二日目の終わりに2
シャワーはプールの近くにある。そのため一度下足場に向かってから校舎を回り込んで裏側へいかなければならない。
宿直室は四階なのでかなり遠いのだ。
「あれ? 篠崎さん?」
「……と山田だな」
空き教室、というか音楽準備室から二人が出てきた。
思わず柱の陰に隠れる俺と光葉。
着崩れた衣服を直す二人。どう見ても事後だ。
「ふふ。これで……童貞卒業」
「ねぇ、早く頂戴よアレ」
「あ、そうだった。ちょっと待ってくれ。はい」
ゲーム機? ゲーム機同士をくっつけて通信を行っているようだ。多分だが山田がレアキャラあげる代わりに一発ヤらせろ。とか言ったんだろう。それが意外にもOK貰ったのだと思われる。
「ありがと山田」
「う、うむ。それでだな美哉……」
「え? ちょっと、一発ヤッた位で名前呼びとかキモいんだけど」
「ええ!? そんなっ。普通はこういう状態だと親しくなるもんでは?」
「えー、何ソレ? 女に夢見過ぎじゃね? こういうのは後腐れなしの一回こっきり。出会い系の割り切りと一緒だって。勘違いすんなし」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。じゃあ、じゃあ明日からも出来たりは……」
「しねぇし。調子のんな。……まぁ、またレアキャラくれるなら考えてもいいけどー。あ、そうだ。あだっちーやみどーにも誘いかけてみよーかな。あいつらもレアキャラくれるかも?」
「そ、そんな……」
呆然とする山田を放置して篠崎がこっちにやってくる。
俺と光葉は壁に張り付き風景に同化する。
「……何してんのあんたら?」
通り過ぎる時篠崎が呆れた顔を向けて来たが、今の俺たちは壁なのだ。気にせず通り過ぎてほしかった。
「俺たちは壁です。気にしないでください」
「アホか。っつか別に隠すもんでもないから隠れなくていいっつーの」
「そ、そうなの?」
「別に普通っしょ? 互いに利益があるから身体の関係を持つ。で、利益がなくなったら切り捨てる。世の中の摂理って奴?」
割り切っているというかドライというか。篠崎はそれ以降俺たちに気にすることなく去って行く。
「んー、せっかくだし他の奴らも回ってレアキャラついでに童貞貰ってやるかなぁ」
……香中も襲う相手が篠崎だったら死ぬこと無かったんじゃないか?
いや、レイプ自体悪くはあるんだけど、あ、ヤバい光葉見ないで。今見られると罪悪感が……
「修くん……」
「あ、ああ。行こうか」
とぼとぼと音楽準備室に戻っていく山田を見届け、四階を後にする。
三階に降りると丁度トイレに行ってたんだろう、原とはち合わせる。
「おっと、沢木と忌引?」
「原さん?」
「どこ行くの? あんたたちってなんか珍しい組み合わせよね?」
「珍しいか?」
光葉と顔を見合わせ同時に首を捻る。
「いや、だって今まで接点なかったじゃん。忌引は自分の机から離れなかったし、沢木は授業以外殆ど寝てるし」
「ああ、日常から比べて珍しいってことな」
非日常になってからは光葉と離れることの方が珍しい状態だったので忘れていた。
なんかもうずっと一緒に居る気がしたのだが、まだ二日しか経って無かったな。
内容が濃過ぎるせいで日常を忘れていたんだ。
「やっぱ付き合ってんの?」
尋ねて来る原に光葉はじぃっとこっちを見て来る。
さぁどう答えようか? なんだか答え方によってはバッドエンドがちらちら見え隠れしている気がしてくる。
「ああ。昨日からだが付き合いだしたんだ」
「へー。そうなの?」
「……ん」
俺の言葉に納得出来なかったのか光葉に確認する原。光葉はこくりと頷いた。
「ふーん。なんか怪しいけど、忌引が嫌がってるように見えないし、いいか」
乙女の感か? なんか怖い。レイプした事が見透かされそうだ。金髪ガングロキャラ恐るべしか。だてに男を手玉に取っていないということか。
「まぁいいや。ところでさ、美哉知らない? オタク共が煩くってさ、御堂と足立何とかしたいんだけど私の言うこと聞きゃしないのよ」
そりゃキスもくれない女の言葉などあの目覚めたオタク共が聞く訳が無いだろう。
「今は貝塚が押さえてくれてるからいいんだけどさー」
「ついさっき階段降りてたから行き違いじゃないか?」
「あ、そうなの? んじゃ下の階探してみる。二人も、美哉に会ったら早く戻ってくるよう伝えて」
「了解」
篠崎を中心にオタクチームの爆弾が膨れてる感じだなぁ。
なんかオタク同士で殺し合いとか始まりそうで怖いぞ。
私の為に争わないで。みたいな結果にならないと良いけど……
原と会話しながら二階に降りて、原はこの階から探し出すとのことで別れる。
再び二人になった俺と光葉は一階へと降りるのだった。
下足場に向かう手前で所沢と出会う。
どうやら体育館からトイレの為にこっちに戻って来ていたらしい。
体育館にもトイレあっただろうに、何故こっちに来やがった?
そのまま体育館に行くまで背後からスト―キングされる俺たちだった。