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消えた二人

「熱は冷めたか?」


 短く尋ねた大門寺に、壁に激突した二人はよろめきながら身を起こす。


「だ、大門寺……サン」


「ありがとうございました。冷静失っててすいません」


 二人とも殴られた場所を押さえつつ立ち上がる。

 たった一撃で黙らされた二人は互いに視線を交錯させ、舌打ちしながらすぐに離す。


「で、何があった?」


 ある程度は俺から聞いていた大門寺だが、一応確認の意味も込めて双方の言い分を聞くことにしたようだ。

 まずは足立が事のあらましを説明する。

 俺の説明と殆ど変らなかったので大門寺は一度俺に視線を向けて、香中に向け直した。


「あ、ああ。その、逸物切られてカッとなりました。もう、殺そうとかしませんけど、でもっ、あの女放っといたら俺が殺されますッ、大門寺サン、あいつのが危険だ! 田淵の奴、俺以外のクラスメイト全員恨んでますよッ、他の奴と二人きりになったら復讐しかねない勢いです。すぐに拘束なりなんなりしねぇと俺ら全員あいつに殺されるッ」


 確かに田淵は俺達全員許さないとか言ってたけど……

 でも流石にそんなことするとは思えないというか……


「……おい、沢木、今、あいつと一緒に居るのは?」


 だが、大門寺はそう思わなかった。

 焦った顔で事実確認を始める。

 えーと、ここに足立、香中、大門寺、俺、高坂が居る訳だから……


「最上と二人きり?」


 高坂が呟いた瞬間、大門寺が走りだす。

 俺を押し飛ばし、屋上向けて風のように駆け抜けていった。


「だ、大門寺サン?」


「休戦だ香中、とりあえず後を追った方がいい気がするぞ」


「あ、ああ。みたいだな」


 足立と香中が走りだす。

 尻持ち着いた俺を高坂が助け起こしてくれた。

 少し遅れ、俺と高坂も大門寺立ちの後を追うのだった。


「さ、流石に田淵が最上をどうこうするとは思えないんだけど?」


「だ、だよな……あ、でも高坂、お前と田淵って最上いじってたよな?」


「え? あー、その。なんか大門寺に取り入ってるようなあさましい奴だなって、ほら、あの子そこまで可愛いって感じじゃ無いじゃん。あたしらの方が綺麗なのに目の前で媚売ってるのがうっとおしくてつい……」


 イジメが始まり、調子に乗って今の状況、と。


「でも、あの様子から大門寺とデキてんじゃないのか最上。しかも大門寺の方がゾッコンに見えるぞ」


「……え? マジ?」


 手を出すの、マズかったんじゃないか? 高坂は今更ながら焦りを見せる。

 これからはもう最上には手を出さないでおこう。そんな顔をしていた。


「はぁ、もう、なんなのよ。こんな状況になって美里との仲戻るのかなぁ」


 多分無理なんじゃないか?

 もう、互いに見限って他人に戻った方がいいような気がする。

 いや、俺はそうするってだけで彼女達は修復可能かもしれないから口には出さないけどさ。


 屋上のドアが開かれたままだ。余程急いだようで、蹴破ったのだろうか? 蝶番の上部が剥がれ落ち、ドアとしての機能が無くなってしまっているようだ。

 ドアを潜れば三人の男が周囲を見回しているのが見えた。


 大門寺、香中、足立。

 それ以外、屋上に人気は無い。

 そう、誰も居なかった。

 屋上に居る筈の田淵と最上が消えていた。


「明奈っ、何処だ明奈ッ、明奈ぁ――――っ」


 大門寺の豪咆が周囲に轟く。

 しかし最上からの返事が返ってくることは無かった。


「あの馬鹿、何やりやがった?」


「クソッ!」


 大門寺が走りだす。

 今度はぶつかる訳にはいかないと俺と高坂が道を開ける。

 階段を駆け降り大門寺が去って行った。


「田淵の奴、死ぬんじゃないか?」


「ハッ。大門寺サンの逆鱗に触れやがったのかあの馬鹿、死ねばいいんだあんなクソ女」


「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! あんたたちの喧嘩止めるために大門寺が来たのよ、最上に何かあったらあたし達までヤバいんじゃない!?」


 高坂の言葉に足立と香中は顔を見合わせる。

 すぐにその言葉が現実になりかねないと気付いたようで、顔が蒼くなっていく。

 実は結構仲がいいだろお前ら。


「急ぐぞ足立ッ。最上を安全に救いだせ!」


「あたりまえだッ、最上の安全如何で大門寺サンが暴走しかねないからな」


「あたしらも、美里探しましょ」


「あ、ああ」


 俺たちは四階に向かい、ここから一人一人別れて捜索を始める。

 俺が四階、香中が三階、足立が二階、高坂が一階を探索し始める。

 一つ一つ教室を覗いて行く。

 だが居ない。誰もい……宿直室を大門寺が屋探ししていた。


「うわわ、大門寺!?」


「っ!? ああ、沢木か」


 一瞬焦ったように驚いた大門寺だったが、事情を知ってる俺だと気付くと息を吐く。


「皆が階層ごとに別れて二人の捜索始めたんだ。俺は四階担当」


「すまん、助かる」


「元々最上と引き離す状況にしたのは俺らだ。こんなことになるとは思ってもみなくて、こちらこそすまない」


「いや、お前らのせいじゃ……」


「とにかく他の部屋も探して来るよ」


「ああ、俺も行く、ここには居ないみたいだしな」


 カップラーメンの予備やお茶パックを発見されたが、今はどうでもいいらしく黙ったままにする大門寺、これ、騒乱の種にならないよな。黙っててくれよ大門寺。 

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