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二日目の終わりに5

「えへへー」


 剣道場のロッカールームに三つの寝袋が並ぶ。

 及川、賀田、井筒の三人だ。

 及川が右、井筒が真ん中、賀田が左に眠っている。


 眠っているといっても眼を閉じているのは及川だけで、井筒はごろんと身体を左に向けて賀田に密着していた。

 賀田は困った子を見るように彼女と視線を合わせる。


「何をしてるんだ玲菜」


「にへへー。天ちゃーん」


「はぁ、甘えん坊だなお前は」


「そういう子は嫌い?」


「嫌いとかそういうのではなくてな。そもそも私とお前は女だろうが」


「えー、別に私は気にしないよ」


「少しは気にしろ、まったく。……なんでこうなったのだか」


 溜息を吐く賀田、しかし甘えてくる井筒が彼女から離れることはなかった。

 そんなイチャつく二人に背を向け、及川はゆっくりと目を開く。

 眠ってなど居なかった。眠れる訳も無かった。

 けれど、二人に悟られないよう再び目を閉じる。

 三人は、仲良しなのだ。三人で仲良しなのだ。そうでなければ……




 体育館、そこではあぶれた男達がマットを敷いて寝っ転がっていた。

 近くの体育館倉庫から女性の声が響いている気がするが、彼らは誰も咎めようとはしない。


「お、俺ちょっとトイレ」


「俺も……」


「汚すなよお前達……」


 坂東と榊がトイレへと向かう。それを貝塚が気付いて一声かける。

 初日と比べると男子陣も人が減った。

 足立は保健室に向かったようだし、なぜか御堂が見当たらないのだ。


 山田の奴も帰って来てない。

 何処に居るのかもわからないのだが、誰も探しに行こうとはしなかった。

 何故か、と言えば殆どの男がここで聞こえてくる声を聞いて前かがみになっていたからに他ならない。

 動きたくても、動きたくない。


 こういうことに興味がなさそうな壱岐でさえも顔を赤らめつつゲームしているし、所沢は耳を塞いで寝転がっている。足立の飽戸の方はなぜかそわそわしているし、三綴などは何かぶつぶつ呟き始めて話づらい。


 ここで寝るのは難しいかもしれない。

 貝塚は無言で立ち上がる。

 一瞬三綴が下卑た笑いを浮かべた気がしたが、自分には関係ないことなので放置して外へ向う。

 どこか適当な教室でゆっくりと寝るべきか。


 体育館から外に出る。時刻は23時くらいだろうか?

 虹色の空は暗くなることが無いので夜なのかどうかすらわからない。

 しかし体内時計はもう眠いと訴えており、夜であることは何となく理解できた。


 とはいえ、貝塚もオタクの一人、夜更かしなどはざらである。

 非日常になったとはいえ多少の夜更かしがあった程度ならば朝食時間に起きて来れるのだ。

 この学校生活が始まって二日、昨日は流石に疲れて早々に寝入ったものの、今日はもう少し起きていても問題は無いだろう。


 一先ず校内に戻り一階から探索する。

 別に何をするつもりも無かったが、暇だったので校内散策をしているだけだった。

 不意に、一階の保健室で物音がした。

 ドアから覗くと、足立と田淵が今日の夕食をここに持ち込んで食べているのが見えた。

 今更夕食らしい。


 互いに顔を赤らめながら相手の口に食べ物を運ぶ姿を見て思わず乱入してやりたくなったが、相手は不良と呼ばれる足立と殺害も辞さない田淵だ。

 乱入などしようものなら次の朝の死体は自分になるだろう。


「リア充は爆死すればいい」


 悔しげに一言呟き保健室を後にする。

 二階に上がる。そう言えば視聴覚室は開いていたな。と思い立った。

 少し広いが寝るには丁度良い気がする。


 だが、そのドアを開こうとして気付く。

 中に誰かがいる。

 ぞなもしぞなもしと聞こえるので御堂だろう。

 こんなところでなにしているんだ? ドアから覗いた貝塚は思わず叫びそうになってぎりぎり声を飲み込む。


 慌ててドアから遠ざかりあり得ない光景に被りを振るう。

 夢だ。今のは多分疲れ過ぎた自分が見た幻覚だ。

 今日は早急に休んだ方がいいかもしれん。


 三階の階段を上っていると、妙にそわそわした様子の足立飽戸が下からやって来て視聴覚室へと向かって行くのが見えた。

 なんとなく理由を察したが、貝塚は見なかったことにする。


 三階に向かうと開かずの間隣の教室に大門寺と最上が居た。

 二つの椅子を隣り合わせて座っていて、眠る最上の肩を抱き寄せ窓から空を見上げている大門寺。

 こちらには気付いていないようなので見なかったことにして四階へと上がる。


 四階は無駄に姦しい。

 女性陣が居るからだろうが、なぜか和室ではなく宿直室から女性の声が響いている。

 ヤバい事をやっている様子では無く、何かを慰めているような感じだ。

 そのまま通り過ぎて音楽室へ。

 ここの椅子なら横になって眠れるだろう。


「チクショウ、チクショウッ」


「……なんだ?」


 貝塚の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

 気になって覗いてみると、音楽準備室で山田が一人小刻みに揺れていた。

 何をしているかはこちらから見えないが、声を駆けるのは躊躇われたので音楽室にも向かわず踵を返す。


「仕方無い、屋上で寝るか」


「あれ? 貝塚?」


 屋上へ向かおうと来た道を戻ると、丁度宿直室へと戻る手前だった沢木と木場にはち合わせた。


「何してんの?」


「ああ、体育館倉庫が騒がしくて寝ずらいからな、他の寝床を探してた。屋上にでも行こうかと思うんだが……沢木たちは何してるんだ? なんだか賑やかだが忌引以外にも誰かいるのか?」


「ああ、それは……」


「丁度良いわ。貴方も参加しなさい」


「何に?」


 意味がわからない貝塚は、木場に連れられて宿直室へと連れ込まれるのだった。

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