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朝食時間1

 ん……

 意識が覚醒する。

 いつもの朝。と、思ったが違う。見知らぬ天井だ。

 まどろみの中でなんとなく考える。

 そうだ、確か学校の宿直室に泊まって……不意に横を見る。

 可愛らしい瞳が二つ、俺を見上げていた。


 思わず悲鳴をあげそうになり、寸前で押し留める。

 光葉はじぃっと俺の寝顔を見ていたらしい。心臓に悪い。

 驚きで脈打つ心臓を必死に押さえ、干上がった喉を唾でうるおす。


「おはよう、光葉」


「ん。おはよ……修君」


 朝の挨拶、彼女の微笑み。朗らかな朝の陽ざしに幸福の鳥の囀りが……


「沢木キモい」


「なぁっ!?」


 気付いた時には遅かった。

 既に起きていたらしい木場と高坂が白い目で俺を見ていた。

 危なかった。光葉に目覚めのキスする寸前だった。


「あー、その、おはよう?」


「ええ、おはようございます」


「はよ。しっかし良く眠ったわね。なんか昨日風呂にも入らず20時就寝だったじゃん、既に7時半なんだけど」


 時計を見ながら告げる高坂。自分達も思った以上に疲れていたそうでこの時間まで寝ていたそうだ。


「とりあえずそこの洗面所で顔洗ったけど、宿直室いいわね。最悪ここに引き籠っても普通に生活できるわ」


「そうね。それには同意するわ。でもとりあえず後30分で朝食の予定よ。私達同様及川さんたちが寝坊してる可能性もあるから早めに向かっておきましょう」


 木場の言葉に俺は欠伸を噛み殺しながら小首を傾げる。


「なんでまた早めに?」


「食事が用意されてなかったら代わりに作らないと。皆が集まって来た時食事がなかったらそれはそれで問題でしょう?」


「ああ、それは確かに」


 というわけで、俺たちは顔だけ洗って食堂へと向かうことにした。

 保健室の側を通ると怒声が聞こえてきた。


「クソがッ、田淵ぃ、マジ殺すッ、ぶっ殺してやるッ!」


 光葉を肩車して上の窓から覗いて貰ったのだが、どうやら田淵に一杯喰わされたようで、ベッドの一つに結束バンドで両手両足拘束された香中が一人わめいている姿があったらしい。

 ちなみに結束バンドは農業で使うモノのようで園芸部部室にあったものだ。わざわざ取って来たらしい。


 田淵の姿は見えなかったので、香中を保健室に閉じ込めて自分は逃げだしたようだ。

 それだけ確認できれば良かったし、わざわざ素行の良くない香中を解放する意味もないので見なかったことにして通り過ぎることにした。


 食堂に辿りつくと、既に来ていた及川、賀田、井筒が忙しなく厨房で動いていた。

 どうやら寝過したようで、もう時間が無いよぉーっと井筒が泣きべそかきながら手を動かしている。

 俺達が来たのに気付いて絶望的な顔をし始めた。


「ひーんっ。待って待って待って! まだ出来てないんだよぉ」


「あと10分はかかるわ。席に付いて待っていて」


 及川が席に促して来たのでおれたちは大人しく席に着く。

 しかし、すぐに光葉が立ち上がり、厨房へと向かって行った。

 それに気付いた高坂と木場が立ち上がる。


「あの、手伝う……よ?」


「折角だし手伝ってあげるわ。時間が惜しいんでしょ?」


「まぁ、盛りつけくらいならできそうだしあたしも手伝ってあげるわ」


 女性陣が調理場へと入ってしまったので座席についているのが俺一人になってしまった。

 しばし、一人きりで食事が出来るのを待つ。うん……寂しい。


「よーし完成っ!」

「時間ギリギリね。助かったわ」

「えへへ。できた」

「あら、忌引さんそれ、どうしたの?」

「あ、余り物で作ったの」

「わ、美味しそう。サラダ?」

「あ、ダメッ、修君の」

「え? あ、あ~、こりは失礼しました」


 井筒が何かを察してにまーっとしながら光葉にサラダを持たせて背中を押しだす。


「さぁさ、後は若いお二人にお任せしますのでごゆっくり」


「???」


 良く分からないながらも俺の元へやってきた光葉は隣に座ってサラダの入ったサラダボールを俺の前に置く。

 余り物なだけにそこまで多くは無いが、美味しそうだ。ドレッシングも残った野菜から作ったらしい。


「ほいほい、沢木君には御先に食事置いちゃうよ~」


 遅れてやってきた井筒と高坂が楽しげに食事を配膳し始める。

 俺と光葉のとこに優先的に並べられたので、二人して食べることになってしまった。

 皆のほんわかしながらも好奇ある視線を一身に受けながら俺は恐る恐る食事に手を付ける。


「……あーん」


 なん、だと?

 フォークにサラダを突き刺し俺の口へと持って来る光葉、顔を赤らめつつも絶対に食べろと告げる強い意思が目に灯っている。

 こんな状況じゃ無ければ食べてもいいのだが、皆に見られながらは恥ずかし過ぎる。


 しばし逡巡していると、光葉の瞳が少し哀しげに歪む。

 ええい、南無三っ。

 自分からフォークを口に突っ込む勢いでサラダを食べる。

 花が咲いたような笑みを向けて来た光葉に、思わず顔が赤くなった。可愛い……


「おー。飯できてんじゃねーか」


 だが、タイミング悪く男性陣がやってくる。

 俺、死ぬかもしれん……

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