表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/246

動き出す悪意

 やられた……

 俺と光葉は二人きりで廊下を歩く。

 結局俺達が宿直室から追い出された。


 可能性はあるだろうなと思っていたがまさか本当にこうなるとは。

 光葉が付いて来てくれたのは僥倖だっただろうか?

 明日小川に告げ口してやる。あいつら顔青くして小川に嫌われちまえ。


 しかしどうするかなぁ、このまま光葉と過ごすにしても邪魔が入らない場所ってどっか残ってただろうか?

 そうだ、二階の理科室の準備室とか使えるかな。準備室と言えば音楽室もか。

 と閃いたので音楽準備室に、行こうと思ったんだが先客がいた。

 山田が呪詛吐いてたので見なかったことにして踵を返す。

 流石に音楽室に向かうのもなんか嫌だな。山田が入ってきそうだ。


 仕方が無いので二階まで下りて理科室へと向かう。

 だが、理科準備室から篠崎が現れたので残念ながら理科室周辺も使用済みだと理解せざるを得なかった。


「あれ? 沢木と忌引?」


「ああ。何でまた理科準備室に?」


「え? あー。ちょっといろいろねー。あ、見てよ沢木。どうこれ! 凄いっしょ」


 と、ゲームを取り出し画面を見せて来る篠崎。

 いや、凄いと言われても、俺このゲーム興味無いからなぁ。


「わぁ、可愛いですね」


「だっしょ! さすが忌引。わかってんじゃん」


 と、馴れ馴れしげに光葉の背中をバシバシ叩く篠崎。


「さーって、今日は大満足だしさっさと寝るかー」


「あ、そうだ篠崎。今茶室は貝塚が使ってるから、女性陣は宿直室だぞ」


「へ? 宿直室? あんたたちんとこじゃん」


「占領されて追い出されたんだよ」


「ぷふっ。マジで? やっば、追い出されたとか。マジ卍ーっ」


 と、腹抱えて笑いながら去って行く篠崎。俺のストレスだけが見事に増大したのだった。

 しかし、どうしようか、ああ。待てよ。

 誰も行きそうにないけどいい感じの部屋がある、図書室だ。あそこに行こう。

 思いついたので三階の端っこにある図書室へと向かうことにした俺たちだった。




 沢木と忌引が図書室へと向かっている頃、音楽準備室では一人の男がゆっくりと立ち上がるところであった。

 男はのろのろとドアへ向う。


「許さない。他の男と寝てオケモン貰う? そんなこと、絶対に許せるもんか……あいつは、篠崎は拙者の女だ……」


 幽鬼のように男は扉を開き外へと踏み出した。




 体育館でも、一人の男が立ち上がった。

 ブツブツと呟いていた男はくふふと気味の悪い笑みを浮かべる。

 その手にはスマホが一つ。画面には賀田と井筒が絡み合う動画が流れていた。


「こんな秘密、利用するしかねぇよなぁ……くひ、くひひ」


 男は一人歩き出す。

 トイレからすっきりした顔で出てきた坂東と榊がお前もトイレかぁ? と見当違いの言葉を駆けてきたが、無視して通り過ぎる。

 二人が怪訝な顔をしているがどうでも良かった。


 お前ら童貞どもなどどうでもいい。

 俺は明日、さらなる高みへ向う。

 従順な女を手に入れるんだ。そのためになら……犯罪だって犯してやる。


 外へと出る。

 闇の無い虹色の空は、まるで彼を祝福してくれているかのようだった。




 不意に、パチリと少女は目を覚ました。

 うっすらと開いた目からは、図書室へ向う沢木と忌引が見えた。

 どうでも良かったのでそのまま見送っておく。


 隣に視線を向ける。

 大門寺弘嗣。自分の幼馴染だ。

 まさか守ってくれているとは思わなかった。


 小学校からは疎遠になって不良として恐れられていたから、内気な自分のことなど全く気にもしていないと思っていた。

 そうじゃなかった。

 彼はずっと、見守ってくれていたのだ。


 腕力で何かを解決するようになったのも、自分が強ければ守れるからとか、そんなことだったのかもしれない。

 ただ、今日起こった出来事を守るには腕力では解決できなかったのだが、それでも必死に自分を守ろうとしてくれた彼には好意以外、いだける筈が無かった。


 けれど……

 ただ好きだと、告白など出来はしない。

 特に、人を刺し殺した女では、彼には釣り合わないだろう。


 沢木に言われたことも、納得など出来よう筈が無い。

 だって彼は人を殺したことなどないのだ。

 あの死ぬ間際の顔を見てはいないのだ。


 瞳を瞑れば刺し殺した香中が現れ苛んで来る。

 恐怖でしかない。

 自分も死ねと、痛い痛いと近づいてくる悪夢しか見ない。

 でも……少しだけ、マシになった。


 思い込めばいいのだ。

 沢木が言ったように、自分は、楽に死ねる手助けをしたのだと。

 そう思うようになると、夢の中の香中が幸せそうに微笑んだ気がした。

 これで、楽になれる。そう言われた気がした。


「だから……うん。死ぬほど痛い思いしていたら、殺してあげなきゃ……なんだよね?」


 少女の小さな呟きは、隣で寝息を立てる大門寺には聞こえもしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ