危機的状況
チュンチュン……と、幻聴が聞こえる気がする。
身体を起こし、現状を確認する。
俺、半裸。隣には満足げに眠る井筒さん。
余は満足じゃぁ~とか寝言をほざいていらっしゃる。
薄暗い照明に照らされた室内。
購買倉庫で、状況は事後。
俺は思わず両手で顔を隠す。
や、ヤッちゃった……
ど、どうすんだコレ、言い訳出来ないぞこんなところ見られ……マズい!?
光葉達はトイレで話し合いしてるだろうけどいつ来るかは不明。
少なくとも小一時間経過した今はいつこの購買に向かってきていてもおかしくは無い。
光葉にこの状況を見られたら……終わる。
さぁっと血の気が引く。
と、とにかく服だ。服を着ないと。
「沢木君ッ、いる! 死んで無いっ!?」
き、来てたぁ――――っ!?
や、ヤバい、え、どうしよう!?
「ダメだわ返事が無い。忌引さん、大門寺君呼んで来て!」
「待て、生きてる! 生きてるからっ!!」
大門寺なんて呼ばれたら強制的にドアを蹴破られる。
それに気付いて慌てて叫ぶ。
しかし叫んで気付いた。生存が確認されれば次に湧きあがるのは疑問しかない。
そう、なぜ俺は購買倉庫にカギを掛けているのか、だ。俺じゃないけどな鍵掛けたの。
落ち付け、落ち付け俺。既に死亡フラグは乱立している。
無邪気に眠ってやがる井筒を一睨みしてなんとか冷静さを取り戻す。
どうする? 井筒にレイプされたことを強調するために自分を縛っておくか? いや、相手は木場だ。付け焼刃のアリバイ作りなど論破されるだけだ。
第一光葉が許してくれるとも思えない。
かくなる上は……
「木場、とりあえずお前だけちょっと来てくれ。緊急事態なんだ」
「私だけ? 良いけど……じゃあ忌引さんと十勝さんは購買に居てくれる?」
「ぎるてぃの匂いがする気がする……」
「大丈夫よ。抜けがけはしないから」
「そうじゃ無くて……ううん、待ってる」
乙女の第六感怖い。光葉、絶対井筒と致したこと気付いただろ。
木場一人になったのをドア越しに確信し、俺はカギを外して木場を迎え入れる。
「で、一体どうし……え?」
「た、助けて木場えもん」
「……詰んだわね」
助けなどする訳もなく。一言でバッサリと切り捨てられた。
「と、言うのは冗談だとしても、どういうこと?」
「俺もわからん。突然井筒がやって来て襲われた。性的な意味で」
「……性的な意味でですか」
じとり、白い視線を送って来た木場に振り子人形のように頭を振る。
本当に井筒から襲って来たのか疑っているらしい。
本当なんだって、いや、井筒可愛いから抵抗は出来なかったのだけど、断じて俺が襲った訳じゃない。
「確かに、食堂で賀田さんに頼んでたけど賀田さんは拒否してたわね」
「ああ。賀田も女性同士ということもあってあまり乗り気じゃないらしい。仕方無く付き合っているらしく、今日は人目もあるからやらないと言って聞かなかったらしい。井筒の性欲を甘く見過ぎてたみたいだな」
「おそらく他人に処理されることを覚えたせいで歯止めが効かなくなったのね。とはいえ、済んでしまった以上言い訳できないわね」
「それでも俺は死にたくないし光葉が好きなんだ」
「不倫した人は皆そう言うわ」
「ぐふっ」
ダメた。生き残る芽が見当たらない。
こうなったらダメ元で大河内が死んでるかどうか、自分の身で確認するべきか?
まさにデッドオアアライブだな。生存確率0.1%くらいか。
「けれど。ふふ。感謝しなさい沢木修一君」
クスリと微笑み、木場は購買のドアを開く。
鍵を開けてしまったらしい。
当然、そちらに待機していた光葉と十勝がやってくる。
「あれ、木場さん。木場さんに相談するのってデッドエンド確定でした?」
室内に一歩、光葉が踏み込む。
無機質な瞳でじぃっと室内を睥睨。
その瞳が地面で寝っ転がる井筒に向かう。
静寂のがしばしの支配を行った。
動くことすらできない緊迫の一瞬。
果たして1秒だったのか、一時間だったのか。
光葉の視線が俺に向けられた。
「ぎるてぃ? ……ぎるてぃ?」
こてん、小首を傾げ、深淵すら覗きそうな目で不思議そうに俺を見る。
俺に何が出来ようか? ただ無様に地に伏し、ひたすらに土下座するしか出来ることなどなかった。
「スマホで声聞こえてましたけど、これはなんとも、言い逃れできませんね」
木場の奴最初からスマホで二人に声が聞こえるようにしてたのか。
どの道木場を引き込んだ時点で詰んでいたのか。
「どうするの忌引さん、これ、いらないなら私が貰うけど?」
「いる。一緒。いつも一緒。死ぬまで一緒。死ぬまで……死ぬ、まで……」
ゆっくりと、光葉が歩きだす音が聞こえる。
恐怖で顔など上げられなかった。
ああ、俺は……ここで死ぬのか――