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第二の真相

 犯人はわかった。

 問題はそれを指摘したくないことだ。

 だけど、俺が言わなくても気付いてしまった空気の読めない女がいた。


「つまり、香中君を最上さんを使って刺し殺した犯人は……高坂佐代里、あなたね」


 俺と同じ結論に辿り着いたらしい木場は周囲の驚きや、足立が必死に押し隠そうとしていた事実を指摘する。


「……ぁ」


 木場に気押されるように高坂は一歩後退する。

 ゴクリ、生唾を飲み込み震えながら首を横に振る。


「ち、違……」


 恐怖に怯えるように見えるのは、自分が起こしたことに怯える恐怖か? 否、違う。もともと彼女はここに集まった時から震えていた。

 もはやバレるのは時間の問題だったのだ。


「へ? え? 高坂氏?」

「全然接点ない人物ですぞ?」

「なぜ彼女が犯人だと思ったんだよ木場氏」

「今ので犯人なんぞ分からんぞなもし」

「ち、違うよね高坂さん、だって高坂さんがそんなひどいことするはずないもん」

「玲菜、落ち付け」

「で、でも……」

「理由は教えてくれるのよね、木場さん」

「ええ。そうね。私が伝えるのもいいけど……沢木君、あなた、私より早く同じ結論に達していたみたいね。折角だから答えを聞かせてくれる? あなたから」


 ちょ、木場、そこでなぜ俺に振る?


「木場は分かるが沢木も気付いた? でもそれなら斈の時みたいに何で指摘しないんだ?」

「そ、そうよ。気付いたんならなんで指摘しないの?」

「別に高坂さんと接点があった訳じゃないんでしょ?」

「才人様が答えを聞いてるのよ、さっさと喋りなさいよ!」

「そうですわ。さっさとゲロっておしまいなさい」


 あら失礼。と自分の発言に気付いた日上が慌てて口を塞ぐ。

 あいつは言動がいちいち残念だな。

 まぁそれはいい。俺が口を噤んだのは、香中を殺したのが高坂だと気付いたからじゃ無い。


「この殺人が、事故だからだ」


「事故?」


「確かに犯人は高坂だろう。でも、殺意は無かった」


 真相に気付けば簡単なことだった。

 位置関係は大門寺や俺達が見た配置のまま。


「何が起こったかは簡単だ。足立と高坂に追われた田淵が最上の乗った校長椅子を押し出した。直進に居た高坂はこれを受け流し足立に。突撃して来た社長椅子をぎりぎり止めた足立はそのまま高坂に返した。返された高坂もまた、田淵向けて押し返した。だけど……田淵は受けずに避けたんだ。そして……遅れて校長室にやって来た香中に突き刺さった」


「……は?」


「「「はぁっ!?」」」


「小川、確か俺や大門寺と出会った時、言ったよな。ついさっき香中に出会ったって」


「え? ああ。言ったよ。実際階段上がる直前にぶつかったから大門寺たちと会ったのは一足違いだったな」


「つまり香中は騒動の最中急いで廊下を走っていた。そして高坂が押し出した校長椅子を田淵が避けた瞬間、校長室に入って来た香中は田淵の背中で隠れていた校長椅子に気付かなかった。気付いた時には自分の目の前に最上が来てたんだ。だから、俺達が発見した時、田淵は尻持ちを付いていた。そして香中の直線状に居て最上を押し出せるのは、高坂しか居ない……」


 これは事故だ。

 不幸な事故だ。

 でも、他人に殺しをさせた立派な殺害だ。


「ち、違うの、私、私殺すつもりなんて……だって、美里が避けた先にいつの間にか香中君がいて……」


「だったら、だったらその場で事故だと言えば良かったろうがッ! テメェが黙ってたせいで明奈がッ」


 怒りと共に大門寺が叫ぶ。

 怯える高坂は徐々に後ろに下がって行く。


「っ!? お、オイ待て」


「い、嫌、来ないでっ。違う、私、違うのッ」


 気付いた大門寺が慌てて足を踏み出す。

 大門寺に恐れを抱いていた高坂はさらに下がる。

 俺達が気付いた時には遅かった。

 下がり過ぎた高坂は既に屋上の縁に下がっていたのだ。

 大門寺が近づこうとした瞬間にさらに下がり虚空を踏み抜く。


「……え?」


「馬鹿野郎ッ」


 グラリ、傾ぐ高坂。咄嗟に助けを求め手を出したのは、田淵だった。

 目を見開く田淵は、しかし、あまりに突然のことで反応すらできない。

 視界から一人の少女が消えていく。


「い。いやああああああああああああああああああああああッ」


 少しして、何か重量物が落下した音が、一度だけ聞こえた。


「あ……はは。あははははは。死んだ? 死んだっ。私を見捨てた罰よッ、あいつ、死ん……」


 田淵が嗤う。

 俺たちは誰も何も言えなかった。

 いや、でも、俺は言わずに居られない。


「これで、お前も仲間だな」


「ははは……は? ……仲間?」


「お前が香中に連れ去られる時手を差し出し助けを求めたように。今、高坂が助けを求めて差し出した手を、親友のあんたは取らなかった。俺達も取らなかった。誰か一人が取ってれば……彼女を救えたかもしれないのに、皆で無視したんだ」


「……あ」


 目を見開く田淵。

 怒りと憎悪で曇っていた瞳に光が戻る。


「あ……ちが、違う。私、こんな、違うッ。見捨てたんじゃ……これじゃ、これじゃ私も一緒じゃない……」


 そう、一緒だ。

 結局被害者になるかどうか、その一線以外に違いは無い。

 香中に連れ去られたのが高坂だったとして、きっと田淵は同じように見捨てた筈だ。

 そのことに気付いてしまった。


 両手で頭を押さえ、その場にへたり込む田淵。

 大門寺が舌打ちして踵を返す。最上を抱き上げ一人足早に去って行ってしまった。

 クソッと屋上入口の壁に拳を叩きつけ、校舎内へと降りていく。


「と、とにかく、食堂に、行こう? 食事、できてるから……」


 井筒も辛そうにしながらも皆を促す。この場に居たくなかった彼らは一人、また一人と屋上を去って行った。

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