文化祭編 1
「文化祭、今年は去年より楽しそうだね」
優衣は、お昼を食べながら楓にそう話した。楓は味噌汁を飲みながら冷静に去年の学園祭を思い出していた。
「去年もなかなか面白かったけど?」
「もーっ、違うでしょ?そこじゃないでしょ!」
今年の文化祭は、隣の男子校と共同で行うのだ。3年に1度のイベントが華の高校2年生で行えることに優衣は心を踊らせていた。
「まぁ楽しみだけどさ、盛り上がるなら女子だけでも充分だったじゃん」
優衣はもーと言いながら、頬を膨らませていた。小動物のように見え、楓は優衣の頭を撫でていた。
「わー、優衣はリスみたいだね」
そしてまた食べ始める。優衣はぷくっと膨れながらたべていた。
「今回は合同でやるから、あっちの1クラスと合同企画もオーケーなんだよね。楓ちゃんたちは合同なしにしたんでしょ?」
楓は、おかずを口に入れた。
男子校の同学年のクラスで合同企画をしてもいいとされている。どちらかから打診があり、交渉して協力して取り組むことになる。楓のクラスである2年3組は早々に自分たちでやるとお断りしていた。3年に1度のイベントだ。ほとんどのクラスは合同で出し物をする。
「私のクラス、歩夢くんのクラスと合同なの!!!」
優衣は嬉しそうにしているのは、優衣の彼氏だからだ。共学じゃないけど、このイベントがあるからずっと楽しみにしていたらしい。楓は食べ終わり、手を合わせてごちさそうさまと丁寧にいい肘をついて優衣をみた。
「歩夢くんとなんかあるの?」
「ううん、私は衣装係だから、歩くんは人前苦手だから大道具だし。でもねでもね、劇なんだけどね、湊くんが王子さまなのー!」
楓は心底どうでもいいという顔をしていた。バスケ部と、自分のクラスの出し物でいっぱいいっぱいだし、湊の話題は今はしたくない。
準備期間でみんなそわそわしているしら共学じみた様子が伺える。楓にとっては面倒くさいとしか思えない。
楓のクラスは合同で参加はしなかったのは、そういうわだかまりも面倒くさかったからだ。早々に女子だけで劇をやりたいといったのは小春で、弓道部で大変なくせに、監督を申し出ていた。スケジュール管理の上手い小春は、文化祭一週間前の今もうまくやっている。シンデレラをするのに、クラスで一番可愛い荒井咲里とクラスで一番男らしい楓が主演になるのだから、噂は飛び交っていた。それも、文化祭で何をやるか話し合いの段階からかなり計画的に練習も行われてきた。
「興味なさそー」
「あたし文化祭実行委員やってバスケ部で屋台やって、クラスで劇やって大変なの」
他のことはなるべく考えたくないということをいっているのだ。湊がライバルなら、対抗心もわくというもので、楓は練習を張り切ることにした。食事を終えると、午後の授業があり、その後は練習だ。この期間は部活がないのでかなり練習に入り込める。楓は女子校では王子さまと崇められるような存在だ。隣に聖和があるからちょっと薄れてしまっているが、人気はかなりある。文化祭まで後2
週間、舞台で湊をギャフンと言わせてやるというのが楓の目標である。それに、ミスコンは自分が司会者だ。その場で湊のことはぎゃふんと言わせてやると何故か闘志を燃やしていた。
優衣のクラスは、隣の聖和に向かい、そこで練習をする。ロミオとジュリエットが演目である。湊が王子さまなら、お姫様はミスコンにでる梓にするはずだったが、梓は生徒会で忙しい身の上であるので諦めてられた。
クラスで一番綺麗な子にしようと投票した結果、稲代由美になった。練習はいつも聖和の2年A組で行われる。役者メンバー女子たちは目を輝かせていた。聖和は美男子が多いと有名だったがまさにその通りだった。
裏方は協力しているが喧嘩が絶えないところと、仲良くやるところは半々くらいだった。それは、清蓮の教室で行う。もう、合同練習も何回も行われている。練習中、湊の存在感は絶大だった。秀才の湊は女子の心を掴むのも上手く、接し方をわかっている。由美は湊を意識しすぎており、なかなかしっかり演技が出来なかった。湊はできなくても優しく言葉をかけフォローすることが多かった。優衣はその様子をそわそわと見ていた。練習の度に、湊は由美と深い仲になりそうな雰囲気を醸し出していた。楓ちゃんがいるのにと、心で呟いてしまう。
「中学の時付き合ってたみたいだよ?」
謎を解決したのは、楓の言葉だった。
夜の大広間で優衣と話していた。
「相手にとって不足なし!!!絶対負かしてやるんだから!」
楓はそういうと、楽しそうな顔をしていた。楓のクラスは絶好調らしい。残り2週間、出来映えは由美にかかっている。楓は伸びをして、じゃぁと部屋に戻っていった。
「人気とられちゃうかなー…」
ソファーに体育ずわりをして優衣が息をつくと、瑠奈がお風呂からちょうど上がってきたところだった。髪の毛をタオルで丁寧に吹きながら苦笑を浮かべていた。
「楓の強がりだよ。この間喧嘩しちゃったの。仲直りしたいのに出来ないのが、あぁなったんだよ」
瑠奈は、優衣の隣に座っていた。綺麗に伸びた黒髪を丁寧にタオルで拭いている。
「瑠奈ちゃんは、劇に出るの?」
優衣は瑠奈にそう尋ねた。
「うん、魔法使いだよ。小春が面白くしてくれてるから、頑張ってる!私はロミジュリ楽しみだよ。私は湊くんのファンだからね」
楓も実は楽しみにしてるみたいだし。と付けたし、瑠奈はにっこり笑っていた。
楓はベットの上に腰かけてスマホを見つめていた。履歴なし。これで湊と喧嘩して九日目だ。毎月恒例のお好み焼きの日だった。瑠奈と透がいるところを捕まえて四人で仲良く食べている時だった。
「そういや、文化祭の出し物なにすんだよ?」
湊がそういった。瑠奈が答える。
「笑って泣けるシンデレラだよ。楓が主演なの」
「へーこいつがお姫様なんだ」
「違いますー、王子さまですー。湊は?」
楓は胸を張っていた。透が笑う。
「俺は優衣ちゃんのクラスと合同でロミジュリ」
透はクスクス笑っていた。
「透くん、なんで笑ってるの?」
「湊が選ばれた理由が、学校1かっこいいからなんだよね」
湊は恥ずかしそうにしていた。透は別クラスで合同で占いをするらしい。楓はからかい半分で湊を茶化す。
「流石、違うねぇ。雑誌に取り上げられちゃうお方は」
楓はかっこいー、いいなーと茶化し続ける。湊の堪忍袋の緒が切れるタイミングを透は悟っていた。ぷちん、と切れたのがわかったが様子をみようと二人を見ていた。湊は箸をおいて楓の方をむいた。
「はっ、まぁ男なんで、似非王子には勝ちますよね」
「似非って誰のこと?」
「誰とはいってねーよ」
湊は見下すような失笑を浮かべた。瑠奈があわあわし出す。
「………いや、その目が訴えてる!私じゃ不服だってゆーの?!自慢じゃないけど、バレンタインデーは湊に負けないくらい貰ってる自信ありますー」
「へー、そんなかっこいい楓ちゃんは、雑誌に取り上げられた後の苦労も知らずにうらやましがってんですか?」
「ちっがいますー!!!」
楓はテーブルを思いきり叩いた。瑠奈が止めにはいる。
「ちょ、落ち着いてよ」
「「瑠奈は黙ってて(ろ)!!」」
瑠奈はしゅんとした。二人の勢いにやられた。透が笑顔のまま立ち上がり、二人の頭をもって、図つきさせるように思い切りくっつけた。二人は悶えていた。
「ねえ、いま瑠奈に何かいった?」
透はにっこり笑っていた。瑠奈は本気で痛がっている二人の様子をみて止めた。
「透くん、そんなにしなくても、、、」
透は二人の頭から手をはなした。瑠奈は苦笑いを浮かべていた。透は本当に頭にくると、笑顔で怒る。二人ともおでこをさすっていた。透は座って瑠奈に言う。
「瑠奈は、毎回いうけど、そこのバカ二人に優しくする必要ないよ。もう、今日は帰ろっか」
透は瑠奈の腕をつかんで立ち上がらせた。瑠奈は困惑する。
「え、でも……」
「いいから送ってくよ。君たちは、反省しろよ」
瑠奈は二人を横目で心配そうに見ながらも、透に肩を持たれてお店から出ていった。
「あんたのせいよ!」
楓は八つ当たりをした。湊は言い返す。
「俺はこれから透のお説教をくらうんだからな!お前のぶんまで!!
あいつ、笑顔で怒るのが一番切れてる証拠なんだよ!!!」
内容は二転三転したがこじれにこじれて、喧嘩したまま寮に戻ったのだ。そしていまに至る。引くに引けない状態になってしまった。しかし、元カノと共演するということで心につかえるものがあった。告白されたことを、楓はすっかり忘れている。それに、楓にとって湊はただの友達で不安なんて思うのはおかしいことである。
「こんな長期戦初めてよね?由美に心奪われたのかしら?」
髪の毛を乾かし終わり、ずっと楓の様子を見ていた小春は、本を取り出しながら探りをいれるようにそういった。
それが、楓を正気に戻す。
「はっ、奪われちゃえ!」
みるからに動揺した楓は、そわそわとスマホを覗く。小春ははーとため息をついた。
「あんたさ、私には素直になれって言っといて、自分はどうなのよ?湊くんと仲直りしたいんじゃないの?」
小春は心配そうにいった。楓は体育座りをして顔をふせた。楓が何を考えているかは簡単には理解できた。一年半も一緒にいる小春であれば余裕のことだ。
「今週の土日が文化祭だし、あんたもそのときになれば素直になるでしょ」
小春はそういうと、化粧水を顔に塗っていた。楓はうつぶせたままの顔をあげて一点をみつめた。
文化祭初日をむかえた。湊は朝から歩夢に起こされて、不機嫌そうに着替えていた。楓と喧嘩をして2週間こんなに話さないのは初めてだった。それもあり、そうとうストレスがたまっている。
「おはよ、湊」
食堂にいくと、透が涼しい顔をしていた。透は瑠奈の魔法使いが楽しみでならないのだ。
「はよ…」
透は湊の死相を見えるような顔を見てぎょっとした。湊は先にテーブルについて食べ始めていた。
透は食事をもおいて、歩夢に尋ねた。
「湊が死にそうな顔してるんだけど?」
「稲代が演技できるまで付き合って昨日帰ってくるの遅かったんだよ。昨日の今日でキスシーン追加された挙げ句、稲代に全員の前で告白されて、囃し立てられてた」
たんたんと答えると、歩夢はそのまま湊の隣に座って食べ始めていた。透は納得した。2週間前までは部活があり、湊はそうとうストレスを感じているが発散はできていた。しかし、部活がないとなると、ストレス発散するところはないようだった。稲代由美と湊は中学生のときに付き合っていた。女の子らしい性格で、大人しく穏やかである。こちらでも人気が高い。透はため息をついて、湊の前の席に座った。
これを立ち直らせられるのは楓だけだ。
ガツガツと無言で食べている湊はやつれていた。
「そんなんじゃ、楓に負けるんじゃないの?」
湊の闘志に火をつけさせるように透はわざとそういった。
「そんな死相を出してるような王子さまじゃ、似非王子にも勝てないなぁ」
「勝つ!」
湊は両頬を思いきり自分で叩いていた。そして、生気をとりもどしきりっとした顔をしていた。
文化祭が始まる。両方の学校を行き来できるようになっており、どちらも敷地の広い学校なので人の入りと言うのはかなりある。楓は衣装をきて宣伝にまわる。役割分担をして楓は瑠奈と一緒に清蓮側をまわる。看板を持ちながら、友達や後輩などに話しかけてまわる。そこで、優衣に鉢合わせた。優衣は、クラスTシャツを来ていた。
「あー!楓ちゃんかっこいい!ウィッグつけてるの?」
楓は、ショートヘアーのウィッグをつけていた。
さらしまで巻いて本当に本格的な男装をしている。瑠奈は紫色のミニスカワンピースドレスをきて、黒いタイツに黒いブーツを身に纏っていた。
「二人とも写真とろう!」
優衣は二人を捕まえて、クラスの子にデジカメで写真をとってもらっていた。
「優衣はでないんだっけ?」
「そうなの、衣装係だから。ロミジュリは午後だから、まだ時間あるの。これからあっちで確認するよ」
楓はへーと言っていた。そして、回りを見ると意外ともう男子も来ていた。楓はキョロキョロ知っている男子を見つけて話しかけにいく。
「瑠奈ちゃんの格好せめてるよね」
瑠奈は真っ赤になっていた。メイクもされて髪も巻かれている。いつものお淑やかそうな瑠奈と違い、大胆でセクシーな印象になっていた。 瑠奈の新たな一面がかいまみえる。胸元も見えそうであった。楓と歩いていると、そこまで気にならなかったが、瑠奈は恥ずかしさが倍増した。
「あ、瑠奈」
透の声だった。透のクラスも女子クラスと合同で占いをするらしいが、案内役で普通に学ランを着ていた。透は瑠奈を後ろから抱き締めていた。瑠奈はキャッと声をあげていた。
「なんでそんなかっこしてるの?魔法使いってまさかこれ?」
「……監督と衣装の方針で…」
瑠奈は真っ赤に頬を染めていた。透は嫌な顔をしていた。
「その服で歩き回ってたの?はしたないよ」
透はかなり怒っていた。瑠奈から離れてスカート丈をみていた。瑠奈は恥ずかしそうに後ずさった。
「大丈夫です。すぐ着替えるし。それより、11:30から笑って泣けるシンデレラ、よろしくお願いします」
瑠奈はお辞儀をして持っている看板をみせた。透はあっと思い出したようにスマホを取り出した。
「優衣ちゃん、撮ってくれる?」
優衣は透のスマホを受けとると二人を撮った。ちょっと羨ましかった
「あ!瑠奈いかないと」
戻ってきた楓が二人を引き裂いた。
「何するんだよ」
透がそういうと、楓はびっくりした。
「あ、楓?なんだ、変な男かと思った」
「いいできでしょ?」
楓は胸を張っている。シークレットブーツで、透ともそこまで身長差がなくなっていた。かっこいいと言わざるを得ない。瑠奈は腕時計を見て、はっとしていた。
「楓、クラスに集まる時間になっちゃう!行こう!」
瑠奈は楓の手を引いて歩いていく。透はしゅんとした顔をしていた。優衣は苦笑いを浮かべる。
「瑠奈ちゃんに優しい彼氏がいてよかったよ」
優衣に嬉しそうにいった。透は苦笑いを浮かべる。
「僕は、瑠奈に自信つけて欲しいんだよね。
付き合ってまだ2ヶ月ちょいだけどさ、瑠奈は自分に自信ないから、僕と付き合っていいのかなとか絶対今も考えてる。それを崩せればいいなぁ」
透はそういうと、瑠奈の後ろ姿を眺めていた。
「きっと大丈夫だよ」
「じゃ、僕は戻るね。明日はロミジュリ見られるから」
透は優しく笑って、優衣に手を降った。優衣も自分の持ち場に戻った。
楓と瑠奈は、清蓮学園の体育館に集まっていた。深呼吸をして、客入りを見ると、結構な数の人数がいた。はっと目にしたのは、明俊と紅葉が最前列にいるのをみかけた。小春は仁王立ちで劇を見ている。小春は、客入りを脇から見て、ふーんと言っていた。1人でクスクスと笑い、ぶつぶつ呟いている。楓は鏡で自分の格好を確認してから、小春の隣から客席をのぞいた。そこまで混雑というわけではないが、満席に近い状態ではある。
瑠奈が、楓のシャツを引っ張った。
「ねぇ、楓……小春がちょっと怖いんだけど」
小声でそういうと、楓はあぁと言って答えた。
「あ、大丈夫大丈夫、放っといてあげて。最近ずっと湊たちのクラスに勝つって意気込んでんの。うちのクラスの団結力と、あのクオリティまで導いた小春の力があれば、絶対大丈夫」
「…勝負してるみたいになってる」
「…そうよ。お客さんの票数で賞金が入るじゃない…勝つための策略を練ってきたのよ…」
ふふふと笑う小春の目はお金にくらんだ亡者の目だった。舞台で感動した演目に投票し、その数が1番多いところに賞金が送られるのだ。
「あー……」
瑠奈は納得したような顔をしていた。
ブザーがなり、アナウンスが聞こえてくる。
クラスのメンバーが集まって喝を入れ、本番が始まる。ジーという音で場内を響く。
湊は、音が鳴り響く体育館に入っていった。席を探していると、丁度見やすい位置に透が座っていた。隣には誰もおらず、湊はすっと座った。
「お、湊」
湊はシーと人差し指を口の前に置いた。
透はすぐに黙ると、舞台を見ていた。
主人公は、楓のクラスで一番面白いと言われる女の子らしい。なかなかの演技力である。小春が2ヶ月以上かけてビシバシと鍛えていたらしい。
これは、透伝いに聞いた話だ。完成度も高い。
瑠奈も、恥ずかしがりもせずに堂々と訳を演じ切っていた。
「魔法使いっていうか魔女だな」
瑠奈の役どころは、セクシーな美貌をもつ魔法使いである。もとの瑠奈のキャラとは正反対な役どころだった。
「そうだね。スカート短すぎるし、挑発するような格好だよね。」
透の笑顔はひんやりとしていた。
湊は、通路の後ろにいる男が異様な目で瑠奈を見ているのに気が付いた。洞察力の高い透のことだ。最初から分かっていたのだろう。
舞踏会の場面で楓が出てきた。楓は男装メイクをして、もはやイケメンになりすましていた。シークレットブーツも履いているようだ。
推定175センチだろうか。踊っている姿も様になっている。小春にしごかれたおかげでだろう。女の子とは思えなくなりそうで、黄色い声が上がっている。湊は見ていて少し腹立たしくなった。楓にというわけじゃない。絵になるような二人に、だった。
「…ほんと、楓っていろんな人にモテるんだね」
周りの声を意識しながら透は笑っていた。湊は腕を組んでいた。本当に王子様のように見える。劇は続く。女子校での楓の評判が伺えるほど、まわりの見に来ている女子は、ときめいているのがわかった。今の楓は本当の男の子に見える。
「あいつは、ドレスのほうが似合うのにな。むねもあるし」
湊はそうつぶやいた。
「それは、喧嘩した時に言えばよかったのに」
的確なことをいう透に、湊はまぁなと言っていた。楓を前にするとどうも感情的になりがちで、普段人と接しているときには出来る配慮も難しくなる。それくらい、気のおけない仲になってるのだろう。劇が終わると、拍手喝采だった。笑って泣けるシンデレラなかなか面白かった。透はすぐに立ち上がった。
「僕すぐに部活の方にいかないとなんだ。魔女のままいないでねって言っといて」
「了解」
そういうと、透は体育館から出て行った。次の演目になり、湊も立ち上がる。楓のところに向かった。楓と顔を合わせるのは、二週間ぶりになる。13:30からの劇の集合は13:00だ。それまではまだ少しだけ時間がある。舞台から出てきた楓たちは、そのまま自分の教室に帰って着替える。湊は玄関に周り楓を待っていた。視線を集め、話しかけられそうにもなったが、全て断った無視。楓は女の子に話しかけられながらも、その対応をしたり、中学の時の友達に話しかけられている姿があった。
「おい、楓」
そう声をかけると、楓は湊の方に視線を向けた。
「あ、湊」
立ち止まった楓はそういうが笑ってみせた、だがすぐ思い出したようにプイっと視線を反らした。
湊は近づいて行った。身長の差はまだある。湊の方が10センチくらい高い。見上げるのが悔しく感じ、楓は横を向いたままだった。
不貞腐れた顔をしている。
「なんかよう?」
「…今日の13:30から、お前見られんの?」
「見るよ!チューするんだもんね!由美と!」
楓はべーと舌を出していた。まるで、やきもちでも妬いているかのような感じだった。
湊はその楓の反応が可愛くてくすっと笑った。
人が通り過ぎていくなかで、二人は視線を集めていた。しかも、楓の一言によってさらに野次馬が増える。
えっ、湊くんキスするの?という声が飛ぶ。
仁王立ちで腕を組み、楓は視線を湊に向けずに怒った顔をして明後日の方向を向いていた。
「透から瑠奈ちゃんに、早く着替えろって
俺から、やっぱりお前はかわいいな」
「っ!!見てたんじゃないの?!これ、かっこいーでしょ??」
楓はむきになって顔を見せつけていた。湊はぽんと楓の頭に手を置いた。まるで子どもを諭す親のようだ。
「はいはい、わかったよ。絶対来いよ?」
湊はそういうと、楓よりも先に出て行った。
楓は湊の後姿を見ていた。