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導入1

 不意に、俺、沢木修一は騒がしい声に目を覚ました。

 眠っていたのはどれ程だろうか?

 少し前、数学教師の声を子守唄にしてうつらうつらしていたことまでは覚えているのだが、そこから先を覚えていない。


 意識の覚醒と共に昼休憩か何かかとうっすら目を開く。

 すると耳へと聞こえて来る周囲の会話。

 どこか切羽詰まっているように聞こえるのは気のせいだろうか?


「おい、どうなってんだよっ!?」

「俺に聞くなっ。つかマジでなんなの!?」

「皆聞いてくれ。他のクラス見に行ったけど誰も居ないっ」

「ちょっと、誰か外出て来てよ。あのオーロラみたいなのの先どうなってんの!?」

「誰が行くかよっ! テメーが行けよ!!」


 なんだろうか? オーロラがどうとか聞こえるのだが。

 他のクラスに誰も居ない? 放課後になって帰ったか?

 んぁ? と言いながら起きる。


「なぁ、なんかあった?」


 寝ぼけた頭のまま近くに居た誰かに尋ねる。


「ア゛ァ? あー、まだ寝てる奴居たのかよ」


 目の前に現れたモヒカン頭を見付けて一瞬で目が覚めた。

 なんてことだ。声を掛けたのはこのクラスの不良と呼ばれる部類の一人だ。

 確かモヒカンというあだ名の足立次郎という男だったはずだ。

 スクールカーストではある意味上位に位置する彼は、面倒臭そうにしながらも現状を教えてくれた。


「俺もついさっき目覚めたばっかなんだがな。なんでも学校全体がオーロラに包まれてて隔離されたみたいになってるらしい。しかも俺らのクラス以外誰も居ねぇーんだと」


 なんだそれ?

 思っただけではなく声に出していたらしい。モヒカン君は「だろォ?」と告げ、頭を掻きながら教室を出ていく。どうやら彼の話を聞いている間に皆が外に出てしまったようだ。


「皆でよぉ、体育館見に行くんだとよ。オタク共の話じゃこういう状況のゲームは体育館に集まるとクマっぽい人形が出て来るとかなんとかでよ。お前も納得したら来いよー」


 意外と面倒見はイイらしい。足立は目的地だけを告げて去って行った。

 誰も居なくなったせいで静寂が支配する。

 チョーク粉で汚れた黒板。

 揺らめく照明の列はいつもと変わらない。だけど無人となった机の列はどこか不気味に映る。

 ああいや、直ぐ横に一人寝てるな。無人じゃない。


 思わず立ち上がり窓を見る。

 丁度校庭が見える窓からは、校庭の先にある校門までしか見えない。その先は成る程。確かにオーロラと呼べる虹色の靄が出現しており先を見通せなくなっている。


 まるで俺らのクラスだけが学校ごと閉じ込められたかのようだ。

 そして、先程の足立の言葉を考える。

 オタク共が話していたゲームというのは修一もプレイしたことはあったし、似たようなゲームや小説、マンガを見たこともあった。


「ここから出たければ、殺し合えってか? 冗談だろ?」


 自分の考えがあり得ないと被りを振る。

 実際問題そんな事が起こりえるものだろうか?

 確かにそういうパニックが起きて何かしらの非日常が起これ。と思った事はあった。

 でも現実問題日本でそんな事が起こることはまず無いと言える。

 あったとしても野良犬が迷い込むくらいだ。


 でも……本当だったら?

 不意に脳裏に掠めた予感に、乾いた笑いが漏れる。

 もしも本当に、俺たちのクラスで殺し合いが始まってしまったら?

 学級裁判とかで犯人を指摘して、そいつが罰ゲームを受けたりするのだろうか?


 あるいは銃器がそこらじゅうに落ちていて。クラスメイト同士を殺しまくらなければならなくなるのか。

 それとも外部者のバケモノが侵入していて一人、また一人と殺して行くのか?

 幽霊たちの世界に俺達だけ迷い込んで各地で一人になった者から取り殺されて行くのか?


 どれもこれも殆どのクラスメイトが死んでしまう。

 きっと修一自身もその被害者の一人になりかねない。

 一番酷いのは全滅だが、一人しか生き残れないとかでも御免被りたい結末だ。


「遺体探しとか包丁の名前告げるマンガとかもあったよな。他に可能性があるのは……メガ○ンのIFとか?」


 顎に手をやり考え込んでいた俺は、ふと、自分以外にもう一人残っていることに気付いた。そういえばさっきから視界を掠める寝息を立てている女生徒がいる。

 ツインテール頭の背中が規則正しく上下している。

 一番後ろの座席で寝そべっているのは、確か……


「忌引光葉」


 そう忌引と書いて『きびき』と読む変わった名字の少女だ。名前は『みつは』だ。

 不思議少女。確かに不思議少女だ。他人と関わることは滅多に無く、口数も少なく温厚というか内気というか。それでも、小柄で可愛らしい女の子だ。もしも告白してきたら俺は確実に了承するだろう。といっても俺自体は中肉中背の何処にでもいそうな一般男子。ちょっと内気なせいもあり女子と話すのは苦手だ。

 ついでに言えばこの年まで彼女は存在せず、童貞のままである。純潔を守っている青少年であった。


 でも、と思う。

 今、少女は寝ている。

 流石にここでするとバレかねないが、トイレに連れ込んでしまえば?

 他の皆は体育館。

 学校は虹の靄に囲まれており、脱出可能かどうかも分からない。


 そもそも、自分は生き残れるかも定かではない。

 否、もしもクラスメイトで殺し合いになればほぼ真っ先に脱落する少年Aとなるだろう。

 自分の能力などちょっとゲームが好きな童貞男子でしかないのだから生き残れるはずがない。

 なら、遠慮すること、あるのだろうか?

 目の前には無防備な女が一人。直ぐそこに野獣が一匹。

 他には誰も無く、邪魔する者も一人もいない。

 もしかしたらコレがフラグで死ぬかもしれない、最初の犠牲者になるのかも?

 それでも……


「そうだよ。どうせ死ぬなら……」


 俺の背後で、悪魔が囁いた。そんな……気がした。

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