第三の真相1
「俺が気付いたのは榊の推理だ」
「あ、ああ。俺の推理通りやっぱあの二人が殴り合って……」
「いや、それは無いだろ」
俺の言葉に胸を張った榊。しかし坂東に一蹴されて哀しそうな顔になった。
あってるよな? あってると言ってくれ。そんな顔をする榊。俺はばっさりと切り伏せる。
「俺がピンと来たのはそこじゃない。榊の言った言葉、互いの凶器が入れ替わってという部分なんだ」
俺の言葉にがくりとうなだれる榊。怨みがましい目で見られても困る。お前の推理は穴だらけなんだから仕方ないだろう。そもそも互いに殴り合ったらその場で絶命するだろ二人揃って。なんでわざわざ視聴覚室と家庭科室に移動して死ぬんだよ。
「互いの凶器が入れ替わって? それってこのカセットが入れ替わってるのと関係あるの?」
「えーっと、凶器が入れ替わってるってことは、足立君が緑のゲームで殺されて、御堂君が青のゲームで殺されてたってこと?」
「井筒、それだとさらに訳わかんねェことになんぞ」
「それを踏まえると……殺人に使われたゲーム機を犯人が持ち去って別のゲーム機が現場に落ちていた。とかかしら?」
「いや、待てよ田淵。それだと二人もカセット入れ替わってる意味がわかんねーだろ」
「そ、それもだけどさ、原さんのカセット、血がついてるんだよね? それって原さんが足立君殺害して凶器を持ち去った、とか?」
「所沢君、それは違うと思うよ」
「壱岐?」
「足立君の持ってたカセットは緑。もしも原さんが凶器隠滅に彼のカセットを持ち去ったとしたら、原さんが持ってるのは緑のカセット。でも原さんが持ってるのは彼女の持っていたのと同じ、青のカセット。まぁ血付きだけど」
「え、え? じゃあどうなってるの?」
壱岐の言葉に結局分からなくなった井筒が俺に視線を向ける。
「うん、まぁ、こんがらがるよな。そう言う訳で、まずは事実をあげて行こうか」
「おお、また沢木の推理が始まったぜ。お前実は探偵物とか好きだろ」
「別にいいだろ坂東。とにかく、まず分かっていることは、貝塚と篠崎が赤のゲーム。御堂と原が青のゲーム。足立と山田が緑のゲーム。そして今現在彼らが持っているカセットは貝塚と山田が赤のゲーム、原が青のゲーム、篠崎が緑のゲーム、御堂の凶器が緑のゲーム、足立の凶器が青のゲームだ」
「そりゃわかってるけどよ。だったらどうなってるってんだ?」
「ここでまず彼らの死に場所と発見者に注目してほしい」
「死に場所ってのは御堂が視聴覚室で、発見者は山田、だっけ?」
「足立は家庭科室で発見者は、最上と原?」
「この場合は明奈を抜かして原でいいんだろ沢木」
「ああ。そして彼らのもともと持っていたゲーム機は、御堂が青、山田が緑。足立は緑で原が青だ」
「だからそりゃ分ってるっつの。入れ替えるっつっても凶器のゲーム自体は大門寺サンが持ってるアレだろ?」
「ああ。ゲーム機自体はアレだ。変わって無い。でもカセットだけなら自分のと入れ替えられると思わないか?」
俺の言葉に考える皆。でも答えには辿りつけない。
「いや、御堂と山田を入れ替えても御堂が緑で山田が青になるだけじゃねーか。実際には山田が赤だぞ? それに足立が青になって原も緑。凶器のカセットはそれで説明付くかもしれんが、二人の持ってるゲーム機の説明にならないだろ」
「ああ。だから、もう一人の人物をここに入れる」
そう、初めからこの四人だけでは変化に付いて説明できない。
その前に、まずはこちらを告げておかないといけないな。
「ところで皆。御堂と足立。先に死んだのはどっちだと思う?」
「あ? いきなりなんだよ。説明出来なくなって話題転換か?」
「違いますよアニキ」
「アニキ? なんだよ沢木、足立をアニキ呼びとか、お前いつの間に舎弟になったんだ?」
「坂東、人間にはどうあっても勝てやしない存在ってのが居るんだ。そいつを畏怖と憧れを持ってアニキと呼ぶ。まぁそこはどうでもいいとして」
「え? マジで何があったの!?」
「こっちを説明しといたほうが話が簡単かと思ってね」
「つまり、二人の死亡時間が関係するのか」
「んー、死体発見は足立君が速かったよね」
「でも玲菜、彼を発見した時はまだ御堂君が死んでたことに気付かなかったわ」
「山田が発見して知らせて来るまで視聴覚室誰も行って無かったしな」
「ということは……?」
と、皆の視線が俺へと集まる。
「ああ。つまり殺害の順番は御堂が先で、足立が後だ。そしてこのことを踏まえ、ある人物が加わることで彼らのカセットがこの変化を起こした説明が付く」
「お、おい待て、まさか……」
「犯人は凶器である自分の持っていたゲーム機の赤のカセットを殺した御堂の青と入れ替える。それに気付いた山田が自分の緑と入れ替える。次に足立を殺し御堂の持っていた青と足立の緑を入れ替える。それに気付いた原が自分の青と、凶器の青を入れ替える。これで足立の血がついた青のカセットが原のゲームにセットされる。そして犯人は足立の持っていた緑のカセットを自分のゲーム機にセットしてゲームを続ける」
だから、俺はそいつを指差す。
「御堂、足立を殺した犯人。それは……お前だ、篠崎美哉!」
既にゲームを止め、真っ直ぐに俺を見ていた篠崎に、俺は迷い無く告げるのだった。