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壊れる仲、繋がる仲

 昼食が終わり、十勝は中田に話があるとトイレに誘う。

 日上も一緒に立ち上がり、三人で食堂を出て行く。

 俺と光葉、そして木場がその背後をスト―キング。

 女子トイレに入ったところで光葉と木場が入口に待機して声を聞く。

 俺はその近くでぼーっと突っ立っておくことにした。


 十勝が危なくなったら木場が止めに入る予定だ。

 光葉は場合によっては手伝うだけ、俺はただの見学者である。

 話の関係上付いて行かざるをえなかった状況だったのだが、俺、正直いらないと思う。


 結局のところ、軽食を取り終えた俺達はさっさと解散してしまい小川と川端は購買に向かって小物を回収してから体育館倉庫に行くらしい。

 及川と井筒は食器を片づけてから宿直室に戻るそうだ。

 護衛に賀田と坂東が残っているので三綴が来ても大丈夫だろう。


「それで、話ってなんなの? 才人君夜襲計画は夜食後よ?」


「うぅ、今からワクワクしてしまいますわ。ようやく、結ばれるのですわね……」


「あー、そのですね……」


 夜這いを目の前にしてワクテカしている日上と昂揚している中田に、控えめな声で十勝は告げる。

 この状況だけで、三人の温度差が如実に分かってしまう。


「私、今回の夜這いは参加しません」


「……へ?」


「あ゛?」


 何を言われたか分からず呆然とする日上、そして、意味を理解して凄い声が出る中田。

 中田の声は大門寺の威嚇かと思えるほどに冷めた声だった。


「あんた今、なんて言った?」


「ですから、私は参加を辞退すると告げたのです」


「怖じ気づきましたの? よく考えてくださいませ、これで才人さんの女になれますのよ!?」


「でも、確実に嫌われるでしょ?」


「才人君は優しいわ。逆レイプだったとしても抱いてしまった女は責任持って愛してくれる筈よ」


「そうかもしれないけど、私は嫌われたくないんですよね。だから今回は辞退します」


「っ! なんっだよそれはッ! あんた本気で言ってんの!?」


「ええ、ほ、本気です」


 一瞬、十勝がたじろいだようだ。声に恐れが出ている。


「チッ。あんたもう仲間じゃないわ。二度と才人君に近づかないでよね」


「そこは譲れません。中田さんの許可なく近づきます」


「ふざけんなッ。私らと夜這い行かない癖に才人君に近づくとか頭おかしいんじゃないの!?」


 お前の頭の方がおかしいと思うぞ俺は。光葉もそう思うよな?

 俺のアイコンタクトに気付いた光葉はコクリと頷く。

 やっぱり中田の主張おかしいよな。

 多分一緒に来ると思っていた十勝が来ないと言われ、頭の中が混乱してるんだろうな。


「別に夜這いに行かなくとも問題は無いと思うんだけど……」


「何ですって!」


「ま、まぁまぁ抑えてくださいませ中田さん。十勝さんは処女でいる事を選んだ臆病者なだけですわ。私達は才人さんの寵愛を受ける、十勝さんはその光景を一人眺める。それでいいではないですか」


「でも……そうね。そうだわ。みじめに一人指を咥えて自分の選択を後悔するといいわ」


 日上が抑えに入ったことで冷静さを取り戻せたようで。怖い声ながらも中田は十勝を送り出す。


「さっさと消えろヘタレッ」


「はい。では今回は、不参加させていただきます」


 最後にお辞儀をして十勝はトイレから出てくる。


「十勝さん……」


「……なんです中田さん」


「このこと、誰かに言うんじゃないわよ」


 トイレから出たところで声を掛けられたので、十勝の顔だけはよく見えた。

 振り向いた彼女は視線に映った何かに驚愕に眼を見開き、喉を鳴らす。


「当然、邪魔はしないわ」


 十勝と合流した俺たちは中田達に見つからないように階段を上ってさっさと退散。

 図書室へとやってくると、適当な椅子に座って大きく息を吐いた。


「こ、恐かった……」


 なぜか俺の隣に座った十勝は、俺の裾を掴んで震え出す。


「ちょっと、大丈夫十勝さん?」


「は、はい。正直あんなに怖い思いするとは思いませんでした。皆さんが側にいると分かってなければ言葉すら出て来なかったかも……」


 正直中田さんを甘く見てました。

 告げた十勝ははふぅっと息を吐いて身体の力を抜く。

 そしてなぜか俺の肩へと身体を預けて来た。

 と言っても背丈が足りないので二の腕に頭を預ける形だ。

 逆隣りに座った光葉がむぅっと半眼で俺を睨む。


「ぎるてぃ……」


「いやいや、のーぎるてぃ。俺、無実」


 唯一対面に座った木場が困惑している。

 そりゃあそうだろう。十勝は告発現場に居て、俺が光葉をレイプしたことは知らされた筈だ。なのに自身を預ける意味がわからない。


「と、十勝さん、その、沢木君に密着して、いいの?」


「沢木さんはなんかこう、落ち付くんですよね。今まで犯人摘発で活躍してて頼りになりますし、忌引さんが居るから手を出して来ることもないでしょ?」


「い、いやな、さすがにこう密着されると男としては、さ」


「他の女性に手を出したら殺す。って忌引さんが堂々宣言してるんですよ。死ぬ覚悟で私を襲いますか?」


「うん、無理。俺はまだ死にたくない。光葉とイチャ付きたいです」


「はぅ」


「正直でよろしい。という訳で今のところ一番近づいても安全な人なのよ木場さん」


 という十勝の主張に、納得行っていない様子の木場は何とも言えない複雑そうな顔をするのだった。

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