それぞれの午後5
視聴覚室には今、六人の男女が居座っていた。
3班のオタクチームである。
入口手前の席に篠崎美哉が座り、その周囲に山田壮介、御堂伴、足立飽戸の三人が侍っていた。
山田が肩を揉み、御堂がジュースを、足立は地面に跪き篠崎の椅子になっていた。
本来なら屈辱的な行為だが、足立にとってはとてつもなく最高の御褒美である。
背中越しに感じる女の尻の感触を、彼は全身全霊を持って感じているのである。
「んー。やっぱり仲間にならない」
「おかしいぞなもし、これだけ体力減らせば普通は仲間にできるぞなもし」
「んー。こればかりはゲーム内の確率の問題だしなぁ。なんでだろ?」
足立は会話に参加できないが、御堂と山田が率先してゲーム画面を横から覗き込む。
なんでもない様子を見せながらもすぐ隣に来た篠崎の髪から漂う良い匂いを存分に楽しむ。
彼らにとって女性というのはまさに未知の生き物であり、あこがれの存在なのである。
ゲームを教える振りをしながらなんとか彼女に近づこう、接触しようと必死である。
しかも、彼女にとって嬉しい事を行えば、ホッペにチューをしてくれるのである。
例え金髪アゲ盛りヘアの見るからにギャルといった遊びまくってそうな女性であろうとも、自分たちに良くしてくれる存在は媚びてでもお近づきになりたいのであった。
そんな四人から離れた場所で、原円香は溜息を吐きながらゲームをしていた。
原はそこまでオタク達にサービスする気にはなれず、かといってゲームはそれなりに出来てしまっている。
集まったオケモンも多いので篠崎のように男達を侍らす必要もないのである。
そもそもがそんな事をする気も無いのだが。
「なんてーかさ……男って単純よねー」
「それ、僕に言ってるのかい?」
「だって話相手あんたしかいねーじゃん」
デブった身体に鉢巻き付けたオタク、貝塚烈人と隣り合い、原は再び息を吐く。
「あ、またゲット。なんか美哉に悪い気がするなァ」
そんな言葉に、貝塚は原を見る。
金髪ガングロ。付け爪は鋭く鋭利な刃物にすら見える。
そんな長い爪五本を器用に動かしゲームをする原はスタイルだけは貝塚の好みだった。
しかし、スタイルだけだ。色黒な肌は好みじゃないし、ギャルというだけで貝塚にとって恐怖の対象だ。
出来れば関わりたくも無い存在なのだった。
それでも、班になってしまったからにはとにかく女性たちとコミュニケーションして最悪の結果が起こらないようにしないといけない。
考えた結果ゲームを与えてみたのである。
自分の好きなモノを相手に紹介して仲間に引き入れる。
下手したら投げ捨てられて罵倒されるかもと思ったが、案外すんなり受け入れられた。
貝塚にとっては良い班員だったのだ。
二人はゲームの虜となり、こうして今もオタク達の側でゲームをしてくれている。
1班、2班はその特性上殺人まで起こってしまったが、この3班は平和。殺人など起こりようも無い。
このゆったりした時間が続けばいいな。そう思う貝塚であった。
「あ、鉢巻きリーダー」
「鉢巻きリーダーっ!?」
「いや、名前思いだせなかったからさ、ちょっとここ教えてよ」
原が指差して来たのは入り組んだ迷宮だった。
攻略方法は頭に入っているので仕方無いな。と貝塚は原に近づき優しく教えていく。
オタクチームを纏めているだけあって面倒見はいいのであった。
「んー? ジュース切れた?」
「か、買って来るぞなもし!」
「お腹空いたなァ。おやつほしいなー」
「わ、私めで良ければ行って来るですぞー!!」
「おっけー。んじゃよろしく」
篠崎が立ち上がり、普通の椅子に座る。
御堂と足立が先を争うように走り去って行った。
「……あんたは行かないの? 山田」
「ああ。拙者、そんな事をする必要なないからな。ふふ、見たまえ篠崎君」
「ん? うわ、何コレ!? 凄いカラフル! 可愛い! めっちゃ欲しい!」
「ふふ、なんなら通信で送ろうか?」
「良いの!?」
「ああ。別に構わんぞ。ただ……」
ごにょごにょと篠崎に何かを告げる山田。
目を見開き驚く篠崎。腕を組んでうーんと唸る。
山田の顔を見て困ったような顔をして、さらに深く考える。
「こいつも付けよう。裏キャラのムーだ」
「うぐっ」
オケモンの姿がクリティカルヒットだったらしい。
呻く篠崎はむむむ。と考え、そして息を吐く。
「はぁー。わかったわかった。わかりましたー。今日の夜でいい?」
「ま、マジに、いいの!?」
「今回だけよ?」
「ああ、それでいい」
よしっと思わずガッツポーズする山田。作戦が上手く行ったらしい。
「んじゃ、とりあえず何処で待ち合わせる?」
「で、では……で」
「おっけー」
再び耳打ちする山田。
篠崎はしかたないわね。と苦笑しながら了解するのだった。
それを見ていた貝塚は、なぜか嫌な予感を覚えたが、原に尋ねられて意識を原へと戻し、そのまま危機感を忘れてしまうのであった。