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不穏な夕食

 図書室での調べ物をしていると、時間が過ぎるのは早かった。

 あの記事が見つかった後も何かあるだろうかと探したのだが、どうも見当たらない。

 その内十勝と光葉が飽きて小説読みだし、結局木場と隣り合って無数の本を乱読している間に肩が触れ合い恥ずかしげに俯く木場にちょっと傾きかけてぎるてぃくらったり、本に飽きた十勝が後ろから抱きついて来て背中越しの感触にぎるてぃくらったりして時間が過ぎて行った。


 本当に木場と十勝が俺を狙っているのか、それとも俺と光葉をからかって遊んでいるのか、あるいは疑似餌に俺が喰いついた瞬間木場が冷笑しながらじゃあ、貴方監禁確定で。とか言われてしまうのか。

 不安過ぎて身体を硬直させるしかできなかった。


 普通の男子であれば夢のような一時だったのだろうが、俺には少々つら過ぎる状況だった。

 これからも続くとすれば、我慢できなくなった光葉に刺される未来しか思い浮かばない。

 一応軽くて分厚い本を腹に隠してはいるが、さて、コレがどれだけ意味があるか。


 そうだ、購買に鉄板か何かないか探しに行こう。

 夕食食べたら行くか。

 と食堂に来ると、どうにも変な空気になっている。

 なんというか、静かなのだ。

 それ自体は良いことなのだろうが、なんていうのか……


「嵐の前の静けさ……かしらね」


 そう、木場の言う通り、言うなれば嵐の前の静けさ。

 まるで一斉に爆弾が爆発しようとしているような、妙な緊張感がでている。

 それは、これから行動を起こすだろう中田と日上だけではなかった。


 貝塚と原が妙に近くで食事してるし、互いに視線を合わせては恥ずかしげに顔を伏せる。新しく出来たカップルのような姿だ。原なら恋愛経験くらい豊富だろうに。

 そして食事にやって来た山田は、時折顔を上げて忙しなく周囲を探っている。大河内の幽霊か三綴を探しているらしい。


 井筒がもじもじと賀田をチラ見し、及川と賀田が何故か俺を睨むように見て来る。

 俺の側ではがしりと光葉が左腕を、くすくすと笑いながら木場が右腕を取っている。

 十勝は中田達に見られるのは嫌らしく、少し不機嫌そうに木場の隣に座っていた。


 一人離れた場所に居るのは壱岐と所沢。

 所沢は爪を噛みながらどうしたら、どうしたらと呟いていてなんだか怖い。

 壱岐はゲームしながら時折食事。そんな壱岐を最上がチラ見しながらうーん。どうしよう。と可愛らしく小首を傾げていた。

 大門寺はそれに気付いてないようで、最上の嫌いなピーマンを横から食べていた。


「おい、沢木」


「ん? ああ、坂東か。どうした?」


 少し遅れ、坂東がやってくる。席が見当たらなかったようで光葉の隣に座って来た。

 そして俺に声を掛けてくる。

 結果、俺と共に光葉が不思議そうに視線を向けた。


「木場さんがお前にくっついてるように見えるんだが、何かあったのか犯罪者」


「そんな呼ばれ方して素直に教えてくれるとでも思ってんのかチェリーボーイ」


 お互いにイラッと来たようで一瞬火花が散る。


「チッ。なんでもねぇ」


 争っても意味は無いと坂東は俺を無視することにしたらしい。

 こちらもわざわざ構う意味は無いので光葉と食事を再開する。


「にしても、なんだか変な空気ですねぇ」


「来てない榊や足立、田淵は正解だったかもな」


「明日から食事だけ貰って宿直室で食べるのもありかもしれないわね」


「食器返すのに二度手間だぞ木場」


「それはそうね」


 結局、会話をしているのは小川グループと俺のグループだけだった。

 あの仲良しグループである井筒たちからの会話が一つも聞こえて来ないためか、誰も話をしていないのだ。なんとも不思議な空気である。

 ああ、そうか。井筒が話をしてないから変なのか。


 早々に食事を終えた中田と日上が先を争うように食堂を走り去る。

 貝塚と原が手を繋いで食堂を後にして、及川が食器を洗いに向かう。

 何も知らない小川と川端が楽しげにトークしながら去って行く。あの二人は、明日どうなっているのか……いや、俺達には関係の無い話か。

 どちらかに肩入れすればシコリが残る。だから俺たちは見て見ぬふりをしてあのグループ内でなんとかするように見守ることにしたのだ。


「行っちゃいました……ね」


 少し哀しげに、十勝が告げる。


「そうだなぁ……」


「あ、あの、天ちゃん、その……」


「今日はダメだ、言っただろう?」


 そして俺達が席を立つ頃には、我慢できなくなったらしい井筒が立ち上がろうとした賀田の裾を掴む。

 そんな姿を見ながら坂東が去って行き、壱岐と所沢はいつの間にか居なくなっていた。

 さらに最上が購買行きたいと言って大門寺と共に去って行ったため、俺達と井筒達だけになる。


「我慢しようって思うとしたくなっちゃったんだよぉ、お願い天ちゃぁん」


「ダメだ。我慢しろ。まだ一日も経ってないじゃないか。ほら、清音を手伝いに行くぞ」


「うぅー」


 泣きそうな顔で賀田に連れられて行く井筒。内股気味に歩く姿がなんとも可哀想だった。

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