昔の事件
「うー。秘密を暴露されるのは、なんというか、恥ずかしいわね」
「確かに、忌引さんは何かありませんか? 私達全員秘密暴露されてるんですけど」
「私? ……レイプされた」
それ、俺の隠したい秘密だよね?
ジトりと木場と十勝からの白い目が俺を射抜く。
もう終わったことなのでコレに関しては放置してほしい。光葉も気にしてないし。
でも、とりあえず分厚いコミック誌でも腹に入れとこうかな。いざという時身を守れそうだし。
「と、とにかく、バレてしまったからには積極的に行かせてもらいましょうか」
「え?」
「あら、それは面白そうですね。じゃあ私も、寝取っちゃいますかね」
「あぅ」
だらだらと不安げな顔で脂汗流し出した光葉が俺を見る。
「ぎるてぃ&でっと」
それはつまり、二人に手を出したら俺が死ぬってことか?
ヤバい、地雷原に足を踏み入れた、というか気付いたら地雷原の真ん中に突っ立ってた気分だ。
これ、脱出可能なのか?
「ん……これは?」
どうにか回避出来ないかと周囲を探っていた俺の眼に、それは止まった。
学校新聞。何故かこれだけここに仕舞われていたらしい。
その記事の一つに、あった。
「木場、これ、ビンゴじゃないか!?」
「え? ビンゴって……っ!?」
俺の指し示した新聞紙に視線を向けて、眼の色を変える。
俺と木場は食い入るように見つめ、はっと顔を上げた時には互いを見つめ合う位置に居た。
冷酷と言われる木場だが、その顔は整っている。
おそらくこんな彼女が居れば皆が羨むだろう美人だ。
切れ長の眉に冷たい相貌。怜悧な顔立ちの彼女が自分の女になったとしたら、どんなデレかたをしてくれるのだろうか?
彼女は俺に好意を持っているようだし、あるいは……
「ぎるてぃ?」
「の、のーぎるてぃ!!」
あ、危ない危ない。今一瞬恋に落ちかけた。
女性への免疫が無いせいで間近で美人見つめたら惚れてしまうわ。
「凄いわ沢木君お手柄ね」
「やっぱ。これってこの状況だよな?」
記事に書かれていたのは50年前。旧校舎で起こった一クラス集団消失事件。おそらく今回と同じ状況だ。
旧校舎はもともと今の校舎の位置に立てられていたのだが、二階建だったそうだ。
そして、二年十一組のメンバー40名と先生一人が突然消えてしまったらしい。
「この先はどうなってるのかしら?」
「あ、待ってください。これ、こっちにも挟まってました。その記事から20日後ですね」
十勝が別の本棚から発見した記事を持って来る。
記事に書かれているのは集団消失事件の続報。行方不明になっていた人物が二人、旧校舎の屋根で発見されたらしい。
衰弱が激しく、発見されたあと病院に連れていかれたが一人はそのまま死亡。死に際に戻ってきたことに感涙し、最後に戻れた。と嬉しげに告げてそのまま息を引き取ったそうだ。
もう一人は気が付くと同時に気が狂ったように叫び出し、友達を殺した。あいつを喰った。俺はもう人間じゃない。そんな事を叫びながら病院の屋上から飛び降りたらしい。
「きっと、旧校舎バージョンの今の状況だったのね」
「おそらくな。食事が無かったから殺し合いが始まって互いを食べて二人が生き残った。ってところか」
「でも、生きて出られる。出られた場所があるってことよね」
俺と木場は同じ結論に達したらしい。
まだ、生還の目は残されている。
それが分かっただけでもこの記事を探して良かった。
「ところでこの旧校舎なんだけど、建築状態とか部屋割りとかどっか書かれてないかな?」
「もしかしたら、私達の教室の位置が、この二年十一組だったかもしれない。ってことね」
「ああ。そういう理由であれば、旧校舎の屋上に位置するのは一つ上の教室になる。そこは……」
「原さんが大河内君の幽霊を見かけた場所」
そう。大河内の死体は見つからなかった。
もしも、もしもだ。彼が自殺したところに元の世界に戻る術があったとすれば?
死ぬこと無く大河内は元の世界へと戻り、やがてこちらの世界へ来る方法に気付き、再びやって来た。
だから原たちが彼を発見できたわけで、つまり、大河内は幽霊になって彷徨っていた訳じゃ無く、脱出方法を知った状態で生きている。
奴を捕まえれば、この空間からの脱出方法を知ることが出来る。
「とはいえ、この結論に移るには大河内君の生存説を証明しないと」
「今はまだ目撃証言だけしかない。幽霊とか気のせい、あいつが死んだことを認めたくない者の幻覚なんてこともありうる」
目標は定まった。
可能性も見えてきた。
ここがどういう場所かはまだ分からないが、前例があるらしいことも分かった。
「これ以上人死にが出る前に終わらせたいな」
「そうね。明後日は六班。一番死亡フラグが出てるのは貴方だものね」
その死亡フラグ、立ててるのは誰だったかなぁ木場さんや。