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反逆の拳

「待てや田淵ぃぃぃッ!!」


 香中が走る。

 田淵の方が速いのは香中が重傷だから、いや、普通に走ってる時点で軽傷なのか?

 むしろ身軽になったのかもしれない。


「クソ、落ち付け香中! 追い詰めてどうするつもりだよ」


「うるっせぇ足立ッ、テメーは他の奴が邪魔してこねぇようにしとけッ! 教育が足らねぇ! 徹底的に躾てやるぞ田淵ぃっ!!」


「ふざけんなっ、死ねッ!」


 階段を上がりながら振り返った田淵は、迫り寄った香中を蹴りつける。

 真下から追っていた香中が押し出されて階段落ち。

 あわててフォローに入った足立が香中を受け止める。

 しかし、彼もバランスを崩したので背後に居た俺と高坂がぎりぎり足立の背中を押して押しとどめた。


「あ、危ねぇだろ田淵ッ! 今の俺が受け止めなきゃ香中死んでたぞ!?」


「死ねばよかったのよ、クソ野郎共!」


「テメェ、マジキレた……ぶっ殺してやるッ」


 憤怒の顔で階段を駆け上がる香中。


「あ、おい、香中ッ!」


 傷が開いたのか股間部から血が流れ出す。


「チッ」


 鬼気迫る顔で迫る香中に田淵は舌打ちして逃走を開始する。

 二人を追って俺達も急いで階段を駆け上がる。

 丁度階段横にあったトイレに駆け込んだようだ。


「女子トイレよ変態男!」


「ンなこたぁどうでもいいんだよッ」


 咄嗟に掃除道具入れからデッキブラシを取り出し構える田淵。

 しかし喧嘩慣れしているのか怒りで我を忘れたせいか、全く恐れを抱くことなく対峙する香中。


「死ね!」


 デッキブラシを振り下ろす。

 香中は即座に走り寄り、腕でガード。

 香中の腕から嫌な音がしたが、香中は気にせず無事な左腕で田淵の首を掴んだ。


「ぐっ」


「死ねッ、クソ女。もう我慢ならねぇ。死んで詫びろクソが!!」


 田淵もなんとか応戦しようとデッキブラシを振るが、接近した状態では充分な威力を発揮できず、やがて力を失ったように手から力が抜けたのだった。

 それでも必死に首に掛かった手を跳ねのけようと両手で引き離そうとするが、香中の腕力の方が強く、田淵では拘束を解けない。


「止めろ香中ッ、マジ殺しちまうぞ!?」


「止めんなッ、止めんじゃねぇぞ足立ぃ、こいつはここで殺しとかなきゃ俺が殺されるッ、死ね! オラ、死んじまえよクソ女がッ!!」


「止めろっ、それ以上は……ああもう、チクショウが!」


 後ろから羽交い締めで引き離そうとしていた足立だが、もう時間もないと気付いて拳を握る。


「スマン香中ッ」


「っ!? がぁっ!?」


 足立の拳が香中の頬を殴りつける。

 流石にこれでも田淵を絞め殺すことはできなかったようで、吹き飛ばされた香中が壁のタイルに激突する。


「げほっ、げほっ、うぇ……」


「無事か田淵」


「あ……足立?」


「ほら、立て、とにかく逃げっぞ!」


「……オイ、待てよオイッ! 足立ッ! テメェ俺に逆らう気か!!」


「逆らうとかそんなんじゃねぇ! こんな状況で憎しみ合ってる場合かよ!!」


 田淵を背中に庇い、足立が香中と対峙する。


「沢木、高坂、田淵を連れて逃げろ」


「え? いやでも、足立は?」


「香中を鎮める、命狙われて気が立ってるだけだ、冷静になりゃ殺人しようなんて思わねぇだろ」


 流石に香中と対峙する気は無かったので足立の申し出を快く受け取る。

 俺は高坂と共に田淵を拘束して逃げることにした。


「ちょ、沢木?」


「今は一緒に逃げろ。文句は後で聞く!」


 どこに逃げるのが一番だ? 香中と対応出来るのは……大門寺!

 確か屋上だったな。


「屋上に逃げるぞ!」


「なんで上なの? 逃げ場が……」


「大門寺がいる。流石に香中もあいつの目の前で何かはできない筈だ」


「……そう」


 屋上にやってくると、丁度貯水タンクの根元に大門寺と最上が寝転がっていた。


「……ん? もう昼か?」


 俺たちに気付いて身を起こす大門寺。

 気付いた最上も眼をこすりながら起き上がった。


「大門寺大変だ!」


 俺は即座に今あったことを話す。

 香中が田淵のせいで暴走中であること、足立が一人足止めに残ったこと。

 全てを聞き終えた大門寺はチッと舌打ちして立ち上がる。


「案内しろ沢木」


「こっちだ!」


 俺は大門寺と共にトイレへと向かう。

 不安に思ったのか高坂も一緒に着いて来た。

 三階女子トイレ。そこで香中と足立が血塗れになりながら拳を打ちつけ合っていた。

 双方鼻から血を漏らし、唇も切ったのだろう、口元にも血が滲んでいる。


「さっさと沈め足立ッ」


「うるせぇ! 前々からテメェは目ざわりだったんだよッ、いつもいつもイイ思いはテメー優先で、俺だけ貧乏くじだ。いい加減うんざりなんだよッ」


「そりゃあテメーが雑魚だからだろうが」


 クロスカウンター。正確には双方同時に出した拳が相手の頬を直撃しただけだが、それでも二人は倒れず拳を打ちつけ合う。


「チッ。足立は止めようとしたんじゃなかったのか」


「ヒートアップしてるみたいだ。これじゃ二人共を止めないと……」


「仕方ねェ。ここで待ってろ」


 俺を一人残し、二人の元へ近づく大門寺。双方の側頭部に、強烈な拳を叩きつけ激闘に終止符を打つのだった。

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