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Chronus Φ Rave(仮)~クロノス・レ―ヴ~  作者: ニノユメ
第1部 
3/3

1話 バイト初日

※ 要潤 拓哉 ※


俺は1つあくびをする。最近朝早く起きていないせいか異様に眠い。そして寒い。

ブランケットを羽織りながら食パンにかじりつき何となく目に付いたテレビを眺める。

長年続いている朝の情報番組だが、見知らぬ天気予報士が映し出された。いや、そもそも天気予報士自体そこまで意識したことがない。ただ美人でスタイルが良いけどその分皆同じ顔にすら見えてくる。

天気予報が終わった後、アナウンサー達が前の方に立ち、手を丸く輪っかに包むようなポーズをした後番組は終了した。

この番組が終わったと言うことは時刻は8時という事。

もうそろそろ出発しなくてはならない。なにせ今日はバイトの初日。パンを食べ終えて椅子から立ち上がる。


「あら、もう行くの?」


洗面所の方から声がした。

要潤 結衣(かなめ ゆい)。俺と同棲している女性だ。


「もう時間だしな。行ってくるよ」


「気をつけてね。バイト先に行くまでに倒れないでよね」


「あのなぁ、たしかに最近外に出てないし運動もしてないけど流石にそれはないぞ。家からも奇跡的に近いし」


「奇跡的って、単にここから近い場所しか選んでなかったでしょ」


「まぁ……そうとも取れるな。つうかここら辺でバイトの求人してるのあそこの店だけだったけどな」


俺はフックにかけてある黒いジャンバーを着た。


「取り敢えず行ってくる」


「はいはい行ってらっしゃい」


玄関のドアを開けた。

外は冷たい風が吹いていて思わず身震いする。

もうすぐで12月になろうとしているのでこの寒さはおかしくもないが、毎日コタツに入って暑い身体が当たり前になっていたので久々の冬の外出は応える。

一息吐き、白いモヤが出るのを確認した後ジャンパーのポケットに手を突っ込みバイト先へ向かった。







俺の名前は要潤かなめ 拓哉たくや。現在フリーター。

俺は今までで仕事を6回もやめている。

その理由の全ては仕事の覚えが悪いことにある。

何度やっても同じ失敗を繰り返し会社に何度も迷惑をかけてしまっている。それが原因でイジメを受けた事もある。

結衣には心配させまいと何かと適当な理由を付けて辞めたことにしてあるが、さすがに6回もクビになり、その為にいちいちやめた理由を考えるのはなかなか疲れることだ。5度目の退職理由に至っては、


——ミスをして叱られている時についあくびをしてしまい、あ!クビになっちゃったよ。


と、高度な駄洒落を挟んだテクニックも披露したがその時も快く受け入れてくれた。

正直なところ本当は何で辞めたのか結衣は薄々気づいているのかもしれない。

けれど結衣には心配ばかりさせるわけにはいかない。ただでさえ俺は居候の身なのだから。

そう。4年前。

俺は記憶喪失になってしまった。自分が誰で、家族は誰なのか分からなかった俺を偶然出会った結衣が招き入れてくれた。それ以降すっかりこの家に居候している。なので要潤 拓哉というのも本名でなくて結衣が付けた名前だ。

何はともあれ俺の人生は不幸の積み重ねで出来ている。今回のバイト先も新しい就職先を見つけるまで頑張って働こう。

そう、心の中で決心している。







徒歩10分以上ある道を歩き続け、ようやくバイト先についた。そこまで大きくはなく、いや寧ろ東京の周りの高い建物と比べれば小さいくらいのお店。上には店の目印になっているカミツレの花が描かれている。ここが俺が今日からバイトする場所。

喫茶店 カモマイルだ。

ガラス越しに見える店内を覗いたが店長の姿は見えない。聞いた話ではこの喫茶店は店長一人で経営しているらしい。なのでよほどアルバイトが欲しかったのか電話で応募したら面接もなしに電話口で採用された。そして、俺がこの喫茶店に応募した理由は近いのもあるが一番は、


店長だけだからイジメに合わないだろう。


だだそれだけだ。


扉を開けると、ドアベルが店内に鳴り響く。店内はオレンジ色の明るい電気に包まれており、そこまで広くはないので入り口から店全体が見渡せられる。左側にはテーブル席が2つ。正面にはカウンター席が見た感じ5個席が用意されてあり、俺のすぐ右横にレジがある。


「あの〜、すみません」


声を上げて言うとカウンターの下からひょっこり男が現れた。黒髪短髪で、大柄な体型に似つかわしくない茶色のエプロンを纏っている。おそらく店長だろう。


「今日からバイトをする要潤 拓哉です」


「あぁそういえば今日は新人が来るんだったな」


頭ボリボリかきながらあくびをする。


「こ、ここで寝てたんですか?」


「まあな。ここの床になるのは気持ちいからな。前にテーブル席やカウンター席に寝てみたが、俺が寝相悪いみたいで床に叩きつけられてな。はっはっは」


何が面白いのか理解できないが、この店長は変人だと言うことは理解できた。


「で、俺はどうすれば」


「厨房にエプロンがあるから取り敢えずそれ着てくれないか。今日は2人のバイトを相手にしなきゃならないから大変だよ」


店長は、カウンターの奥の部屋を指差した。のれんがあり、その先に厨房があるのだろう。

ん。でもちょっと待て。今店長もう1人バイトが来るって行ってなかったか?

てっきり2人だけかと思っていた。まぁ初対面からおかしな印象を植え付けられる人と2人きりで仕事をするよりましか。とは考えつつも少し不安でもあった。以前の会社では同期にもイジメられていたこともあったので油断はできない。


すると、ドアベルが鳴った。

俺は振り向くと、そこには明るいブラウン色の二つ結びのおさげをした女の子だ。

その女の子は無言で周りをキョロキョロ見渡している。


「カモマイルというお店はここで良いのかしら」


「あってるぞ。俺はこの店の店長の矢野 大輝だ」


「千川 樒」


「あ……俺、要潤拓哉。俺も今日からバイトするからよろしく」


または俺を上下に目を動かす。


「くさっ」


「えっ」


「あぁ、いえ。ごめんなさいね。ちょっと貴方から貧乏くさい臭いがしたもので」


なんだこの女。初対面の人に対して貧乏くさいって。あれか。ちょっとお金持ちで裕福な暮らしをして庶民を見下しているお嬢様か?

さすがそんなお金持ちがこんな喫茶店でバイトなんかしないよな。


「それで店長さん。私は何をすれば良いのかしら」


「厨房にエプロンがあるから鳥の合図でそれを着て」


「……と、とり。小鳥がエプロンを着ているからそれを剥ぎ取れって意味かしら」


なぜそんな解釈になる。


「取り敢えずって意味だそうだ」


俺がそう教えたら無言で厨房に向かった。俺も後に続く。




厨房の中に入り辺りを見渡すと調理台や器具、洗面所など色々と置かれている。 の調理台にエプロンが置かれているが、何か気になるものが目に入った。

厨房の奥にあるドアだ。

あそこはなんだろう。冷蔵庫か何か材料を入れる場所なのか?


「着替え終わったか?」


店長はのれんを叩き、顔だけ覗き込ませる。


「あのー店長。あそこのドアって何が入ってるんですか」


「ここは……実は俺もよくわからないんだ。ドアの向こうは地下に続いているんだけど、なんのために立てたのかもよく覚えていなくてな」


櫁が興味津々そうに扉に近づく。


「ちょっと覗いてもいいですか?」


「残念だが開かないんだよ。鍵が掛かっているようで開くにはそこにある機械で暗証番号を打たないといけないんだよ」


指差す方向には壁に数字を入力する機械がドアの右壁に貼られていた。

なるほど、つまり暗証番号を忘れてドアが開けられないと言うことか。忘れるくらいならメモでも書いとけと思ったが心の奥に留めておいた。


「あ、そうだ。君たちに良いもんを見せてやると」


そう言い調理台の引き出しから手のひらサイズの箱を取り出した。

その箱を開けると、中には折りたたんである紙切れと2つのカプセルが入っている。


「なんですかこれは?」


俺は店長に聞いた。


「これはなぁ過去に戻れる薬だよ。あのドアと同じでいつの間にかあったんだ」


は?過去に戻れる薬。ちょっと何言ってるか分からない。


「これ見てみろ」


そう言い店長は箱に入っていた紙切れを渡す。

その紙にはこう書かれていた。


ーーーーーーーーーー


記憶を忘れし 矢野 大輝へ。

訳もわからずこの紙を取っているという事は何もかも忘れているという事だね。この紙切れには一緒に付属していたカプセルについて説明する。

このカプセルは過去に行けるタイムリープをすることが出来るクォンタム・カプセルβ(ベータ)だ。

タイムリープをする方法は、下記の通り

1、戻りたい過去の記憶を鮮明に思い出す。

2、記憶を維持したままカプセルを飲むと、瞬時に眠りにつく。

3、睡眠前に思い出していた記憶の明晰夢を見る。

4、時間が経てばだんだん過去にいた自分の身体を明晰夢で見ていた自分が憑依して乗取ることができる。

5、気がつけば夢の世界では無く現実の世界……つまり記憶を巡らせていた過去の世界に戻っている。・



そのほか詳しい点は、ノートに示してある。


矢野 大輝より


ーーーーーーーーーー


「これは……自演ですか?」


「そんな訳ないだろ。俺もよく分からないがもしそこに書かれていることが本当なら凄くないか」


確かに凄いが、過去に戻るなんてSF映画でもあるまいし無理だろ。


「へーこれがねぇ。 すごいね。最近のはこんな優れものがあるんだ。ちょっと試そうかなぁ」


樒はカプセルを手のひらに置き眺めている。


「試すって食べるのか。やめといたほうがいいぞ。毒かも分からないし」


と店長が言うところから察するに、まだこのタイムカプセルを使用していないのか。


「平気よ平気。もしそうなっても医者に見てもらえばいいじゃない」


「いや……その医者に対する信用はどこから来てるんだ」


「お医者さんはすごいのよ。どんな病気も治してくれるんだから」


目を輝かせてそう言う。ガチでそう思ってるのだから恐ろしい。俺は頭を掻きながら


「はいはい、そうですか」


と適当に相槌を打つ。


「じゃ早速飲むわね」


「まだ、誰も承諾していないんだけど……っておい!」


俺は急いで樒の腕を掴み、カプセルを口に入れる前に止めることができた。


「ちゃんと戻る場所は頭ん中に入ってるんだろうな」


「あ、忘れてた」


一先ずカプセルを口から遠ざけて紙を見て戻る方法を眺める。


「ということは良いんですね。よし、じゃあ早速」


樒は紙切れに書かれた方法を見る。


「まずは思い出したい過去。んー私が喫茶店に入ってくる前でいいかな。くぬぬぬ……」


目をぎゅっと瞑っている。しばらくするとゆっくり目を開けて俺と店長の方を向く。


「じゃあやってみるね」


そう言い、樒はカプセルを飲み込んだ——その時


「……⁈」


突如めまいが起こった。ぐらぐら揺れる周りに吐き気を覚える。


なんだ!これは。気持ち悪っ。


辺りがぐるぐる回っていて、なんとか体を踏ん張っていると次第に揺れが収まった。すると突如冷たい風が襲いかかる。そこは厨房ではない。店の入り口に俺は立っていた。

まさか、本当に過去に戻ったのか……。


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