第二の殺人1
四階を隅々まで探したけど最上も田淵も見当たらなかった。
仕方なく俺と大門寺は一階層下に降りて三階を探している。
香中が居る筈なのだが、呼びかけても反応が無い。
「香中の奴が居るんじゃないのか?」
「わかんねぇ。もしかしたら調べ終えて下に向かったか、あるいはどっかで遭遇して声を出せない状態にされたか……」
「チッ、面倒くせぇ」
とりあえず三階は後回しだ。と、思った時だった。
「あ、居た居た。沢木君大門寺君、ご飯出来たよー」
なぜか家庭科室横の調理実習室から井筒が現れた。
おかしい、食堂で食事を作っていた筈の井筒が何故ここに?
「なんで井筒さんがここに?」
「うん、食事ができたから皆に声掛けしてきたんだよ。さっき香中君にあってね、告げたら今忙しいとか言って走って下に行っちゃった。田淵さんたち探してたみたいだけど、購買でガムテープ探してるの見たよって言ったら凄い勢いで走ってったよ。ただ……包丁が一本足りないとか言ってたど……何するつもりだったのかなぁ」
「包丁?」
「うん、ここ、調理実習室の包丁が一つ消えてたみたいで、私も確認して見たんだけど、確かに無くなってたよ。……ねぇ、もしかしてまた、嫌なこと起こっちゃうの?」
笑顔から一転、不安げに告げる井筒に俺と大門寺は顔を見合わせる。
「購買か……」
「今から行ってどうなるって話だが、可能性があるなら行くべきだよな」
井筒を仲間に加えて俺たちは一階の購買部へと向かった。
「そう言えば足立と高坂には会ったか?」
「うん。足立君は二階にいたよ。足立君も田淵さん達探してたから購買のこと言ったらすっとんでっちゃった」
「なら奴らも購買にいるのか」
「その筈だよ?」
「高坂は?」
「うーん、私は会わなかったかなぁ」
駆け足で二階に降りる。すると丁度階段を上がってきた小川と川端に遭遇した。
丁度二階に降り立ったところだったので出会いがしらにぶつかりそうになる。
「うわっ!? またか危ないな」
「スマン小川。……また?」
「ああ。さっきも廊下を香中が走っててぶつかりそうになったんだ。流石に校則うんぬん言う気はないけど、周囲の人の迷惑を考えてほしいかな。田淵と最上にも校長室追い出されるし、なんなんだよもうっ」
「っ!」
止める暇すらなかった。
大門寺の太い腕がにゅっと伸び、小川の首……じゃない襟を掴み取る。
グイッと引っ張りキスするかと思えるほどの近距離で叫ぶ。
「明奈を見たのかっ!」
「え? あ、明奈?」
「才人、最上さんの下の名前よ」
「あ、ああ。見たよ。ついさっき二人で校長室に来てここ使うから出てけって」
「最上の奴凄く怯えてたけど、大丈夫かしら」
即座に小川をポイ捨てする大門寺。
壁に背中を打った小川が呻き、川端が慌てて擦り寄る。
「だ、大丈夫才人!?」
「痛つつ、お、おい、いきなり何すんだよッ!」
「謝罪は後だッ」
それだけ告げて階段を二段飛ばして降りていく大門寺。
切羽詰まった顔が余裕の無さを露わしている。
これ、田淵ぶっ殺されるんじゃ……
「井筒、急いで大門寺止めるぞ!」
「ええっ!? 大門寺君を!? ムリムリムリッ」
驚いた顔をする井筒を放置して俺は大門寺の跡を追う。
小川と川端も何か変だと思ったようで井筒と共に追って来た。
丁度俺が一階に辿りついた時だった。
「があああああああああああああああっ!?」
男の悲鳴が轟いた。
びくり、一瞬止まった大門寺だが、声の出所が校長室と気付くや即座に走りだす。
俺も止まってなど居られなかった。
「ね、ねぇ今の悲鳴って……」
「また、なのか、また伊織みたいに誰かがっ!?」
「ま、まさかそんな。昨日の今日よ!?」
不安げな井筒、小川、川端に、俺は答えを返すことなく校長室へと辿り着く。
大門寺がドアを開いていたのでそのまま飛び込む。
そこに居たのは、奥の方から足立、高坂、田淵、そして、最上と香中、大門寺。
最上はキャスター付きの校長椅子に座らされ、ガムテープでがんじがらめに固定されていた。
購買で見付けたのだろうか? 大きめの箱を膝に乗せられ、両腕を伸ばして箱の上に乗せ、腕同士をガムテープで固定。
その両手の先には、同じようにガムテープで固定された包丁が握られていた。
顔には赤い飛沫を貼りつけ、驚愕に染まった顔で、手にした包丁の先に貫かれた……香中を見つめていた。
言い逃れようもない殺害現場。
香中の心臓を貫く包丁に、誰も彼もが声を失っていた。
ぐらり、香中が力無く倒れる。
流れ出る血溜りが、今、彼が死に絶えたことを主張しているかのようだった。
この殺人は明白だ。最上明奈により、香中宗次が殺された。
すぐさま大門寺が最上に駆け寄る。
拘束された最上からガムテープを必死に剥がし、優しく抱きしめる。
彼女の手から包丁が零れ落ちた……