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増えた導火線

 屋上から皆が去って行く。

 残ったのはへたり込んだ田淵と俯いたまま立ちすくむ足立。俺と光葉の四人だけだ。

 光葉は俺が留まってるから居残ってるだけだろう。


 やるせないな。本来彼女は死ぬ必要は無かった。

 大門寺を恐れた余り、後ろに下がり過ぎての転落死。

 手を掛けては無いが、大門寺に殺されたと言うべきか。

 言うなれば、最上という凶器を使い、田淵が手を汚さぬまま自分を汚した者と見捨てた親友を殺したようなものだ。


「食事……行く?」


 不意に、居たたまれなくなったらしい光葉が遠慮がちに尋ねて来る。


「ああ……そうだな」


 突っ立ったまま悔しげに唇を噛む足立と頭を抱えてぶつぶつ呟いている田淵が心配と言えば心配なんだけど、俺が居たところで意味は無い、か。

 俺は最後に一度だけ二人を見つめ、踵を返して光葉と屋上を後にする。


「田淵……」


「……ッ!?」


「とりあえず、昼飯にしよう。後で、二人の遺体埋めねぇと、だし……」


 俺達が屋上から姿を消すと、足立の声が聞こえた。

 どうやら彼も食堂には来るらしい。

 ただ、どうかしてるよな俺達、死体が出たのに食事優先。死体の埋葬はその後、とかさ。

 香中なんてまだ血を垂れ流してるのに……


 食堂に辿り着く。

 皆沈んだ空気を醸し出してるか、と思ったがそうでも無かった。

 井筒が無理に明るく振る舞う必要も無いくらいに喧しい。

 まるで殺人など無かったかのようだ。


 おそらく空元気で井筒が無理してテンション上げようとしてたんだろう。

 でもその合間に小川にべったりくっついてた川端が何かアクションを起こしたようで十勝、中田、日上の三人が川端に詰め寄って口論し始めている。

 小川は困った顔をしているが、何やら羨ましい気がする。


「ぎるてぃ?」


 小川についてはどうでもいいので視線を外してオタクチームを見る。

 なぜか篠崎の周りに御堂がジュースを差し出し、足立がパンを捧げ、山田が肩を揉んでいるという逆ハー現象が巻き起こっていた。

 それを貝塚と原が呆れた顔で見つめている。

 屋上で起こったキス騒動はオタクなチェリーボーイたちには刺激が強過ぎたようだ。なんかもう奴隷みたいになっている。


「んーこのパン好きなのよねー、ありがと、チュッ」

「おっほーですぞーっ」

「か、肩のコリはどうですか」

「んー。続けてー」

「じゅ、ジュースを持って……」

「あ。ごめんコレ好きじゃないんだよね。やっぱコーラっしょ」

「すぐ替えて来るぞなもし!」

「あ、それ私が貰ってもいい?」


 原に言われ、御堂は彼女の机にジュースを置いて頬を向ける。

 原は良く分かってないようで、何してんの? みたいなキョトン顔だ。

 ホッペにチューが報酬らしいが原に求めるのは違うだろ。


「くぁー、やっぱやらんぞなもしっ」


「はぁ!?」


 見返りが無かったせいで憤慨した御堂は置いたジュースをひったくって自販機に向かうと、コーラを買って戻ってくる。篠崎に献上すると、篠崎はありがと。とホッペにチューをしてやった。


「ぞなもしッ!!」


 幸福そうな顔で倒れる御堂。

 原はそこでようやく求められたものを理解して、いや、オタクどもにキスとか無理だから。と小声で呟いていた。


「参ったわ……」


 不意に、隣に気配が生まれる。

 左隣には光葉が居たのだが、右隣は空席だった筈だ。

 声に振り向けば、そこには木場が座っていた。


「どうした?」


「私のせいかしら?」


「木場の? 何が?」


「高坂さん。沢木君はこうなると分かってて黙ってたんでしょ。下手に追い詰める訳にはいかないって」


 別にそんな訳ではなく、ただ一応一緒に眠った仲なわけだし、大門寺の怒りを一身に受けるには可哀想だと思っただけなんだが……


「真相、究明してもいいことないのね……」


「でも、何も分からないよりはいいんじゃねぇか。ただ……」


 こういう真相は後味が悪い。

 食べていた食事の味が無くなった気がする。


「あ。田淵さん、足立君」


 遅れてやって来た二人に井筒が気付いた。

 賀田と及川が席を立って食事の用意をして二人の座席に食事を届ける。


「えっと、その……」


「玲菜、今はそっとしときなさい」


「あ……う。うん」


 何か言いたそうにしながらも二人に声を掛けられなかった井筒が及川に連れられ離れていく。

 二人は無言で食事を始める。

 俯いているしゆっくりとした動作なので皆が声を掛けにくいし空気が重くなってしまった。


 不意に、ぎゅっと裾が握られる。

 見れば光葉が不安げに震えていた。

 大丈夫だ。とでも言うように抱き寄せる。

 頭を撫でて落ち付けようとしていると、所沢と目があった。

 俺を殺しそうな目で射抜きながらも、何も出来ない自分にいら立っているように見える。


 ああ、ヤバい兆候だな。

 その内俺、奴に殺されるんじゃないだろうか?

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