集まらない昼食時
「それじゃあ、沢木君は観察処分ということで……あら、時間はまだ11時?」
ふと時計を見た木場が意外そうに呟く。
それはそうだろう。第三の殺人が起こったのは早朝で、俺達が食事したのはその後、それから三綴探索してここで俺の暴露。なんかこの日だけで濃密な時間だった気がする。
「お昼時かぁ、朝食があの時間だっただけにちょっと要らない気がするなぁ」
「確かに、あまりお腹は減ってませんわね」
「一応食事は作っておきましょう。軽食にしておくわ」
「あ、私も手伝うよ清りん」
「流石に今は素振りは止めておこうか。食堂で待っていることにしよう」
「じゃあ俺も」
「じゃあ今のうちにトイレ行っとこうかな。十勝さんと日上さんも来るでしょ?」
「え? 私は別に……」
「来・る・で・しょ?」
「……っ!? ええ。一緒するわ」
「大門寺君はどうするの?」
「屋上で寝る。腹は空いてない。明奈は?」
「うん、お腹一杯。だから、一緒にいる、よ?」
「では解散」
木場の一言で皆が動き出す。
なんか凄い場所に居づらい。
そわそわしていると、クスリと光葉に笑われた。
「修君も焦るんだね」
「何言ってんだよ。いっつも焦りまくってるだろ」
「ごほん」
光葉と二人きり、と思ったものの、すぐに違うことに気付かされた。
木場が残っていた。
お邪魔虫の上に俺の秘密を暴露しやがった奴だ。
「なんだよ木場……」
「貴方を監視すると言ったでしょう?」
「光葉が言ってただろ。俺は光葉以外には手を出さないって」
「言葉だけなら誰でも言えるわ。だから監視するの、問題あって?」
「……見られてたら、出来ないだろ」
思わず小さく漏らしてしまう。
隣で聞いていた光葉が顔を真っ赤にしていた。
「わ、私は、別に、見られてても……」
マジか!?
思わず光葉を見ると、物凄く恥ずかしそうにもじもじとしていた。
なんだ、この可愛い生物は。
「それと、図書室は寝づらいでしょう、寝るのはここにすればいいわ」
「女性だらけじゃねーか」
「あら、別に構わないでしょ? 貴方は他の人を襲ったりしないんだから」
俺の理性を取り外す気か? こいつ、一体何を狙ってやがる?
「いや、流石にそんな沢山の女生と雑魚寝したら光葉の心象も悪いし、第一男性陣に殴り殺される。俺たちは図書室でいいよ。ダメかな光葉?」
「私は、いいよ?」
光葉が良いのならば遠慮はいらない。
第一木場が俺らの行動を制限する理由はないのだから何を言ってきても無視すればいい。
光葉の許可は貰ったんだエッチなことだって遠慮はいらない。
欲望を解消できるなら俺が暴走することもないだろう。
木場には、むしろ見せつけてやろう。試合に負けて勝負に勝つって奴だ。
暴露したから自分の勝ち、だなんて思わせてやらねぇぞ。
木場と光葉を引き連れ、食堂へと向かう。
本当にお腹減らないな。
そもそもさっき食事したばっかりだし、まだ朝食を消化しきれてないのだろう。
食堂に付くと、既に来ていたのは坂東と賀田、調理場では及川と井筒が食事を作っている。
他の奴、来てないのか。
まぁ、時間はまだあるからな。俺達も適当に座って待つか。
そして12:00。
昼食に集まる時間なのだが、集まって来たのはトイレから戻ってきた日上、中田、十勝。
そして時間だからと律儀にやってきた小川と川端。
……だけだった。
食事が並べられる。
野菜とサンドイッチの軽食だった。
今の腹具合には丁度いい食事だ。
「皆さん来ないですね」
「え? あー、そうだな」
なぜか俺の隣に来ているのは十勝眞果。
小川の元に行くのかと思ったが、小川と川端の側からは離れ、俺の隣に座っている。
日上と中田は果敢にも小川と川端の対面に座っているのに、である。
「お前は行かないのか? 小川ハーレム」
「……なんか、ちょっと、疲れたといいますか。才人様は素敵なのですが、どうにも他の二人のように彼女になりたいという訳ではないんです私。とくに最近は遠くから見ていられればいいといいますか。もちろん付き合えるのなら付き合いたいですけど、なんて言うんですかね、熱が冷めたのでしょうか? 川端さんと付き合い出してから一気に魅力が失せたというか……」
なるほど、十勝はミーハーなオッカケだったのか。身近なアイドルって奴だな。
「そりゃいいんだが、何故に俺の隣に? 俺のこと知った訳だし、普通は敬遠しそうだけど?」
「私、人付き合いあんまり好きじゃ無くて、及川さんたちの場所だと井筒さんが煩いし、才人様のところだと、いつも姦しいでしょ、ここが一番落ち付きます」
「俺の周囲も一応騒がしい時はあるけどな……」
「でも、貴方の側が一番静かなんですよ。壱岐君も静かではありますがゲーム音が煩いですし、木場さんの側は何故か緊張感がありますし、他の男性の側は煩いし。忌引さんの横でもいいですけど大抵木場さんがいらっしゃるので。なので時々座ります。良いですかね忌引さん」
「ん」
別に気にしてない。という様子で頷く光葉、飲んでる牛乳に刺さったストロー吸う姿が小動物っぽくて可愛い。
思わずこの場で抱きしめたくなりそうだった。