それぞれの夜3
「お前はもう死んでいる! ぞなもし」
「ならば、暗いよ怖いよ狭いよーですぞ」
そこは男子に与えられた体育館だった。
広い場所の為かかなりの寒さがある。
これならばむしろ教室で寝っ転がった方があったかかったかもしれない。
そんな事を思いながら足立次郎はマットの上に寝っ転がっていた。
ここに居るのは3班の貝塚烈人、御堂伴、足立飽戸、山田壮介、4班の坂東勇作、榊充留、三綴作馬、5班の所沢勇気、壱岐昴といった男達である。
本来男ども全員であれば1班の小川才人や2班の大門寺弘嗣、香中宗次、5班の沢木修一が居るべきなのだが、小川は校長室で女共と、香中は保健室で田淵とヤリまくり、沢木は宿直室で忌引とヤリまくり、大門寺は最上を引き連れどこかの教室に居るはずなので、ここには居ない。
次郎も保健室に居ることはできたのだが、相手となる筈の高坂がさっさと行方を眩ませたので抱くことができず、香中は田淵を3Pする気はないそうで居づらくなってこちらに来たのである。
香中の奴巧くやりやがって。そんな事を思いながらはぁっと溜息を吐く。
いつもこうなのだ。良い思いは大門寺か香中で、自分一人が貧乏くじを引かされる。
そもそも三人の中で下っ端といえば自分というピラミッドが出来ているのが問題なのだが、いつの間にか香中に先越されるのが当然みたいな状態になっていたので今更何が出来るのかという状況である。それこそ、香中を排除するくらいの気概がなければ美味しい思いはできないだろう。
「……甲子園に連れてって、とか」
「はいブー。坂東アウトですぞ」
「はぁ!? なんでだよ!?」
「当たり前だろ、古今東西アニメの名ゼリフだぜ、中途半端な台詞言ったらアウトだろ。そこはタッちゃんから始めないと」
「……」
「チッ、しゃーねーな。んじゃ、オラ、ワクワクすっぞ。これでいいか?」
「いやアウトだろ坂東、次俺からだぜ? えーっと問おう、貴方が私のマス……」
「いや待て榊! 途中のうろ覚え駄目とか言われてなかったからやり直しに決まってんだろ!」
「っつーかさっきから何してんだよテメーらは!」
背後の声が煩過ぎたので思わず叫ぶ。
びくんっと驚く男達。ちょっと威嚇しただけでこれだ。こいつ等普通の男どもとはやはりソリが合わない。しかし、不良が性に合うかといえばそれも違う。
自分は中途半端なのだ。不良と呼ばれるには優し過ぎるらしく、普通の男子と呼ばれるには恐いらしい。
「放っときなよ。ゲームの電池充電中だからあんなんでもやってないと暇なんだってさ」
竦み上がる男達ではなく、離れた場所で一人ゲームをしていた壱岐が告げる。
メガネをかけた小柄な少年だ。線が細く華奢なうえに女顔ではあるが、好感の持てない睨み目と誰も寄せ付けようとしない態度のせいで人付き合いも全く無いモヤシ少年だ。
「あぁん?」
「ココ寒いしさっさと寝れば? ここで寝るのが嫌なら出てけばいいんだし。教室でマット敷いた方が寝やすいかもね」
「ッチ」
舌打ちと共に寝転がる。不貞寝するように目を閉じてしばらく、男どもは再び声を潜めて古今東西ゲームとやらを始める。
さっさと寝ろよ。イラつきを覚えながらも彼もまた眠りに就くのだった。
女子の集まる茶道部部室はあまりにも狭かった。
篠崎美哉と原円香はオタクチーム内で貰ってしまったゲームをしながら一喜一憂。ゲットだぜーと円香の声が響き、またぁ!? と美哉が半泣きで叫ぶ。どうやら美哉はことごとく仲間集めに失敗しているようだ。
そこへ、日上佳子と十勝眞果、中田良子が校長室から戻ってくる。
人数は五人だが狭い茶道部のせいでぎりぎり膝を折り曲げれば全員寝られる位の広さである。
靴下を脱ぎ散らかした彼女達は服装そのままに適当な場所を陣取る。
「せまっ!?」
「六畳だからねー。一人一畳くらいだね」
「これ以上増えたりしないわよね?」
「あんたたちが来るって聞いたから木場さんは忌引さんとこ行くってさ同じチームの誼でカップル邪魔するんだと」
「高坂と田淵は保健室っしょ? あとゴリとエンジェルちゃんと井筒は剣道場で寝るって言ってたし、ゴミムシちゃんは大門寺のお世話だってさー」
「そうかよ。ったく、こんなことなら無理に才人様のところに残るんだったわ」
「あら? ねぇ十勝さん、川端さん、どこ?」
「え? ほんと、居ないわね」
「トイレ行くって言ってたわよ」
「じゃ、待ってればその内来るでしょ」
日上たちが雑魚寝に入る。ガールズトークはせずにさっさと眠るのは非日常に放り込まれたことで疲れていたからのようだ。川端が戻って来ないことなど考えもせず、夢の中へと入って行った。
円香も一時間程ゲームをした後、疲れてそのまま眠りにつく。美哉はまだまだゲームに夢中だったので声を掛けることなく眠るのだった。