表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

文化祭編 4

若葉は携帯電話をもっていない。

特待生として勉強にあけくれ、特に必要もないと考えている。

GWを越えて、幼馴染みの蓮見に告白をされいきなり付き合うと言うのは考えられなかったので文通をしようという話になった。

文面の方が電話よりもお互いにメリットがある。

蓮見は話すのが苦手であるし、そもそも若葉は携帯電話をもっていない。たぶん、電話だと10分は無言の時間がある可能性がある。

文章だと二人ともありのままを思う存分に話せていた。蓮見は小春と優衣とはアドレスを交換している。たまにメールをしているようだった。


「あ、若葉ちゃん、蓮見くんからメールきたよ」


文化祭前日、夜に優衣にそう言われた

文化祭二日目、蓮見と美紗、海斗が来ると、手紙に記してあったなと思い出した。


「文化祭くるってメール?」


「あ、そうだよ!二日目だと、ちょうどミスコンだね」


「あ、そっか。梓ちゃんの応援団だ」


「じゃぁ、蓮見くんたちと観客のところにいなよ!」


優衣にそう言われたが、梓のことを近くで応援したい気持ちが強かった。

少しその場にいてから合流しようと考えていた。



そして、二日目の朝を迎えた。

若葉は聖和の同学年のクラスと合同で出し物をする。

しかも、あの特A級のイケメンである奥出湊のクラスと一緒だった。練習は難航している状態であったがなんとか完成した。

湊の話は、楓からよく聞いていたが、気配り上手で盛り上げる役も買ってでる。リーダーになれる人だった。

そのうえ、優しいし何よりも容姿が整っている。女子が放っておかないのもわかる気がした。

若葉自身は手先が器用で衣装を優衣と一緒に率先して作っていた。綺麗に作れるため、主役二人の服をつくることになっていた。


二日目はミスコンがあるので、午前中に劇がある。朝、昨日使った衣装を少し修理して持っていく。

体育館に集まる前に、聖和の教室で集まることになった。

若葉は優衣と話ながら歩いており、二人とも衣装をもって両手が塞がっている状態だった。

教室のドアが閉まっている状態になっていることに気づくと、さっとドアがあいた。

見上げると、湊が明るい顔をして、二人をみていた。


「若葉ちゃん、優衣ちゃん、大丈夫?」


「うん、ありがと」


若葉はあまり気にしてはいなかったが、湊は何故か自分のことを初対面ではない接し方を最初からしていた。

理由は、模試での結果らしい。

若葉はあまりきにしたことがないのだが、湊は友達と何位かで争うらしく、チェックしているらしい。

河田若葉の名前はいつもトップにいるから、どんながり勉ずらなのかという話にもなったことがあるらしい。

ふたを開けてみたら、こんなかわいい子で驚いたと話してくれた。

そして湊が好きな推理小説作家を、若葉も好きなので仲良くなっていた。


「二人がいると、なんかマスコットみたいだね」


湊はそういって、二人の荷物を受け取っていた。


「なにそれ」


腑に落ちないのは優衣だ。頬を膨らませる。湊はははっと笑っていた。


「小さくて可愛いからさ、なんかストラップに出来ちゃいそうだよね」


男子と関わる機会が増えると、中学との扱いの差を感じる。

あの頃は三人と一緒にいるだけの存在だったが、今は自分は自分として扱われる。

二人で腑に落ちない顔をしていると、湊が両手で二人の頭をなでていた。

小さい子をあやす大人のような対応である。

全員が集まると、体育館へ向かう。すでに、シンデレラをやる楓たちのクラスがいた。

今日は、ロミオとジュリエットをやる若葉たちのクラスが先である。

準備を済ませ、発表が始まると、若葉も舞台裏から観客を見ていた。

昨日よりも入っている。若葉はすぐに蓮見たちの姿を見つけた。

鼓動が高鳴るのがわかった。今日は、昨日よりもかなりできがいい。


「蓮見くんたちがいたの?」


若葉の反応をみて、舞台奥で一緒に見ていた優衣は小声で話しかけた。

真っ赤になってうなずく。


「へー、じゃぁメールしとくね。ミスコンあるから、校舎前で待ち合わせればあえるよね?」


「あ、そうだね。よろしくお願いします」



劇が終わり優衣はそのまま客席について楓たちのシンデレラを見る。

闘志を燃やしているが、結局、1回見るとはまってしまったらしく、そのまま体育にいると言っていた。

若葉も付き合うよといって一緒にシンデレラを見ることにした。

3人のもとに行く前にまだ仕事は残っているし、まだ心の準備ができていないというのが本音である。

歩夢も一緒に劇を見にいくと言うので、邪魔になるかと思った快く了承してくれた

ロミオとジュリエットの練習時に、歩夢と関わる機会もあったが、本当に物をいうことは少なく、

威圧的でどこか怖い印象だった。部屋にいる時に話す優衣の印象を聞いているので、

行動をみていると、とても面白い人だと言うことがわかった。

シンデレラは相変わらずの盛況ぶりで、完成度が高いためにかなり盛り上がっていた。

楓はアドリブも入れて盛り上がる。ミスコンの宣伝もちゃっかりする始末だ。

若葉はお腹を抱えて笑っていた。二人とお別れる前に、優衣に頼み、蓮見にメールをしてもらう。

校舎前に行くということであった。若葉は時間をチェックするために腕時計を確認しようとしたが、

腕に時計がなかった。焦る中で、小春に話しかけられる。


「あ、若葉!!今大丈夫?瑠奈が変な奴に襲われちゃって…でもミスコンで楓とかもいなくなっちゃうから、

人手が足りなくて困ってるの…」


小春は自分よりも困った顔をしており、若葉はわかったと小春の手伝いをしていた。

聖和から、清蓮へとクラスのメンバーだけ運ぶらしい。しかし、みんなも持ち場があるため

できる人だけという形になるとメンバーが減っていた。

若葉は生徒会でもあるので状況把握のため一緒に手伝っていた。そこでやっと携帯がないことが不便だと感じた。

その後ミスコンが始まって、30分経ったときに若葉は蓮見たちと合流出来ず、梓のいるミスコンのステージの裏に行く。

すると人ははけており、そこにいたのは湊を含める数名だった。

自己アピールのために用意された20分間で、徐々に人が来ているという説明を湊がしてくれた。

若葉は、優衣に会いたいと思ってステージ裏にきたので待つことにした。ウロウロしていても意味がないと思ったからだ。

蓮見と連絡が付くのは優衣か小春しかいない。


「若葉ちゃん、どうしてこっちに?藍原さんの応援?」


「あ、それもあるのだけど、私の幼馴染が来てて、でも私携帯持ってないから連絡付かなくて

優衣ちゃんが知ってるからここにきたの」


「そうなんだ。幼馴染いるんだ」


「あ、そうだよ。3人いるの。みんな素敵だよ」


「へー、そうなんだ」


「まぁ湊くんには敵わないと思うけど…」


若葉はそういうと、湊は若葉の髪の毛をくしゃくしゃと触っていた。

驚いて、くしゃくしゃになった髪の毛を手ぐしで直していくと、湊はくしゃっと笑って見せていた。


「そういうこと言わないほうがいいよ?若葉ちゃん可愛いじゃん」


若葉ははにかんで笑って見せた。


「若葉!」


その瞬間に二人で声のする方に振り向くと蓮見がそこに立っていた。


「あれ?!蓮見くん?」


蓮見はずんずんと若葉のもとへ進み腕を掴んだ。

そのままきっと湊を睨んで、若葉を連れたままいなくなってしまった。

掴まれている腕は痛く歩くスピードも速い。ミスコンの会場の外で、蓮見は立ち止まった。


「なに、あの軟派な男」


蓮見はむすっとした顔をしていた。若葉は半そでを着ており、腕に痣が付いていることに気が付いた。

自己表現が苦手な蓮見はそれ以上は何も言わない。楓の声が響く中で、若葉はどう答えようかと考えていた。

その沈黙の中で、割って入るように、幼馴染二人が現れていた。


「あ!いたー!!若葉!!」


美紗が若葉に抱きついた。


「わ、美紗ちゃん?!どうして?」


「なかなか帰ってこないからさぁ。ねぇ、海斗」


「そうだよ。ミスコンめちゃくちゃ面白くなってんだぞ?若葉も見ようぜ」


そう言われ、若葉は美紗に手をひかれてミスコンの会場に入って行った。

出ていたのはちょうど湊だった。楓と会話をしながら特技を披露する。

若葉は素直に凄いという反応をする。楽しそうな表情をする湊に素直に見惚れてしまう。


「わー、かっこいいねぇ」


美紗がそういうと、海斗がむすっとして、すぐに反応する。


「かっこよくねーよ」


「じゃぁ、海斗できんの?あのボールのやつ」


「俺はサッカーだからいいんだよ。蓮見もそうだろ?」


「…さぁ」


腕を組んで怒りの表情で湊を見ている。その湊がはけて他のメンバーが出ても、

蓮見の表情はそのままくすりともしなかった。

ミスコンの発表が終わり、会場は出ていかなければならない。

美紗と海斗が先に行く中で、若葉は蓮見のシャツの裾を引っ張った。


「…寒いから、パーカーを取りに行きたいんだ。

だから、10分後に玄関前で…どうですか?」


若葉は恐る恐る見上げると、蓮見は若葉の手をとった。


「ついていくよ」


「え、うん」


若葉はどうしていいのか分からないが蓮見の手をふりはらうことなくそのまま教室に向かって歩いて行った。

聖和の教室に向かうと、湊が鞄を取りに来ているようだった。

扉を開くと蓮見はむすっとしたまま廊下で寄りかかっていた。

湊はそれを見て少し顔をゆがめたが、すぐに若葉に笑顔を向けていた。


「若葉ちゃん、どうしたの?」


「パーカー取りにきたの。湊くん、格好良かったね」


若葉は自分の鞄からパーカーを取りだした。


「ありがと。連れ去られちゃってびっくりしたけど、幼馴染くん?」


「そうなの。」


湊は、笑顔のまま教室を出ると、廊下にもたれかかっている蓮見に声をかけた。

蓮見は無表情のままで自分よりも背の高い湊を見上げていた。

笑顔を見せない蓮見に、湊は笑顔のまま自己紹介をした。


「初めまして、奥出です」


「……志藤です………」


若葉は慌ててパーカーを着ると廊下に出た。

蓮見は無表情のままだ。若葉は慌てて二人の間に入る。


「蓮見くん、笑って笑って」


若葉にそう言われ、蓮見は口角をあげていた。

しかし、目は笑っていない。湊はそれを見てぷっと笑いそうになる。

若葉は必死に蓮見の前に出て、湊に言い訳をするように必死にいう。


「あ、蓮見くんはとっても人見知りでね、私とか、他の幼馴染の前でも

あんまり笑わないんだけど、でも笑えるんだよ!」


「わかった、わかった」


湊はまた若葉の髪の毛をくしゃくしゃにしようとしたが、

蓮見が若葉を抱き寄せた。若葉はどうしたらいいのか分からないまま

蓮見の腕に納まっていた。


「俺の彼女なんで。勝手に触らないでください」


「そうですね。大丈夫っすよ。俺好きな人いるんで。

 じゃ、若葉ちゃんまた小説貸してね」


そういうと、湊は会釈すると階段まで颯爽と歩いて行った。

そのまま蓮見は黙ったままで、若葉もどうしたらいいのか分からず固まった。


「………あの……蓮見くん」


「若葉って、あんなやつと仲良しなの?」


若葉は湊を罵倒する蓮見に流石にいらっときて、腕から離れた。


「あのね、蓮見くんがそうやって人をけなすのを聞くのもいやだし、

湊くんのこと罵倒しないで!優しくて、周りしっかり見てて、あの人がモテるのわかるもん!

そうやって、蓮見くんが人のこと悪く言うの変だよ!」


「だって、若葉、俺とは全く楽しそうに話したりしないし、あいつには触られても大丈夫そうだし、楽しそうだし…」


蓮見はそういうと、顔を赤くしていた。


「でもでも、蓮見くんだって、私だってまだひっかかってることだってあるんだからね!」


まだぬぐえていない。本当は、まだ自分は同情で好かれていると思ってしまうことがある。

文通をしていても、やはり離れたところにいるのは不安が募るものだ。


「なに?」


「蓮見くん、美紗ちゃんの机にキスしてたよね?私のこと本当に好きなのかなぁ?って

離れたから勘違いしてるだけなんじゃない?」


「違うよ、クラス違ってた頃だろ?席替えで若葉の席だったとこが美紗の席になったんだろ?

あの日、海斗に問い詰められたのに、まさかお前もみてたのかよ」


若葉は困った顔をしていた。ただの勘違いをまだ引きずっていた。


「…あれみて、私あの日泣いちゃって…」


「お前も上手に隠すんだよな。俺からは逃げようとするくせに、

どうして他の男には平気で触られてんだよ。

ほんとにムカつく」


蓮見は前髪をかきあげて、むすっとした顔を見せていた。


「触られて大丈夫なのは、特に何も思ってないからで…」


若葉は顔が熱くなってきているのが分かった。自分が何を言っているのか分からない。

でも、湊に頭を触られても、何も感じない。蓮見ははーっと腰を折り、下を見つめていた。


「俺、恥ずかしすぎて死ねる…」


眼鏡を取って、手で顔を押さえていた。若葉はくすっと笑った。

蓮見の手が震えているのが分かる。


「蓮見くんが余裕ないなんて、久しぶりにみたかも」


「だって、ここには若葉のこと可愛いっていうやつ沢山いるし、

若葉、平気でいろんな男子と話してるし、俺とは手紙しかつながりないから不安になるだろ?」


蓮見は座りこんで廊下に背もたれた。若葉は中腰で見ていたが、蓮見が若葉の腕をひき、抱きしめていた。

若葉は緊張で動けなくなる。こんなにくっついたことはない。

蓮見の心臓の音が聞こえてきて、嬉しくなった。


「あはは、蓮見くんドキドキしてる」


「…うっさい」


小さい若葉は、すっぽりと腕に納まっていた。

蓮見は折れそうな若葉の腕を思いきり強く握ってしまったことに気が付いた。

パーカーで見えないが、あざになっているだろう。


「…私は、いまだって不安だよ?蓮見くん格好良いから」


「俺、若葉以外に興味ないから」


「そうかなぁ?」


「そうだよ。お前有名人だし…模試で1番とかとってんじゃねーよ…」


若葉が見上げると、蓮見の顔は間近にあった。


「だって、特待生のポイントあがるんだもん…

私だって、蓮見くん以外に興味なんてないもん」


何年片想いしてると思ってるの?と若葉はいった。


「あ、湊くんにはちゃんと謝ってね?湊くんさっき自分でもいってたけど好きな人ちゃんといるんだから」


「…やだ。あいつお前と仲良いもん」


「私の好きな作家さんのこと湊くんも好きなの。だから話しが盛り上がっちゃって」


「…やだよ。むかつく。謝んない」


蓮見は不貞腐れてそういった。若葉は困った顔をしていた。なかなか独占欲が強いらしい。

恥ずかしくて顔を見上げられないが、ふと見上げると、そのまま蓮見は若葉にキスをした。

若葉は一瞬で離れると、恥ずかしくなって俯いた。


「…これでまだ真っ赤になるなら、大丈夫かな」


「え?」


「なんでもないよ。文化祭終わっちゃう?」


蓮見は若葉を抱いたまま腕時計を見ていた。


「あぁ!ミスコンの結果!いこ!」


若葉はすくっと立ち上がり、蓮見の手を両手でとった。

蓮見が立ち上がると、またキスをする。

若葉はまた真っ赤になって固まりそうになった。


「じゃ、行こうか」


しれっとした顔のまま、蓮見は若葉の手を取って、廊下を歩いて行った。若葉は、真っ赤になった顔のまま蓮見に手をひかれていた。このまま誰も横を通らないようにと、それだけを祈っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ