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文化祭編 2

楓は、衣装をきたまま、尊美と合流し屋台を回っていた。


瑠奈に透からの伝言を伝えると、瑠奈は心配しすぎだよと笑いながらすでに着替えていた。


楓は話しかけられたら受け答えしつつ写真を一緒にとったり、握手したりしてやっと食べ物にありつく。湊と久しぶりに話した。


キスシーンがあると聞いたのは、今日の朝だった。胸がモヤモヤする変な気持ちになったが、気にせずに過ごしていた。


しかし、湊に面と向かって会うとつい強がりをいってしまう。


聖和の敷地につくと、バスケ部に向かった。聖和には、外部からきているだろう女子が沢山いた。


楓はあまり興味がないが、ここはイケメン揃いという評判だ。楓はまだ男装した格好をしているので、聖和の学生と間違えられていた。それに気にすることはなく、楓は尊美と歩いていく。


先に買っておいてもらうように透に頼んでおいたので裏に回った。



「やっほー」



バスケ部の二年生に声をかける。一年生は二人に丁寧に挨拶をしていた。楓の姿に二年生の男子は驚いていた。



「お前、本物の男じゃん」



「だろだろー?」



楓は胸を張ってきた。いつもの大きい胸はさらしで隠れている。一緒にいた尊美は苦笑いを浮かべていた。


普通にしていても男の子に見られがちな尊美が、今日は磨きがかかって声をかけられる。楓の格好がそうさせている。


尊美は髪の毛を伸ばし始めたがまだまだ襟足に届く程度だ。瑠依に告白されてからまだ友達という関係で、自分の髪の毛がもっと伸びたら自分から告白すると決意していた。


楓は尊美と自分たちの部活の屋台のことについて話しながら待っていると、透がビニール袋に入っている焼きそばを渡した。


楓はお金を払う。そして透は楓に聞いた。



「湊のロミオ見に行くの?」



「いくいく」



楓は中身を確認し、美味しそうと漏らしていた。



「尊美ちゃんも?」



「うん、僕は明日の方が忙しいから」



尊美に透は笑いかけていた。尊美は顔を赤くする。



「結構混んでるんじゃない?」



「あー、そうね。湊だしね。食べたらすぐ行くよ」



楓はそういうと、尊美に行こうかと言って、来た道を戻っていく。



「あ、尊美じゃん」



瑠依が、尊美の手をとってつないできた。楓の姿に一切突っ込まず、尊美に視線を落としていた。


瑠依とは普段同じくらいの身長(と瑠維はいいはるが、楓の方が少し高い)だが、


今日は楓が瑠依よりもかなり高いところに頭がある。



「瑠依!?」



「メッセージ送ったのに、無視すんなよな」



尊美はこれから部活の方の仕事がある。


それまでは世話しなく、部活の屋台にでており、これからロミジュリ劇の練習に同行し、演劇のチェックをしにいくのだ。



「ごめん」




尊美はスマホを確認する。




「いいけど、明日まわれる?ってメールしただけだし」



「あー、午後なら」



「やった。じゃぁ一緒にまわろ。迎えに行くわ」



楓を差し置いて、二人の世界が出来上がってきている。楓は割り込んでいった。



「ちょっと、あたしが尊美と回ってたのに茶々いれないでよ」



「はぁ?てめーどこのチャラ男だよ」



瑠依は楓に向かってそういった。楓とわかってわざとそういっていた。



「わー、むかつく!」



「思ったことをいったまでだ」



「まぁまぁ、瑠依は、これから劇見にきてくれるの?」



尊美が二人を止めて、瑠維に問うた。



「あぁ、友達とあっちで待ち合わせててさ」



瑠依はそういいながら、スマホをチェックしている。



「あたしも行く、一緒にいこ」



はいはいと手を挙げて楓がいうと、瑠依は明らかに嫌そうな顔を浮かべていた。



「うわー、傷つくなー」



「お前のその容姿のが、この世の男を傷つけてるわ」



「あー、ごめんね?かっこよくて」



楓は悪ぶりもせず、手を合わせていた。



「ほんと、お前にかなう男は湊くらいしかいないな」



「なにいってんの!湊にも負けないよ!」



楓は意地になっていた。清蓮学園の校内につくと、尊美は走って部活の屋体にいった。


楓と瑠依は体育館に向かう間は、話題を変えて盛り上がっていた。


瑠依は友達を見つけて席に向かい、楓は小春の姿を見つけてそこに向かった。


席は込み合っている。他校の女子が沢山集まってきている。


女子の声がざわざわと騒がしい。小春はふて腐れている様子の楓に言った。



「あんたが張り合ってる相手はこれくらい人気者なのよ。自覚してたんじゃないの?」



楓はなにも言わず舞台を見つめている。拗ねているのが分かりやすく伝わってくる。



「でも、相手役の由美は男子に人気じゃん。男子だっていっぱいじゃん。うちら、これに勝てるかわかんないよね」



「まぁ、シンデレラは、2日目に期待でしょ。クチコミ狙って作ってるし相当な手応えだったもの。


いろんなところに根回ししてるし動員なら負けないはずよ。」



小春は不敵に笑っている。闘争心を燃やしているのだ。



「可愛いだけのヒロインとかっこいいだけの相手役に負けるわけないわよ。


こちとら女子だけで勝負してんだから」



「小春、怖い怖い!」



楓が突っ込むと、ジーっと音がした。そして、司会者がプログラムを発表する。


拍手がなりやむと、語り手が現れた。舞台が開き湊が現れる。



「ほんとは、アクションものとかやりたかっただろうなぁ。湊」



楓はぼそっと呟いた。ロミオとジュリエットなんて、湊からしたら鳥肌ものの作品なのはわかっていた。


まだ戦隊ものをみているような男である、アクションをやりたかっただろう。


演技は湊がリードしてなんとかなっているが贔屓目を引いても、シンデレラの完成度は高いことが分かる。


小春は湊の演技だけを見ているようだった。楓は湊の様子をみていた。


そして二人のキスシーンに映ろうという展開になってきた。声が沸いてくる。やめてーという声が男子からも女子からも沸いてくる。


声が幾重にも重なり、演技が進行しなくなる事態までいたってしまった。


楓は最初は黙っていたが、ぷちんと何かが切れた。立ち上がり司会者のいる場所までマイクをとりにいった。




「うるさーい!!」



きんきんとノイズもはいるなか、楓は続けた。



「あんたら全員なんなのよ?!演技でしょうよ!!芸能人だってドラマでキスくらいするわ!


 立派なファンはね、演技見て凄いって思いなさいよ!」




楓はそういうと、ふんとマイクをおいた。小春がくすくすと笑っている。


楓は立ち去ろうとする前に湊の前に歩いて行った。



「あんたもね、躊躇ってどうすんのよ!!男らしくしろっつーの!」



楓は湊を睨み付け離れていった。湊はおどけたような表情を浮かべてから笑っていた。



「ほんと、もってくよなぁ。人の気持ち」



湊はそういうと由美をみた。そして、顔を近づけていく。


しかし唇が触れたのは頬だった。演技は続行し、最後まで終わると拍手喝采になった。


空気を乱した楓は、すぐに我に返り、体育館から出ていってしまったので、最後まで見ることはなかった。


楓は走って屋上へ向かっていた。



湊は舞台から引き上げるとすぐに体育館に向かった。しかし楓の姿はなく、小春を見つけた。



「あ、小春ちゃん」



「あら、奥出くん。楓ならいないわよ?出ていったわ。・・・多分屋上かな」



小春はぼそっとそう言うと、湊は笑って見せ、もうスピードでいなくなった。



「ロミオの本命は男装女子なのね」



小春は不敵な笑みを見せながら湊を見送った。




楓は体育館から人気のない屋上に上がり座り込んでいた。またやってしまった。


自分の悪い癖だ。思ったことはどうしても言いたくなるし周りも気にならなくなる。


それで、言ったあとに恥ずかしくなるなら、言わなければいいのに止まらない。


体育座りをして踞っていると、頭に大きい手がのった。


そして、自分のサイズよりも大きい羽織りものがかけられて、隣に人が座る気配がした。楓は顔をあげないまま言った。



「ごめん、邪魔して」



「いいって、お前のおかげで無事終わったから」



「…正直負けてると思った」



「なにいってんだよ。お前らのシンデレラには負けたわ。完成度高すぎ」



湊は恥ずかしそうにしていた。楓は顔をあげた。



「あたし、いっつもそう。言いたくなっちゃうと止まんないの」



「俺はそういうところが楓の長所だと思うけど?そういうところが好きなんだよ」



さらっと言ってのける湊に楓は真っ赤になるしかなかった。湊の腕をこずいて、また顔を伏せた。



「あーもー、調子狂う!湊、これから言うこと、黙って聞いててよ?」



「わかった。じゃあ、手だけ繋がせて。お前逃げそうだからさ」



そういう前に、湊の手は楓の手を握っていた。楓の手は冷たく、少し震えていた。


湊の手の温かさで、少し安心したようで、安心していた。



「…あんたに張り合おうって頑張ったのに、結局あんたの劇見てて応援してた。


いつだって、湊は私のずっと前にいるからやっぱりかっこいいね


キスシーン……は……」



楓は躊躇った。伏せているが耳まで真っ赤になっている様子が湊にはわかった。


抱き締めたい衝動にかられるがぐっと我慢し、楓の言葉を待っていた。



「ちょっと、ちょっとだけ………」



「え?」



聞き直そうと湊がそう相槌をすると、楓は困った顔をみせた。


そしてその顔のままもういい!と言って顔を真っ赤にしていた。


湊は抱きしめたい衝動に駆られていたが、楓の手をぎゅっと握るだけで我慢した。


湊はくしゃっと笑って、楓のウィッグをとった。


男っぽく見せるためにメイクされた顔も湊にとっては可愛い女の子だった。



「楓がどんなにシークレットブーツ履いて、ウィッグをつけて男らしくメイクしたって、楓は女だよ。本当にずるいよな」



「………なんか、そういう優しいとこがモテるんだね」



「俺は、お前だけに好かれたいんだけどね」



楓は返す言葉が浮かばず困っていた。



「………ほんとは抱き締めたいとこだけど………」



湊はそういうと楓の手にキスをした。楓はキスされた右手に握力を入れた。


湊はゆっくりと楓の手をはなした。そして頭をぽんと撫でた。



「一緒にまわろうぜ。明日はどうせお互いミスコンやら劇やらで忙しいんだから」



湊は立ち上がりながらそういった。楓も手を気にしながら立ち上がった。


二人で初日の文化祭を楽しんだ。


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