それぞれの夜4
大門寺と最上は屋上の給湯タンク横に腰掛けオーロラに煌めく空を見上げていた。
片膝を立てて空を見上げ、膝に腕を乗せている大門寺の横に、最上はちょこんと三角座りで隣り合う。
ふいに肩に髪が掛かる。
なんだ? と大門寺が視線を向ければ、余程眠かったのだろう。最上が大門寺の肩に寄りかかるように眠っていた。
その寝顔をしばし無言で見つめる大門寺。
無防備な寝顔に思わず顔が緩んだ。
誰にも見せない優しげな微笑みを最上へと向ける。
「……明奈。お前は覚えてねぇかもしれないが……約束通り、守ってやる。俺が、一生だ……」
寄りかかる明奈の髪を優しく撫で、大門寺は寒くないようにと自分の上着を彼女に掛けてやる。
「邪魔する奴は誰だろうが……」
ああ、そうだ。誰であろうとも、明奈に危害を加える者がいるのならば……
ギロリ、虚空を睨み据え、大門寺はじぃと微動だにしなくなる。
その思考に何が考えられているのか、伺い知ることなど誰にもできはしなかった。
「いやー、いつぶりだろーね」
道場のロッカールームに寝袋を持ちこみ、及川、賀田、井筒の三人娘が寝転がっていた。
一応電気は消しているものの、外は明るい。おそらく夜になることは無いのだろう。そもそもが太陽が無いのだから当然と言えば当然なのだが。
井筒は三人で寝るという状況を思いだし楽しげに呟く。
確か、小学生のころはよく互いの家に泊まりに行っていた筈だ。
中学の頃は? 林間学校などで泊まった時だろうか? あの時は他の女生徒たちとも一緒だったが。
「そう言えば三人で寝るのは久しぶりね」
「清音と玲菜は一緒に帰れるが私が剣道にのめり込んで以来だな。すまんな私が迷惑を掛けている」
「ううん。そんな事ないって。天ちゃんはやりたいこと見付けたから頑張ってるだけだもん」
「そうよ、私達は応援してるわ。最近は私も料理に凝りだしてるし」
「清りんの料理美味しいんだよ?」
「ああ、今日の料理は絶品だった。明日も楽しみだよ」
「ええ。腕に縒りを掛けるわ」
「私も頑張って手伝うよ」
「あら? でも味見といって食べ過ぎちゃだめよ」
「あう!?」
「まったく、玲菜は食い意地張り過ぎだ。だが、確かに今はよくてもこれからは食べ過ぎるのはマズいだろうな」
「え? なんで?」
「食料は限られている。最終的に取り合いになりかねないんだ。下手したらまた殺し合いが……」
「大丈夫だよ。沢木君が自家製栽培するって種埋めてるし。私達も手伝うし」
「沢木が?」
「ええ。玲菜がサンドイッチ摘まんでたのを見られてね。このままだと食料がヤバいから種残して埋めようって」
「そうか。彼はこれからの事を見越して手を打ってる訳だな。よし、私もそれを手伝おう。男どもも働かせてやるか」
「あはは、天ちゃん酷ーい」
坂東たちの預かり知らぬところで野菜の世話係としてこき使われることが確定した瞬間だった。
「あー、ちょいトイレ行って来る」
そう告げて香中が去って行った。
保健室には二人しか居ない。
香中が出て行ったので居残っているのは田淵だけだった。
ベッドの上で荒い息を吐く彼女はシーツをふかぶかと被り全てを覆い隠す。
誰も彼も助けてはくれない。
友人と思った女は見捨てて逃げた。自分だけは安全地帯に逃げ込んだのだ。
あのクソ男はまた戻って来て自分を襲うのだろう。
「……てやる。絶対に……殺してやる」
庇護される筈だった女は憎悪に歪む。
諦めることの無い復讐の炎が瞳に宿る。
大河内の呪いは確実に、次の殺人者たちに宿り始めていた……
「ふはぁ。トイレ行くのも面倒だなぁ、いっそあいつに飲ませるか。なーんてなぁひゃはは」
トイレを終えた香中はこれからの日々に思いを馳せてクックと笑う。
「いい感じにヤリまくれる女が手に入ったし、サイコーだなこの状況。どうせなら他の女もやっちまって俺のハーレム作っちまうか。うはっ、夢が広がるな」
保健室へと戻りドアを開く。
ガッ。内側からカギがかけられたようで動かない。
「あ゛?」
ガッ、ガッ、ガンッ!
「おい、クソッ、田淵ッ、テメェ何してやがるッ」
保健室は完全な密室となった。
田淵一人がベッドに眠り、香中は締め出されたのだった。
「お前ふざけんなッ! こんなことしてどうなるか分かってんのか! オイ! なんとか言えよコルァッ!!」
叫び拳を打ちつけドアを蹴りつける。
しかし、意外と強度のあるドアが彼の攻撃で破壊など出来るはずもなかった。
しばらく叫んで力尽きた香中はその場に座り込み、その内に眠ってしまった。
音が聞こえなくなってしばらく、ドアが開き保健室から着崩れた衣類を身に付けた田淵が現れる。
眠る香中をギロリと見下し、首根っこ引っ張り保健室へと引っ張り込む。
そして、ドアが閉じられた……