脅迫未遂
大雨の影響で通行禁止にひっかかり26時間程家に帰れず更新遅れました<(_ _)>
「……おはよ」
目覚めれば隣に愛らしい少女が微笑む日常。
俺はああ、おはよう。と答えて少女を抱きしめる。
リア充。リアルが充実した日々だ。その筈だ。
起き上がればそこは図書室の床。
カーペットが敷いてあるので直寝とはいえ幾分マシだ。身体は痛いが本を枕にできたからか身体の痛みは少ない。
昨日は結局ここで直に寝ることを選んだのだ。
少々ハッスルした気もするがそこは年頃の男女、しかも相思相愛と思っても差支えない二人きりの空間なのだ、察してほしい。
着崩れた衣服を整え、光葉と共に外に出る。
廊下の一角に存在する流し台で顔を洗い、口を濯ぐ。
歯ブラシなどないので手できゅっきゅと歯を拭くくらいしか出来ないのが辛いが、それは皆同じなので……
おい待て大門寺、それと最上。お前ら何でハブラシ持ってんの?
少し遅れて教室の一つから出てきた二人は、コップとハブラシ持参で俺たちの隣に並んで洗面中。
思わず魅入っていると、最上が気付いた。
「ハブラシは、購買にあった……よ?」
人と話すのが苦手なのだろう。消え入りそうな声で親切に教えてくれる。
「俺が起きた時にはもう持って来ててな。いつの間に行って来たのか」
「ちょっと寝れなかったから、散歩」
「あー、成る程。ありがと最上。光葉、早速手に入れに行こう」
「ん」
最上に礼を言って一階の購買へと向かう。そこに無くても倉庫にあるだろう。何せここに居るのは二十数名だ。ハブラシなんて余りまくっているだろう。
この機会に購買に何があるか把握しとくのもいいかもしれないな。
俺と光葉が購買へとやってくると、変わった二人組を発見した。
坂東と及川である。
両方普通チームなのだが、ゴリ川と呼ばれている及川と彼女を敬遠しているおっぱい星人な坂東が居るのは珍しい。
「何してんだ二人とも」
「ん? ああ、沢木か。いや、山田の奴が男子のハブラシ持ってきてくれって言って来てな。流石に二日歯を磨かないと違和感っつーかな」
「こちらも似たようなモノよ。一昨日は混乱してたし、昨日は落ち着こうとして殺人事件だもの、玲菜と天使のハブラシとかソーイングセットとか探しに来たの。そこの男とは被っただけよ」
「そこのとか言うんじゃねーよゴリ川。テメーの方がお呼びじゃねぇっつの。どうせなら賀田さん呼べよ」
「嫌よ。むしろ私で良かったわ。貴方みたいな野獣と天使を二人きりになんてしなくてすんだもの」
「おまっ、俺のどこが野獣だよ!? 俺は賀田さんの安全を見守る紳士だっつーの」
「欲望に塗れた紳士だけどな」
「沢木煩い」
どうでもいい会話に一言参入だけしてハブラシを手に取る。
「光葉、なんか欲しいのあったらついでに持って行こう」
「ん」
こくり。頷いた光葉は購買内部を見回してみる。
イチゴのキャンディを一つ手に取る。
それだけでいいのか。
もうしばらく探すみたいなので俺も一緒になって購買内部を見回す。
やっぱり雑誌とかを服に入れといた方がいいだろうか?
こっちは……学生服も売られてるのか。
シャープペンに消しゴム、筆箱、コンパス、文鎮。
リコーダーも売っているみたいだが、なんだか学校に不要そうなモノも置いてある。
あ、電池普通に売ってるじゃないか。
篠崎コレ知ったらどうするつもりだ。オタク共にキスする必要無くなったぞ。
いや、むしろこのこと教えたら俺にもキスしてくれ……
「ぎるてぃ?」
「のーぎるてぃっ」
なぜわかった光葉? あと瞳からハイライト消したような顔するのは止めて。そこに置いてあるバールのようなもので頭カチ割られそうで怖いから。
って、そのバールみたいなものが一つ無くなってるような配置で置いてあるんだが、誰か持ってった?
「なんでこんな物騒なもんがあるんだ?」
「教師が使うのよ。釘が曲がってたり取れてたりしたのを見かけた時に使ったりするみたい」
「なんだー、それで誰か殴る気か沢木」
「しねぇっつの。お、石鹸もあるじゃん。タオルと貰っとけば身体も洗えるな」
「シャンプーも、あるよ?」
戦利品はかなり多いようだ。俺たちは売店に置かれていた袋に幾つか詰め込み、ホクホク顔で購買を後にする。
何故か及川と坂東が付いて来た。
「これから食事を作るの。先に行ってる玲菜たちに合流しないと」
「俺らは賀田さんと井筒さんを見守るんだ」
とのことだが、及川が先に行ってると告げた筈の井筒が、何故か男子トイレに入って行くのが見えた。
「玲菜?」
……ああ、あの張り詰めた顔、何か嫌な予感がするな。
俺たちは即座に男子トイレに向かう。光葉が多少躊躇していたが、及川が気にせず入ったことで意を決して入ってきた。
ただし、井筒は既に個室に入ったようでトイレ内には誰もいない。
小便器をじぃっと見つめる光葉と及川。何を思ってるのかは定かではないが、今はそんな場合じゃないだろ。
「お願い、天ちゃんを巻き込まないで……」
不意に、個室の一室から声が聞こえた。
どう見ても井筒だ。
俺と及川はコクリと頷き、個室の両隣の部屋に入る。
洋式便座を足場にして個室を覗き込むと、そこには二人の男女。
井筒玲菜と三綴作馬がいた。
三綴はスマホを井筒に見せてニタリと醜悪な笑みを浮かべていた。
どうやらあのスマホに賀田の恥ずかしい写真か何かを収めたようだ。
それでなぜ井筒を脅しているのかは知らないが、流石にこれは見過ごせない。