楓と湊 5
湊に告白があっても楓と湊の関係は変わらなかった。湊が態度に出さない限り、楓は意識をするということもあまりない。
今日は、二人きりで、お好み焼きを食べ聞いていた。土曜日の夜、連絡を入れてきたのは湊だった。
「今日は練習試合だったんでしょ?瑠奈が行ってたみたいだけど」
今日は透のためにと練習試合を見に行ったそうだ。楓は文化祭にむけたクラスの重要な話し合いに参加していた。瑠奈は免除されていた
「あ、来てたなぁ。透が俄然やる気出してた。毎回瑠奈ちゃんが来てくれたら、あいつのモチベは維持できんのにな」
湊は、出来上がったお好み焼きを切り分けていた。楓はあははと笑っていた。
「大事な司令塔さんだもんね」
湊が取り分けたお好み焼きを楓のお皿に乗せた。楓はそれを一口頬張った。
美味しいと一言言って、続けて食べる。
「楓はクラスどうだった?」
楓はもぐもぐとお好み焼きを食べていた。
反応はするが、食べ終わるまでは口に手をあてていた。
そして飲み込むと、唇にソースを付けながらいった。
「んー、秘密よ、ヒ・ミ・ツ」
楓はにっと笑っていた。二人で食べに来るのは、だいたい2週に1回で、そこに友達が加わったりもする。今日は久しぶりに二人きりで会っていた。湊にとって、アプローチをかけるチャンスだ。湊は連絡をするのにもかなり勇気がいるようになった。平然を装うのが上手いだけで、基本は普通に片思いしてる健全な高校2年生なのだ。しかし楓は告白を忘れて普通に答えてくれていた。それは、湊にとって嬉しいのか悲しいのか分からないことだった。今まで恋愛をしてこなかったわけじゃないが、自分からアプローチなんてしたことはなかったので、どうしたらいいかわからない。湊はどうしたら意識してもらえるのか分からないまま、あがくことも出来ていない。仲良く話していると、楓に声がかけられた。
「あれ、楓じゃね?」
楓ははっとして声の方に向いた。そして顔を明るくする。
「あ!乙哉」
楓は立ち上がり、乙哉と呼ぶ男子とはいタッチをしていた。格好がジャージである。楓は湊に紹介する。
「舟木乙哉、あたしと同中のバスケ部!海南高校のバスケ部だよね」
「よろしく、俺は知ってるよ。今日の練習試合もあたったよね?奥出くんは有名だから」
乙哉は笑顔を浮かべていた。湊は、握手を求められ応じていた。
「なんでいるの?!」
「2年だけできてんだよ。打ち上げみたいなもん」
「へー、座んなよ!」
楓は自分の荷物を退かし、乙哉を隣に座らせていた。二人の仲を見ながら、湊はふて腐れたように、お好み焼きを食べていた。
乙哉と楓は隣同士で座っているので、距離も近い。目の前にいる湊はそれをただ見るしかなかった。楓は湊も交えて話している。
「乙哉は、バスケ部女子に人気だったよねー。」
「楓だって、女子にもててたじゃん」
乙哉の視線は、楓にいつも向かっていた。湊はその様子を見て、面白くないと感じていた。こいつも好きなんじゃないか。楓はどこまでも明俊しか見ていないから、ほんとに気づいてないだけじゃないか。中学校で同じだった他の高校にいった友達にも楓の話をきくと、やはりひそかに想ってる男子は多いようだった。湊と乙哉が視線を合わせると、乙哉は笑顔を向けていた。
「楓が女子校行くって聞いて、皆驚愕したもんな。しかも、名門校だし、こいつがお嬢様校いくとか、考えらんなかったよな」
「へー、確かに」
湊は飲み物を口にしていた。乙哉と楽しそうに話す楓が許せなかった。ただの嫉妬だ。楓が男子と仲がいいことは、分かりきっていることだ。湊は二人の顔をぶすっとした顔で見ていた。乙哉はその様子を逃さずにいた。
「楓さ、そう言えばなんで奥出くんと一緒にいんの?」
「え、仲良くご飯だよ?」
ねっと満面の笑みで湊と視線を合わせていた。乙哉は顔を曇らせていた。やっぱりだ、と湊は思った。楓のことが好きなやつが蔓延っているではないか。
楓はまた新しくきたお好み焼きを作る。
乙哉は楓の作る姿と、湊を見比べながら言った。
「へー、仲良しね。奥出くんは、彼女いるんだもんね」
湊が反応するよりも先に、楓が反応する。
「え?「いないよ、フリーだよ」」
湊はかぶりぎみで楓に反応した。
「え、いないの?」
乙哉は意外という顔をしていた。湊は肘をついて、ため息をはいた。
「いないよ、俺が好きなのはお前だって知ってんだろ。楓」
「あ、そうだったっけ?忘れちゃったなー」
楓はしらばっくれていた。こういう話はほんとに、からっきしだめなのたま。動揺して、お好み焼きを引っくり返すのを失敗する。
「なにしてんだよ」
湊は楓からヘラを取ると、綺麗に形を整えていた。
「あ、ごめん……」
楓は真っ赤になっていた。乙哉はへーと楓の顔を見て言った。
「俺も、楓好きだったんだけどな」
「こんなタイミングで冗談やめてよ!笑えないよー」
楓は笑っていた。しかし、動揺が見られる。そわそわした様子が伺えた。
「そっかそっか、わかった。もう止めよ。湊も乙哉もこの場では止めよう。あたしは混乱してる。この場から立ち去りたいので、帰ります。さようなら」
楓はそういうと、席をたって一目散に逃げていった。湊も乙哉も追いかけようとはしなかった。乙哉は、笑顔を見せる。
「で、奥出くんはさ、楓じゃなくてもいいよね?もっと他の子探してよ」
湊は、お好み焼きを食べていた。
「俺は引かないよ。引くわけがない。あいつの心に入れること、虎視眈々と狙ってんだからな」
「ふーん、まぁでも、楓のことが好きなやつなんて、ごまんといるから。俺だって負けないよ」
そういうと、乙哉はふっと笑っていた。そして立ち上がると部活のメンバーのもとに戻っていった。湊は、差し迫るものを感じていた。自分以外にもいる。それは頭ではわかっていたはずなのに、実際に会うと、こんなにも褪せるものなのかと思った。
そして食べ終わると、お代を払ってお店から出た。
楓は寮に入ると、すぐに自分の部屋に戻った。小春が机の前で読書をしている。
突然ただいまも言わずに入り、小春の机にスマホを置いた。
「なによ?」
「これに電話かかってきても、楓はいません。後日くるようにって言って」
「あんた、バックは?」
「いいの。混乱中なの」
楓はベットに飛び込んだ。ふて寝をしていると、案の定電話が掛かってきた。小春はため息をついてから電話に出た。
『楓、お前にバックもってきたぞ』
「楓はいません。後日かけ直してください」
小春が棒読みでそういうと、湊はため息をついてから言った。
『小春ちゃん、俺はもう君たちの寮の前にいるんだよね』
小春は立ち上がり、窓から外をみると、湊が手を降るのがみえた。
「楓、手遅れだ」
スマホをを楓の顔の横に置いた。
『おい、楓!!お前顔出さないなら、俺居座るからな?』
楓は渋々も立ち上がり、部屋からでていった。門を出ると、湊が腕をくんで待っていた。楓は俯いて顔を合わせないようにしている。
「ほら、バック」
湊が差し出すと、楓はそのバックで顔隠した。
「ありがとう」
お辞儀をする。
「今日はこれで」
楓がそういうと、湊はすぐに楓の腕を掴んだ。
「これでいいわけないだろ」
「だって、今は会いたくない。話したくない。気持ちの整理させてよ。
乙哉まで変なこと言うし、いまそれで頭混乱中。
乙哉はずっと友達だったし、いきなりすぎて、乙哉は変だったし。中学のころは一緒に可愛い子みて、はしゃいでたのよ、なんで?」
「乙哉乙哉、乙哉のことばっか」
湊はそういうと、楓から鞄をとって肩に手をまわした。そして、キスをする。楓は驚いて目を見開いていた。
「ちょっ………」
有無を言わさずに、湊は離れようとはしなかった。抵抗するがびくともしなかった。
楓の脳は麻痺しそうだった。離れると、湊はまっすぐに楓を見ていた。その表情には焦りが見られる。
「お前、乙哉乙哉うるさい。俺だけを意識すりゃいいんだよ。焦ってんのは俺なんだ。お前のこと好きなやつなんてごまんといる。
実感したら、お前を俺であたまいっぱいにするしかないだろ?」
そういうと、もう一度キスをしていた。
何回も繰り返される。楓は離れた瞬間に、湊の頬を押さえていた。
「許可なく何回もキスしないでよ!!」
楓は唇を押さえて湊を睨み付ける。しかし、湊も引かなかった。
「わたしのキス、、、大事なファーストキスを渡してしまったのに、さらにしなくても」
「お前のなかにいる明俊さんは、いついなくなんの?ほんと、たまんねーよな。
好きなやつの好きなやつが憧れの人で、お前のこと好きなのに、お前は見向きもしてくれないし、まじあせる………」
湊は切ない顔をしていた。普段の湊ならもっと紳士的なふるまいをするのに、今日は違う。いつもとは違う様子だった。楓は睨むのをやめた。湊を追い込んだのは自分で、湊の気持ちが分かるのも自分だけだ。楓は湊の気持ちを受け止めようとちゃんと湊との視線を合わせていた。
「もう我慢しねーよ。俺のことでいっぱいになるまで、お前にアプローチする。キスして俺のこと考えてくれるんならそうするわ」
楓は腰湊の手が震えているのにも気がついた。またキスされて楓は腰を行かして座り込んだ。湊はくすっと笑っていた。
「………ざまぁみろ。おれはお前が大好きなんだ。ひかねーよ」
湊はいきなり子どもっぽく笑って見せた。そのギャップに楓は真っ赤になって、視線を反らした。
「…………湊、あたし下ネタだってついてけちゃうんだよ?女の子扱いなんてされたことない。湊だって、お前は女臭くなくていいって言ってたじゃん」
「何回だっていうけど、お前のこと好きなんだって!!!女臭くないって、変にどろどろして、あーだこーだしてないところって意味だよ。お前のこと、大事にしたい。ストレートにこれだけいってんのにほんとお前頑固だな」
湊は真っ赤になりながらも、正直に話してくれた。楓は腰が抜けたままだが、湊を見上げた。余裕なように見えて全く余裕じゃないくせに、ストレートに思いは伝えられる。なんだか、ずるい。
「湊って本当にずるい!…ほんとにずるいよ…!!」
「ずるい?」
「……ずるいんだもん」
湊は?を浮かべながら楓の腕をつかんで起き上がらせた。湊は微笑んでいた。
「何回も唇奪ってすまんな。ずるい俺はまたいつかキスするかもしれないから覚悟しとけ」
素直に無邪気な顔をそういう湊は、子どもっぽかった。やっともとの湊に戻ったような気がして、楓はほっとした。
「楓、じゃあな」
湊は楓の頭をぽんと撫でてから帰っていった。