そして、何かが起こる・前編
体育館倉庫に、彼女達は居た。
丁度跳び箱18段が三つほど並んでいる物影に、中田良子と日上佳子は隠れていた。
双方跳び箱に背を預け、マットの上で行われる情事を声を潜めて聞いていた。
正直な話、今直ぐに出て行って混ざってしまいたい。
だが、それは無理だ。
今から力尽きた小川才人に夜這いを仕掛ける。その為だけに、二人は息を殺して待っていた。
足立次郎と田淵美里は食堂に来ていた。
小腹がすいたので二人してサンドイッチか何かを摘まもうとやって来たのだ。
ぱっと見回した感じサンドイッチは見当たらないが、おにぎりはまだ残っているらしい。
「日持ちしないだろおにぎりも」
「三日目だが、サンドイッチよりは安全だろ。危なそうなたらことかは早々に処理したみたいだし、あるのは梅と昆布、おかかもか」
「じゃあ安全そうな梅にしようかしら」
「俺は賞味期限というよりは消費期限がヤバそうなおかかにするか」
「腹、壊さないようになさいよ」
「わぁってるよ」
二人は消費リストにチェックを入れ、自分たちが食べたモノを書き記す。
「うわ、井筒の奴が殆ど喰ってやがる」
「サンドイッチとおにぎりの危険そうなのを全部処理したみたいね。よく食べるわねあの子」
「それであの体型かよ。ひでぇ世の中だ」
二人は笑い合いながら食堂を後にする。
そして誰もいなくなった筈の食堂で、厨房からそいつは現れる。
消費リストを手に取り、自分の食べた物と自身の名を書き記した。
「さぁて、誰が初めに気付くかな……」
そしてそいつもまた食堂を後にする。
大門寺、そして最上明奈は桜の木の下で穴を掘っていた。
突然最上が皆の御墓掘ってくる。と言いだしたため、よく理解できなかったながらも最上の為に大門寺も手伝うことにしたのである。
本当であれば他の皆も誘えばいいのだが、夜間帯のため皆就寝準備中だ。
スコップが地面に突き刺さり、土が掘り出される音だけが響く。
会話は無い。二人とも別々の穴を掘っているため相手の姿すら見えなくなっていた。
「この位でいいか。明奈、そろそろ寝よう」
「ん、でも……」
「あまり根を詰め過ぎるな。明日、またすればいいだろう? 今日は休むべきだ」
「……そうだね。焦る必要はないんだよね。それにもう、一つはできてるし。さすが弘君。速いなぁ」
「そ、そんなことは、ない」
照れる大門寺にクスリと笑みを零し、最上は地面にスコップ突き刺し穴から出てくる。
「シャワー、浴びる?」
「そうだな。その後は屋上、いや、開かずの間横の部屋で寝よう」
「うん」
そして大門寺と最上が去って行く。
穴の中に突き刺さったスコップだけが残される。
それはまるで、誰かの墓標のようだった。
貝塚烈人と原円香は和室で隣り合って座っていた。
貝塚は未だに信じられないと虚空を見つめぼぉっとしており、その肩には原の頭が乗せられている。
「い、致してしまった。よ、よいのだろうか。僕みたいな人間が……」
「別にそこまで悪い顔でもないじゃない。オタク感は出てるけど、私はその辺気にしないし」
「と、とはいえだな原氏、僕は女性経験は一つもなくて、その、これからどうしたらいいかもわからんのだ。共通の話題もゲームくらいしかないし、つまらん男だぞ」
そもそもの話貝塚は自分に彼女ができるなど期待すらしていなかった。二次元に俺の嫁が居ればいい。そう思っていたくらいである。
それが、この非現実で童貞を捧げた女が出来てしまった。
しかもなんだか相思相愛なのである。
「ま、まだ夢みたいだ……」
「ま、時間はあるんだし、気長にゆっくり行こうよ。性急にしたって良いこと無いわ」
そんな二人がゆったりとした時間を過ごす頃、山田壮介は学校の廊下を徘徊していた。
大河内の亡霊、あるいは三綴を探しているのだ。
眼が血走り両手にはバールのような真っ直ぐな鉄の棒。
時折周囲を忙しなく見て武器を構える。しばらくすると歩きだすを繰り返している。
「お、山田じゃん」
「っ!? なんだ坂東か。どうした?」
「いや、暇だから散歩。和室に戻ろうかと思ったけどあそこもカップルでイチャ付いてやがったから体育館に逆戻りだ」
「そうか。視聴覚室や家庭科室は空いてるぞ」
「死体出た場所で寝れるか!」
「音楽室はどうだ?」
「ああ、そっちなら行けるか。んじゃ俺はそっちで寝るわ」
「ああ、拙者は夜通し警邏してるから寝床は自由に使うと言い」
「お前のじゃねーだ……ろ?」
そんな二人から離れた場所に、購買へと向かって行く所沢の姿があった。
鬼気迫る表情で購買倉庫に消えて行く彼に言い知れぬ不安を覚える坂東。
「なぁ、あいつ、大丈夫か?」
「知るか。拙者にはどうでもいいことだ」
そりゃそうか。飛びかかる火の粉ではないと納得した坂東はそのまま見た光景を忘れることにしたのだった。