二日目の終わりに1
19時の夕食を行う。
なぜか井筒がハイテンションで賀田が凄く疲れたような顔してたのが気になったが、食事は概ね問題無く進んだ。
小川と川端がくっついたせいで十勝、中田、日上の三人は再び小川を遠巻きに見ている。
彼女達は再び脅威が現れたために三人が揃って協力し始めた。
といっても蔭でこそこそと川端の悪口言うだけなのだが。
足立と田淵は来なかった。やはり知り合いが死んだのが辛かったのか、何処に居るかすら分からない状態である。
呼びに行くのも状況が状況なので憚られ、腹が減ったら勝手に来るだろということで食事だけ食堂に置いておくことにした。
オタクチームの変化は如実だ。
篠崎の周りにオタク共が群がっている。
それを原が溜息吐いて見つめ、貝塚が落ち込むな。みたいな見当違いの慰めを行っていた。
アレは悔しがってるんじゃなくてよくやるわ。と呆れているんだ。
四班も少し様子がおかしい。
井筒が賀田にべったりくっついてるし、賀田が井筒を迷惑そうにしながらも頭を撫でたりスキンシップが多くなっている。
そんな二人の様子に男共もちらちら見ながら顔を赤らめている。
一人だけ冷静なのは及川。うわ、目があっちまった。目が潰れるッ。
俺達寄せ集めチームは、木場が少し落ち込んでいる以外の変化は、近くに大門寺と最上が座っていたこと位だろうか? ああ、壱岐がなんか震えてるな。一体何を見たんだか。
御蔭で緊張感がハンパない食事となってしまった。
そんな苦行とも思える食事を終え、宿直室に戻ったのだ。
そして、コレである。
「と、言う訳で、早速対策会議を開きたいと思います!」
「何がと、言う訳なのかわからないのだけど?」
「私、お茶入れて来るね?」
「まぁまぁ、理解が遅れてますわね木場さん」
「普通は分からないと思うわよ日上さん」
「要するに、抜けがけした川端にどうオトシマエ付けて才人君の洗脳を解くかの話し合いよ!」
中田の言葉でああ。と木場が納得する。
お前が納得するのは良いが、俺は納得していないぞ。
なんで宿直室に戻ってきたのに十勝と中田と日上がここに居るんだ?
「ぶっちゃけるとですね、和室は狭過ぎです!」
十勝が人差し指を立てて講釈垂れるような説明をしてくれる。
簡潔明瞭で分かりやすい。
「うん、帰れ」
「ちょっと沢木、あんた何様のつもりよ!」
「宿直室は俺と光葉の部屋に決めたろ。なんで皆ここに集まってくるんだよ!」
「だって、お茶あるし、ラーメンもあるんでしょ。私チキン食べたい」
「あ、ヤキソバあるわ。私これ!」
「じゃあカップのカレー貰おうかしら」
「いきなり喰おうとすんな! それは最後の非常食だ!」
「叫ばないでよもー。わかったわかった。食べませんよけーち」
「ぎるてぃ?」
「なんでさ!?」
人数分のお茶を注いだ光葉が戻ってくる。
しかし場所が無かったので困っている。
困った顔は可愛らしいのでしばらく見ていたい気がしたが、あまり弄るのも可哀想なので自分の前を指差す。
光葉は気付いた瞬間恥ずかしそうにしたが、意を決して俺に座って来た。
胡坐をかいた俺に座った光葉を見て、うわぉと中田が口ずさむ。
「うぉっほん。とにかく、このままでは美海っちの一人勝ちになってしまうのです」
「才人君を美海の魔の手から救い出さないといけないわ」
「私達が足を引っ張り合ってる場合ではないのですわ!」
「それは分かるけど、何故ここでその会議?」
「そりゃあ当然、木場さんと沢木なら何かいい案だしてくれるんじゃないかと期待して!」
「さっきの最上さんへの悪辣な意識誘導感動したわ」
「是非に私達にも良策を!」
悪辣とかいうな。俺としては最上が危ない思考に走らないようにしただけのつもりなんだ。どの辺が悪辣だというのか。
……なんだよ光葉。凄く何か言いたそうな顔してるな。それでも俺は悪辣な思考誘導などしてないと声高に叫ぶぞ。
「とりあえず良い案出るまで今夜は寝かさないわ」
「時間はたっぷりあるもの、とりあえず美海が嫌われる方法でもいいから献策して!」
「よろしくお願いしますわ」
「……そう言われても……ねぇ」
困った顔で俺を見る木場。
止めろ、どうでもいいような策など即席で浮かぶか。
俺は献策を木場に任せ、光葉の髪を弄って遊ぶ。
既に話を聞く気は無かった。
何が悲しくて他人の恋の邪魔を手伝わねばならん。
光葉も最初はもう、真面目に聞いてあげなよ。といった様子だったのだが、あまりにも構って来る為か、途中からは自分からも俺と戯れ始めていた。
そんなスキンシップがしばし続いていると、皆の視線が俺達へと集まってくる。
「ちょっと沢木、あんたもちょっとは考えなさいよ」
ふざけんな。俺は無駄なことは考えない主義なんだ。
「あー、そろそろシャワーでも浴びて来る」
「あ、私も行く」
というわけで、未だにがやがや喧しい女性陣から退避して、俺と光葉は外へと脱出するのだった。
頑張れ木場。そんな縋るような眼をしても俺は助けないぞ。