第二回学級裁判3
さて、まずは事件を整理しよう。
これは校長室で起こった事件だ。
校長室には額縁に入った昔の校長の写真とか無数のトロフィーとか星条旗みたいな旗があり、デスクと校長椅子や重要そうな書類に本棚。本棚の本は分厚い学問書かなにかで見る気にもならない専門的な奴だったのを覚えている。
凶器に使えるのは旗の先に付いた鋭い槍のようなのと、トロフィーという鈍器の数々。
正直に言えば人を殺すだけならこっちを使った方が楽だと思う。
けれど、今回凶器に使われたのは最上という人間なのである。
彼女は校長椅子に座らされ、ガムテープでぐるぐる巻きになっていた。
当然自分で出来るようなモノではなく、ガムテープを使ったのはほぼ確実に田淵であることは決定的だろう。
ならば行われた犯行は、キャスターが付いている椅子を香中に押し出すことによる殺害。
でもこれ、本当に可能なのか?
「い、いやいやいや、最上を使った殺害って、実際香中殺したのは最上じゃねーの?」
「何だと貴様!?」
「ひぃっ!? 間違ってましたすいませんっ!?」
「榊、下手なこと言うな。どう見ても大門寺センセイのスケって奴だろ」
「そ、そりゃわかるけどよ坂東、刺したのは最上なんだろ?」
「まぁ、沢木が普通に言っちゃってるし、大門寺センセイも否定してないからなぁ。そこは確定してるんだろ。多分沢木もセンセイに脅されて最上以外の犯人を作り出し「ア゛ァ゛?」……イイエナンデモアリマセン」
「そ、そう言えばさ、小川君と川端さん、何か言ってたよね」
「え? こっちに来るの?」
「いいよ美海、別に隠すもんでもないし」
「ふむ。小川氏も何か関わりが?」
「関わりというか、校長室に田淵と最上がやって来てな、田淵にここ使うからしばらく出て行ってくれって言われたんだ」
「田淵さん、ガムテープとか包丁とか持ってるし、最上さん顔が蒼かったから大丈夫か心配だったんだけど……」
「まぁ、下手に部屋を占拠して刺されちゃかなわないしな、二人に部屋を譲ったんだ」
多分そこまで考えてなくて、まぁ別の場所でもイチャ付けるしいいか。程度に考えて外に出たんだろう。言い訳は確実に後付けだ。事件が起こった後でそう言えばあの道具持ってるのは不自然だったよなぁ。と思いだして付けくわえたんだろう。
「ちょっと待て。んじゃ犯人って……」
皆の視線が田淵に向かう。
大河内のように俯き加減の田淵。肩を振るわせながらゆっくりと顔を上げていく。
嗤っていた。
「ひぃっ!?」
「だ、大丈夫よ玲菜」
及川が咄嗟に怯える井筒を抱きすくめ田淵の視線から隠す。
腹を抱え、嗤いだす田淵。意味がわからず戸惑う皆に、涙まで零しだした田淵は目元を拭いながら不敵な笑みを見せる。
「うふふ。ええ。そうよ。最上を拘束したのは私。校長室にある椅子はキャスター付きだから背中から押せば勝手に前進していくの。沢木の言う通り、これは最上を仕立て上げた凶器よ」
さも可笑しそうに告げる田淵。隠すつもりは毛頭ないらしい。
「お、お前、正気かよ!? 他人に殺しさせるとか」
「正気? 狂ったに決まってるじゃないっ!」
笑いは一瞬でなりを潜めた。女とは思えないほどに周囲に響く怒声に、言いかえされた坂東が一歩退く。
「香中が何したか分かって言ってるの!? 私がどれだけ助けを求めたかっ! あんたらは誰も助けてくれなかった。私を見捨てたっ。そんな奴等に殺しをさせて何が悪いのッ!! お前ら全員地獄に堕ちろッ。堕ちればいいのよッ!!」
「お前……」
「ふざっけんな! 俺らは関係ないだろがッ」
「関係ないなら無視してもいいの! 私犯されたのよッ! あんなクソ野郎にッ!!」
「助けなんざ求めてなかったじゃねーか! 声に出したのかよ!?」
「そ、そうだ! お前香中に従うだけだったじゃないか」
「そ、そういえば助けとか聞いてなかったですぞ」
「えー、んじゃ逆恨みじゃん。マジサイテー」
「しかも人に殺人なすりつけるとか、頭相当ヤバくない?」
「だったら、助けてって声あげたらあんたら助けてくれたの!? ンなわけないわよね? お前らどうせ香中恐れて無視したでしょッ」
「そ、それは……」
「うるせぇッッ!!」
ズダンッ
皆がトーンダウンした瞬間、それまで傍観していた大門寺が床を思い切り踏みつける。
一瞬地面が割り砕かれひび割れる幻想が見えた気がした。
大門寺の大声で皆が一斉に押し黙り大門寺に注目する。
「ンなこたぁどうでもいい。明奈に香中刺させたのはテメェか田淵。……認めるんだな?」
押し殺したように告げる大門寺。
しかし田淵はクスリと笑み、楽しげに告げた。
「いいえ、違うわ」
……ん? え?
「違うのッ!?」
思わず俺は声に出す。
田淵の奴、最上を凶器にしたことまで認めたのに、ここ否定するのかよ!?