暴露1
「ん? なんだお前達も来たのか」
宿直室にやってくると、先客が居た。
大門寺と最上がちゃぶ台を前に座り、お茶を飲んでいる。
あまりにも日常感のでたその光景に、俺たちは部屋の入り口でしばし呆然としてしまった。
「どうした? 入れ」
大門寺に促され、俺たちは困惑気味に部屋に入る。
俺と光葉が座ると、対面に木場。そして各々適当に場に座る。
木場から、最上、大門寺、中田、日上、十勝、俺、光葉、井筒、賀田、及川、坂東といったメンバーである。
坂東の奴、木場の隣に座りやがったのだ。それを察した及川が隣に座る。
及川が座ると賀田と井筒が並んで座り、十勝が我先にと俺の横に、日上が滑り込みでその隣に割り込み、中田が隣に怯えながら大門寺の隣に座った。
「随分と大所帯だな」
「ああ。なんでも木場が何か話があるとかで、皆ソレを聞きに来たらしい。どうにも俺に関する具合の悪い事らしくて」
「お前の具合の悪い話? 何かやらかしたか」
「……さぁてな」
曖昧に答える。
隣から光葉が視線を向けて来る。
ヤバい、緊張して来た。
確かに、木場は推理小説とかマンガとか、そういうのが好きなタイプだ。
まさかとは思うが俺と光葉の関係に疑問点があることを察したのかもしれない。
具合の悪いことと言えばそれくらいしか思いつかない。
「沢木君、本当に、この場で尋ねて、いいのね?」
確かに、もしもそのことであれば、皆が居ない場所で聞かれた方が都合は良い。
でも木場だってそれで殺されたり俺に悪意を向けられたりはしたくないだろう。
探偵が犯人に告げるのは、あくまで大多数の人が聞いている場であるべきだ。
「ああ。何を聞きたいのか知らないが、別に隠すようなことはない」
「はは、沢木の具合の悪いことって、アレか、隠れてエロ本持ってきてるとかか」
「貴方と違って沢木君はそういうの学校に持って来ないと思うわよ坂東君」
「ゴリ川に言われたくねぇよ!? つか俺も持って来てねぇからな!?」
「あれ? でもこの前そういう本榊君達と読んでたよね?」
「ち、違いますよ井筒さん、アレはグラビアっつって健全な本でね、しかも三綴の奴が持って来た奴だし。先公に見つかって取りあげられてましたからね」
「どの道変態に代わりは無いわね」
「う、煩いな中田。アイドルに憧れてこの人良いなって言い合ってるだけだろ。お前らが小川相手にしてるのと違いはねぇよ!」
「ちょ!? 私達と一緒にしないでよキモい!」
「ふざけんなっ、小川のストーカーしてる方が現実問題キモいだろっ」
「なんですって!?」
横道にそれてぎゃあぎゃあ言い始めた二人に木場がため息を吐く。
最上と大門寺が顔を見合わせなんだこの会話。みたいな困惑を浮かべていた。
「その話はまた今度にしましょう」
パンッと手を叩き、木場が話を両断する。
「あなたには回りくどく言うのもいろいろ屁理屈こねて思考誘導しそうだし、率直に言うわ」
そう前置きしながらも少し勿体ぶった言葉で俺に告げる木場。皆がごくりと喉を鳴らし、空気が変わったことを知る。
まるで断罪が行われるような厳粛な空気を醸し出し、木場が口を開いた。
「もともと疑問には思っていたの。今までは接点が無かったのにこの学校が箱庭のようになってから、貴方と忌引さんが付き合いだした。それも最初からべったりと、まるで長い間付き合っていたかのように自然にカップル然とした付き合い方。あまりにも不自然だけど、この学校の状況優先で皆疑問にすら思わなかったみたい」
言われてみればと皆が虚空を見上げ三日前を思い出す。
今でこそ俺の側に光葉が居るのが当然みたいに思えていたのだろうが、俺達がこの状況になっているのは三日前からだ。それまでは俺と光葉に接点はなく、ただのクラスメイトでしかなかった。
「もしかしたら、忌引さんにとって暴露されたくない秘密を握って、脅しているのかと思った。そう三綴君みたいに」
嘘だろ? と思わず坂東が呟く。
皆の視線が一瞬で凍て付いたモノに変わった気がした。
「でも、それだと忌引さんが自分から嬉しそうに隣に座ったり、食事時に率先してカップルのような振る舞いをする訳が無い。嫌々な様子は見られなかったわ」
はい、あーん。と光葉にやられて、俺が恥ずかしそうに食べてる姿を見ていたメンバーは確かに、と納得する。凍て付いた空気が弛緩した気がする。
「だから私は宿直室に自分を置くことで、沢木君の人と成りを見ることにしたの」
ああ、だから高坂と二人で宿直室に来たのか。
「でも襲われることはなかったし、寝る時なんて忌引さんと抱き合って、本当に好き合ってるカップルみたいだったわ」
俺、ではなく光葉が顔を真っ赤にして俯いた。
「どうしてかが分からなかった。でも今までの行動から、おそらくの見立てができたから、聞くわ」
「あー、それで、結局木場は何がいいたいの?」
「黙っててくれる坂東君。それを言おうとしてる直前なのよ。その口強制的に塞ぐわよ」
「すんませんっした」
茶々入れた坂東を黙らせ木場が息を吐く。
「沢木君、貴方……忌引さんをレイプ、したわね?」
木場が告げた俺にとって具合の悪いこと、それは当然、俺が犯してしまった過ちそのものであった。