第二回学級裁判2
「あー、それでだ。俺と高坂が下足場に戻って来た時、田淵と遭遇した」
篠崎によるオタサー姫状態が一段落するのを待って、俺は話の続きを告げる。
しかし、さっさと告げろと言っていた筈のオタク共はもはや話を聞いている状態ではなかった。
唯一貝塚だけはこっちに耳だけでなく視線も向けて来ているので、彼に聞かせるように告げておく。
「田淵氏は何してたんだ?」
「私?その時は……ああ、丁度トイレに行って手を洗った後ね。シャワー浴び直そうかとか思いながら廊下歩いてたら佐代里と沢木にあったの。少し会話してたら保健室から足立とあのクソ野郎が出て来てね。殺してやるとか言われたから直ぐ近くの階段駆けのぼって逃げたの」
貝塚の疑問に普通に答える田淵。隠すつもりは無いらしい。
「ってことは、田淵氏と香中氏は既に引き返せない状態で互いに殺意を抱いていた訳か」
「その香中を追って足立が走りだして、俺と高坂がその後を追った」
「ふむ。となると沢木氏よりも足立氏にその後を聞いた方がいいか?」
「俺達と別れた後そんな事になってたのか。じゃああの時校長室を明け渡さなかったら……こんなことには……」
「才人、自分を責めないで。二人は憎しみ合っていたのよ、あの時校長室を明け渡さなくても最悪の事態になっていたと思うわ」
「そう、だろうか?」
「そうよ」
「ちょっと、川端さん、あんまり才人様に抱き付かないでくれます!?」
「あら、彼氏に抱きついて何が悪いの?」
「くぅぅ、メギツネめぇぇぇ」
小川ハーレムが騒ぎ出す。
とりあえず話が進まないから黙っててくれないかな?
「足立君、その後は?」
「ああ、その後は俺が香中たちに追い付いて、田淵の首絞めてた香中を殴った。その後は大門寺サンが来るまで俺は香中と殴り合ってた」
よくよく見れば足立の顔は結構腫れ上がっている。香中は右腕が折れていたはずだが、片手で殴り合って足立はようやく拮抗したようだ。もしも香中の右腕が負傷してなければ、足立は即座に殴り飛ばされ防波堤にすらならなかっただろう。
「足立が香中の相手をしてる間に俺と高坂は田淵を連れて逃げたんだ。ただ逃げても追い付かれると思って、大門寺を頼ることにした」
「おお、ここでお二人がでてくるぞなもし」
「最上はどう関わるんだ?」
「どーでもいいけどそろそろこっちも電池切れそう。誰か電池くれない?」
「貰ったの私のだから嫌」
「こっちももうないですぞ」
「諦めたまえ壱岐氏」
「ちぇ……」
壱岐がゲームの電源を落として溜息を吐く。
ようやく話に耳を傾けるようだ。
で、なにがどうなったの? とか隣の所沢に告げる。所沢は困った顔で木場に視線を向けるが、聞いてなかった壱岐にもう一度話す気は無いらしく、続きを促す。
「それで、田淵と最上を残して俺、高坂、大門寺が香中と足立の元へ向ったんだ」
「あれ? 最上残したのか?」
「あー、それで二人で居たんだねー」
「井筒さん?」
「あ、購買部で会ったんだよ。皆にご飯出来たよーって呼びに行った時に。二人一緒で田淵さんがガムテープ探してたの」
「なぜにガムテープ?」
「というかそこに至るまでの過程が抜けてるだろ」
「証言を飛ばさないでほしいのですぞ」
デスゾに言われ、井筒たちが押し黙る。
井筒はわざわざ自分の口元に手を当てお口にチャックのジェスチャーをして口を閉じた。
「沢木君、続きを」
「ああ。大門寺が香中と足立を殴って止めた。二人が冷静になったあと屋上に戻ったら田淵と最上が消えてたんだ。その場に居た俺、高坂、大門寺、足立、香中で二人の捜索に向かった」
「ああ、そこでさっきの井筒さんの話に繋がるのか」
「そういうことです」
「にしてもガムテープなんて何に使ったんだ?」
「そもそもなぜ屋上から二人で購買に居たのかが不思議だよな」
「なぁ、田淵さん、どうして購買に行ったんだ?」
「あら? それは聞くまでも無いと思うけど? 香中殺そうと思って家庭科室で包丁手に入れて、購買でガムテープ入手して、後は校長室にあるキャスター付きの椅子があればいいのよ。私の手を汚すことなく殺せるもの」
「ん? 汚すことなく?」
「ってか殺す気だったのかよ!?」
「いや待て、実際香中死んでるんだろ、ってことは……マジで殺したのか!?」
三バカトリオが驚愕の面持ちで田淵を見る。
田淵は三人の台詞に苦々しげに舌打ちした。
「それで、結局何が起こったの沢木君」
「ああ、その、俺達が香中の悲鳴を聞いて駆け付けた時には……香中が刺されてたんだ。最上に」
一瞬、時が止まった。
皆田淵が香中を殺したと思っていただけに、意味がわからず思考停止したようだ。
でも、このままだと最上を殺人者扱いする奴がいかねないし、大門寺が暴走する前に訂正しておこう。
「ただし、校長椅子にガムテープでぐるぐる巻きにされて両手を膝に乗せた箱で固定されて、前に付きだす形で包丁を握らされてた。自力で動けない状態での殺害だ。つまり、彼女の意思で香中を殺した訳じゃ無く、第三者に殺しを強要された。これは最上という凶器を使用して香中を殺害した第三者による殺人だ! 真犯人は別にいるッ!!」
思考停止に陥った全員への駄目押しの追撃。
全員どういう状況なのか整理するのに時間が掛かっているようだ。俺も今のうちに状況を再確認しておこう。