どうでもいい推理1
「さて、これからどうすんだ?」
結局右に十勝、左に光葉な状態を放置することにした俺は、同じく諦めたらしい木場に尋ねる。
「どう、とは?」
「どうもなにも、夕食までやることねーだろ。お前らがいるから光葉とイチャ付けないし」
「あぅ」
「私は別に何もしなくてもいいですよ。こうやってれば自然意識が落ちて眠れますし」
俺に身体を預けている十勝はそう言って眼を瞑る。
しかしこいつはなぜ急に俺にべったりになったんだろう。
そもそもつい先日まで才人様才人様言ってたくせに今はどうでもいい、みたいな態度だし。
何らかの変化でもあったのか?
何があったかと言えば、小川と大河内の確執と牧場の死亡な訳だが、それと小川をオッカケするのに飽きる要素なんてあるのか?
そもそも気が無いみたいに言ってるが、今もぐいぐい来るのは何か、落ち付く場所を探す以外の魂胆が見える気がするというか……
それに、気になると言えば木場もだ。
俺がレイプ犯だと疑惑を持ったから自分で確かめるために一緒に過ごすことにした?
探偵としては確かに有効そうに見えるが完全な悪手だろう。
そんなことをすればまるで犯人に襲ってくださいと言っているようなモノだ。
探偵とは名ばかり、秘密を知ろうと迫って被害者になるパターンの方が……
いや、待て。
まさか、被害者になるような行動ではなく、被害者になろうとしていた……?
思わず木場を見る。
冷めた表情でこちらを見ているのはどういう意図だ?
いや、そもそも、探偵好きといいながら今までの犯人当て、俺に便乗こそすれ自分から割り込んだり推理するようなことはあまりなかった。
まるで俺に全てを譲っているような気さえしてくる。
それはつまり、推理が好きなんじゃ無くて、他人が推理するのを見ていたい?
あるいは、俺、だから……自分が推理するのではなく見学を選んだ?
……いやいや、ないない。木場も十勝も俺みたいな犯罪者に好意を持つなんてそんなことあるわけないよ、なぁ光葉?
いや、ぎるてぃ。じゃないよ。ぎるてぃじゃないから。そんなジト目で見つめて来ないで。
「そうね。やることがないのなら、丁度ここは図書館。もしかしたら現状のヒントがあるかもしれないわね。探してみる?」
「え? 現状のヒント、ですか?」
意外そうに眼を見開く十勝。
その表情に気を良くしたのか木場はふふっと不敵に微笑む。
「ええ。図書室には古い資料が置いてあるの、そういう禁書は持ち出し禁止で、先生が見るくらいしかできないんだけど、この学校では図書委員の休憩室になってるのよ」
と、視線で促したのは貸出カウンター。カウンター奥にある室内は、確かに見える範囲でも広々としており、向こうに本棚も見える。
「あそこの本?」
「ええ。探すべきはこの学校の歴史とか、近辺で起こった事件、あるいは卒業生の日記とか、かしら」
暇潰しには良さそうだな。
と、言う訳で、俺たちは全員で貸出カウンターを越えると休憩室にある本棚を調べる。
結構な数があるが、俺たちの時間も充実している。題名を見て行くだけならすぐに終わりそうだ。
「とりあえず一人一棚調べましょうか」
四人並んで一人一棚づつを調べる。
「ここは図鑑が多いですね」
ぱーっと見終えた十勝はそう告げると、もう終わりました。とばかりに俺の側にやってくると俺に肩を寄せて棚を見て来る。
お前の棚は隣だろうが。
ほら見ろ、隣の光葉がぎるてぃ? ぎるてぃ? と壊れたメトロノームみたいに揺れてるだろ。
ほんと、なんなのこのぐいぐい来る少女は。
レイプされたい人か。
疲れたから俺の側落ち付くとか言う割にはなんかゆっくりする気配が殆ど無いぞ。むしろ光葉から俺を奪おうとしているような……
カチリ。と何かがハマった。
十勝の現状、今までの十勝。俺の現状と、小川の昔と今。
そうか。こいつが小川に興味を無くし始めたのは……
「そういうことか」
「へ? 何がそういうことなのですか?」
「何かわかったの沢木君」
思わず納得して声に出してしまった俺に、光葉、十勝、木場が反応する。
「あー、いや、その……」
「何かわかったなら教えてくれる? 秘密にするのは無しにして、貴方が秘密にすると妙な誤解に発展しかねないわよ」
それはつまり、お前が妙な疑惑を持つからさっさと話せってことか。
つってもこれ、十勝のことなんだが。
「いやな。今まで小川一筋だった十勝が急に俺の近くに来てるだろ?」
「ええ、そうね。それが何か?」
「いや、要するに、十勝は寝取り属性なんだなぁっと納得しただけなんだが」
「なっ!? なんですかソレ!?」
心外な。と抗議を上げる十勝。だが、今までの状況を鑑みれば、彼女が寝取り属性なのは確定だろう。それも、相手の男が別の女性に熱を入れ上げていれば入れ上げている程燃えるタイプだ。