第二回学級裁判4
「違う?」
大門寺の呟きに田淵はクスリと嗤う。
ざわつき出すメンバー。田淵が犯人だと思っただけに肩透かしを喰らったようだ。
正直俺もこいつが犯人だと思っていただけに思考が混乱している。
いや、まともに話を信じるべきじゃない。本当かどうかも分からないんだ。
落ち付け。一先ず冷静に考えられる思考の余裕をもち直せ。
隣を見る。不安そうに田淵を見ていた光葉が俺に気付いてどうしたの? と見上げて来た。
癒された御蔭で思考が回りだす。
「ええ。確かに、私は最上を凶器として使うことにしたわ。でもそこに足立と佐代里が来たの。なんとか二人を振り切って凶器を入口付近まで持って来たんだけど、あまりにも邪魔だったから佐代里狙って押し出したわ」
「お、おいおい、それじゃ死ぬのは高坂じゃ……」
「流石に迫ってくる最上なんて無防備に当る訳ないでしょ。斜め後ろに居た足立に押し返したわよ」
「足立に?」
視線が足立へと向かう。
俯いた足立は困ったような顔をしていた。
思いつめたような、何かを隠すような。皆の視線が集まったことで、あっと今の状況に気付く。
そう言えばさっきから高坂と足立の声聞こえなかったな。当事者なのに何の説明にも加わらなかったのは何故だ?
「向かって来た明奈をどうした。足立?」
「……言いたくねぇ」
ここで言いたくないはマズいだろ。
しかし、足立は言う気はないようで、顔を青くしながらも口は噤んだままだった。
皆の疑惑の視線が射抜く。それでも話をする気は無いと足立は口をぎゅっと結ぶ。
「いやいや、言いたくないって……」
「足立、白状しろよっ。黙ってるってことはやましいことしたってことか?」
「え? じゃあ香中殺したのって、足立?」
「待ってほしいんですぞ。田淵の話だって鵜呑みにすべきじゃないですぞ。嘘があるかもしれないからロンパしなきゃダメですぞ」
「いや、ゲームじゃないからね足立く……あっちも足立でこっちも足立とか、分かりづらい」
「篠崎氏、それは今関係ないぞなもし」
「っつか足立って直前に香中と殴り合ったんだろ。やっぱ恨みからか?」
「あれ? というか、香中居なくね? まだ出て来てないよな」
「そういえば?」
「あら。だったら足立さんには犯行不可能ですわね」
「なんでだよっ!? この後香中出現すんだろ。だったら容疑者は足立、高坂、田淵の三人しかいねぇじゃねぇか。犯行は不能じゃ無い、むしろ一番容疑が掛かってんのが足立だって。馬鹿なのか日上」
「何ですって三綴、縊り殺しますわよ」
「え、何それ恐い」
鋭い付け爪で縊る動作をした日上に震えあがる三綴。一般男子には恐怖しかない動作だったようだ。
「もう一度聞くぞ、足立……」
焦れた大門寺が隣の足立の襟を掴み上げる。
足立の身体が浮き上がった。
睨みつけられた足立の身体が竦むが、足立はぎゅっと目を瞑った後、大門寺に視線を合わせて睨み合う。
「何があった。俺が来るまでに、何をした、足立ッ」
「言わねぇ、言えるわけがねぇ! 大門寺サンが相手でもっ」
目と目がくっつくほどに顔を寄せ合い睨み合う。
しかし、双方目を逸らすことは無かった。
緊迫した雰囲気が漂うが、膠着してしまったのも確かだ。
皆の視線が大門寺たちに向かう中、高坂と田淵、そして最上だけが俯いていた。
あの部屋で何があったのか。
なぜ足立は喋ろうとしないのか。
今ある素材で何か考えつくだろうか?
順序立てて考えて見よう。
まず田淵が最上を拘束、社長椅子に乗せて身動きを封じた。
高坂と足立がそこにやって来て田淵を止めに入る。
田淵はなんとか二人を振り抜き入口側へ。その時最上を乗せた社長椅子も彼女が持っていた。
だけど、二人がしつこかったせいで田淵はイラつき、社長椅子を高坂へと押し出した。
高坂はこれをなんとか避けて社長椅子を足立に押し出した。
その後何かがあって香中の心臓を最上の持っていた包丁が突き刺した。
順当に行けば足立が椅子を返したってところだが……
俺が覚えてるのは入口に大門寺、その先に香中がいて、斜め前に尻持ちついた田淵。
デスク側には足立と高坂が居た訳だ。
「した……」
「あ゛ァ゛!?」
「そのまま返したんだよ俺はッ」
大門寺のガンつけに足立はついに白状する。
「返した?」
「最上が迫って来たからぎりぎり受け止めて、反転させて高坂に返したんだよッ」
「わ、私は美里に返したわよ!?」
慌てて叫ぶ高坂。
再び視線を集めた田淵は、呆れた顔で告げた。
「避けたわ」
「え? と、それで、香中君は?」
井筒の言葉にフフと笑うだけの田淵、高坂も足立も再び俯き答えない。
でも、今ので分かってしまった。
香中が保健室に向かったのは大門寺のすぐ前のこと。ならば……香中を殺した犯人は……