、胸も、お腹も、、、「言わなくていい。あいつのこと殺したくなっちゃうから」
透は綺麗に伸びた瑠奈の髪の毛を触った。
「これは怖くない?」
「怖くない」
「本当はずっと抱きしめたくてたまらないよ。瑠奈は僕の大切な子なんだよ」
透が耐えきれずそういうと、瑠奈が透に抱きついた。今まで自分から抱きしめてきたことは一度もない瑠奈が勇気を振り絞ってくれた。透は抱きしめ返す。
「…ありがと」
瑠奈は透の匂いに包まれて、落ち着いた。嫌じゃない、怖くない。ほっとした。
「瑠奈、ごめんね。怖い思いさせて、痛い思いさせて」
瑠奈は首をかしげた。
「透くんが謝ることじゃないよ?」
「…僕が謝ることだよ。守れなかったのは僕だから」
透の抱き締める力が強くなっていった。
「苦しいよ、透くん」
「あ、ごめん」
透は力を緩めた。瑠奈が外に目をやると、後夜祭が開かれていた。
「あ、後夜祭始まっちゃったね」
後夜祭は聖和のほうで行われている。窓のさっしに手をおいた。見えないが音は聞こえる。
「ミスコンどうなったのかな。梓も湊くんも見たかったなぁ」
瑠奈は残念そうにしていた。
「たぶん、湊がグランプリでしょ」
「梓、勝負勝てたかな。後夜祭……」
透は瑠奈を後ろから抱きしめた。
「二人きりなんだから僕のことだけみてよ」
瑠奈は真っ赤になって顔を隠した。
「誰か来るよ」
「後夜祭なんだから、誰も来るわけないじゃん」
「そか、、、」
素直に納得する。
「瑠奈、大好きだよ。触っていいのは僕だけなのに、これからは全部僕が初めてだよ」
透は完全に不貞腐れていた。顔が窓越しに見える。
「そうなの?!」
「そうだよ!僕が貰うんだから、そのときまでちゃんと守っててね」
「え、それっていつ?!」
「それは内緒だよ」
「心の準備とか、、、」
瑠奈は慌てていた。透はクスクス笑っている。
「大好きだよ。瑠奈」
そういって、瑠奈に優しくキスをした。