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探索3

 なんやかんやで姫扱いされている二人の女子は、オタ軍団に罵声を浴びせながらもなんだか楽しげだ。

 邪魔するのも悪いので俺たちはこの場を後にすることにした。

 そのまま一階へと向かい、食堂へと向かう。


「ここ……食堂?」


「俺達にとってはライフラインだからな。どれだけ食材が残ってるかも確認しとかないと。何しろ30人いるんだ。何日持つか把握しとかないとな。あとつまみ食いしてる奴が居ないかも調べないと」


「つまみ食いって、そんな……あれ? 人が居る?」


 所沢が思わず二度見する。

 食堂に入った俺達が見付けたのは、カウンターの奥で料理を始めている二人の女学生だった。

 類人猿にしか思えない彫りの深い顔に肩元まである髪を生やした人型猿人、及川清音と黒茶髪サイドポニーテルの爆乳天然娘、井筒玲菜だ。

 そして玲菜がサンドイッチを摘まんでひょいぱくっと食べている。


「ちょっと及川さん、井筒さん、何してるの!?」


 俺達に付いて来た木場が慌てたようにカウンターに詰め寄る。


「あ、木場さんたちも食事? いやー、小腹が空いちゃって」


「空いちゃって、じゃないわよ!? 何考えてるの! これで私達全員の食事なのよ!」


「え? いや、でも……」


 想定していなかった剣幕の木場に井筒が怯えを孕んで言い淀む。

 ソレを助けるように、ゴリ川……じゃなかった及川が口を挟んできた。


「今やってるのはその皆の分の夕食よ。私達が作るからその分サンドイッチ一切れ、許してくれないかしら?」


「なっ! そんな押しつけ」


 絶句する木場の想いも分かる。

 ここにある有限の食糧は俺達全員に必要になるものなのだ。少しでも保った方がいいのは当然であり、ソレを早めに消費するなど言語道断だろう。


「まぁ、落ち着いて木場さん」


「でも……」


「そこまで言うなら木場さんは料理できる?」


「え……まぁ、簡単なものなら?」


「そっか。でも俺ら男子はまず食事を作る技術は殆どの奴が持ってないよ。食うだけだ。だから食事を作って貰えるのは助かる。その俺達からすれば、報酬みたいなもんだと思えば一切れ位なら許せるよ。今の精神状態ならね」


 そう。まだ逼迫してない今だからこそまだ問題じゃないのだ。


「井筒さん及川さん。野菜の種は捨てずに取ってくれる?」


「沢木君? 良いけどどうするの?」


「間に合うか分からないけど校庭の一角で育てようかと」


「あ、それいいね。サンドイッチ食べちゃったから私も水やりとかするね」


「……そうね。そのくらいは手伝うわ」


 及川も仕方ないわね。と同意する。まだ何か言いたそうだった木場だが、少数意見になってしまったので押し黙る。


「でも、皆には伝えるわ」


「ええっ。あぅー。木場さん真面目過ぎだよぉ」


 木場に内緒にしてぇーっとサンドイッチを差し出す井筒。まさかの共犯者にしようという魂胆に、木場の心が揺れ動く。

 くぅっと呻いて遠慮した。難儀な性格だなぁと思いながら、そのサンドイッチをひょいと掴む。


「ちょっと沢木君!?」


「ほれ光葉」


「……ん」


 半分にちぎって光葉の口に放り込む。口開けて待ってる姿がひな鳥みたいで可愛らしい。

 昼飯は食べた後だがおやつとしては丁度良い量だ。

 渡されたのは学食に売ってる総菜パンの一つだったのでもう一切れ余っている。


 その一切れも半分にして、所沢に半切れを渡す。ついでに唖然としている木場にも半切れ。

 ソレを見た井筒が俺の手を取ってありがとー。と言って来たが、光葉がムッとした顔をした気がしたので愛想笑いを返すに留める。さっそく嫉妬か? 結構ヤンデレだったのだろうか?

 ふと見れば、仕方ないわね。と木場がサンドイッチを食べている所だった。これで奴も共犯だ。

 

「そういえば他の奴はいないのか?」


「え? あー、天使ちゃんたち? 天使ちゃんは剣道場見に行ったよ。ちょっと精神統一したいんだって」


「男子は知らないわ。別行動したいというから許可したらどこかに行ってしまったの」


「天使ちゃんが剣道場行くって言ったら別行動するって言ってどっか行っちゃったんだよねー」


 それ、賀田を覗きに行ったんじゃないのか?

 多分剣道場に居るんだろうな。

 まぁそれだったら探して何してるか調べる必要も無さそうだしいっか。


「じゃー俺らは別の場所行くよ」


「あ、うん。また後でねー」


「あんまつまみ食いすんなよー」


「やらないよー。また怒られたくないもん」


 あはは、と苦笑いする井筒。多分またやるんだろうな。

 食堂を後にする直前に振り返ってみれば、二切れ目に着手しようとする井筒とそれに気付いて困った顔をしながらも放置する及川が見えた。

 ついさっきしないと言ったばっかりだろうに。堪え症無さ過ぎだろ。


 木場が俺に気付いて後ろを振り向こうとしたので慌てて前に促し食堂を後にするのだった。

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