二日目の終わりに4
んー?
夕食が終わり暇になった頃、就寝しようと茶室に戻ってきた原円香は部屋を見回し思わず唸る。
何があったというよりは、むしろ何も無い。いや、誰もいない。
女性用に割り振られた筈の茶室にいるのは自分だけである。
本来ならば篠崎、十勝、川端、中田、日上、田淵、木場が居る筈なのだが、ここには居ないようだ。
何しろ十勝、中田、日上の三名は木場共々宿直室にいるし、田淵は足立と二人保健室に、川端は体育館倉庫に小川と二人で、そして篠崎は行方不明なのである。
一応オタク共の元に来てはくれたので、二人のオタクを任せて自分は貝塚と外に出て二人で過ごしていたのだが、戻ると全員が居なくなっていた。
部屋に戻って寝たんだろうという貝塚に頷き、こうして先に帰っているだろう篠崎の元へ来たつもりだったのだが、彼女がどこにいるか、今はもう不明である。
茶室に座り、ふぅっと息を吐く。
誰もいない一人きりの部屋は久々だった。
家に帰ればいつものことなのだが、学校の茶室に一人というのがなんだか嫌だった。
「暇、だなぁ……」
ガタリ
「……」
突然どこからか音が聞こえた。
思わず辺りを見回すが誰も居ない。
なんだか急に恐くなった。ゲームをするような状態じゃ無い。
それでも、思わず何が音を鳴らしたのか気になって、恐る恐る音がした方へと向かう。
そぉっと部屋を出て、隣の部屋を覗くと……
「き、きゃああああああああああああああああああああああ!!?」
和室の方から悲鳴が聞こえた。
早く女子会終わらないかなぁとどうでもいい事を思っていた俺、沢木修一は、これぞ好機とばかりに部屋を飛び出す。
女共に占領されつつある部屋から出ると、なぜか物凄い開放感を覚えた。
「今の悲鳴は!?」
「ちょっと、まさかまた!? 今日二度目とか止めてよ!?」
俺に木場が追い付き聞いて来る。俺だってわからない。
中田が宿直室のドアから顔を出し嫌そうに告げながら後を追って来た。
丁度和室の隣にある教室前でへたり込む原が見えた。
「何があった!」
叫びながら彼女が指差す教室を見る。
そこには……何も無かった。いや、机や椅子とかはあるんだけど普通の教室って感じだ。特殊教室だっけ、確か昔は使われてたけど今は使われてないっていう。
「何があったの? 死体?」
「いや、まだ分からない。とりあえずドア、開くぞ?」
代表して慎重に扉を開く。
変化は無い。
普通の教室だ。
内部に入る。変化は無い。
「あれ? 窓が開いてる?」
この教室にある違和感と言えば一つだけ。窓が開いていたところだろう。
別に開いていたからどうってことは無いのだが。
一応、下と上を確認していたが、自殺者が居たり、窓の上に人が張り付いていたりという怪現象も無かった。
「一体どうしたのよ」
「あんな悲鳴あげて、誰か死んだかと思いましたわよ」
「……れ……」
「ん?」
「幽霊っ、幽霊が居たのよっ!!」
「「「はぁ?」」」
泡食って叫ぶ原。俺たちは意味が理解できず怪訝な顔で見事にハモッた。
「幽霊って、また非科学的な」
「だって、だってっ。大河内が居たのよ、今、そこにっ」
おお……こうち?
俺たちは思わず顔を見合す。
大河内は自殺して死んだ。俺たち皆の前で屋上から落ちたのだ。生きてるわけがない。
「んなバカな。ああ、貴女一人でここに居たから変なの見ちゃったんじゃないの?」
「なっ、違っ……」
「ああもう、仕方無いわね。宿直室に来なさい」
「え、ちょっと待て中田。あそこ俺らの部屋なんだが」
「なによ、一人で寂しい思いしてる女の子放りだすの?」
「いや、そう言うことじゃ無くて……」
そもそもな話、折角手に入れた宿直室が女子に占拠されつつある現状、最悪俺と光葉は追い出されるかもしれない。コレが侵略というものなのだろう。
無力な俺には彼女達を押し出す術は無い。抵抗むなしく全て奪われてしまうだろう。
辛くなるが不利な和平交渉を受け入れざるをえないのかもしれない。
「まぁ、何か幻覚を見たにしてもちょっと気になるから私と沢木君はもう少しここを調べてみるわ。他の人は宿直室戻っていて」
木場に促され、女性陣は自室へと戻って行く。だからそこ、俺と光葉の……
「沢木君、どう思う?」
「……どう、とは?」
「彼女が見たのは本当に大河内君の幽霊だったのか」
「幻覚だろ。独りが寂し過ぎて見てしまった幻覚さ」
「そうは思って無いでしょ。だって……大河内君が屋上から飛び降りたのは事実。でも死体は見つかって無い。そして原さんは大河内君を見た。ここの窓が開いていた」
「ここから飛び降り逃げたってか? 四階だぞ?」
「……そうよね。そう、なのよね? だから、どう思う?」
俺達二人はただただ窓の外を見る。
木場の疑問に答える言葉を、俺は持ち合わせちゃいなかった。