これからのこと5
購買倉庫にやってきた俺たちだったが、既に購買倉庫から遺体を御姫様抱っこして出てきた大門寺とカチ合った。
俺達がモーゼに割られた海の如く左右に避けると、大門寺が堂々その真ん中を歩いて行く。そしてその後ろをちょこちょこと付いて行く最上。
「おい、何をしている? さっさと場所を教えろ。死体を長時間持つ趣味は無いぞ」
「あ、そ、そうね。鉄棒の奥面にある桜の木の下に埋めましょ」
「なんか曰くつきの桜になりそうだな。じゃあ俺らは職員室行ってくるわ」
足立が下足場に向かう大門寺に告げて職員室へと向かう。
俺も見送ろうとしたのだが、途中で誰も付いてこないことに気付いた足立が振り返りイラッとした顔で告げる。
「野郎共も来るんだよッ、何してんだぶっ殺すぞッ!」
「あ、やっぱり?」
「沢木君、そっちは任せるわ。スコップ多めに持って来てね」
大門寺を案内する役を買って出た木場に言われ、仕方無く足立に同行する俺。ついでに付いて来た光葉と所沢が俺の後をちょこちょことやってくる。
「はぁ、なんで俺らまで……」
「賀田さんに言われなきゃ死体埋めとかしたくねーんだけどよ」
「賀田さんに言われちまったしなぁ。手伝ってやってくれって。ふふ、これで賀田さんとのフラグ立っちまったんじゃね?」
普通班の番堂、榊、三綴も不承不承俺達と一緒に職員室に来ていた。
「つか忌引さんもこっち?」
「……うん、修君と一緒にいる」
坂東に聞かれ、控えめに頷いた光葉。
男子と声を交わすのが恥ずかしかったのか俺の後ろに近づくと、裾をギュッと握って隠れる。
「くぅっ、沢木め。上手くやりやがってぇッ」
「テメェの血は何色だッ」
「俺たちの怨嗟と呪いを喰らえッ、爆死しろっ」
「そうだそうだ」
「だぁーってろテメーら。マジウザってぇな!!」
男共の怨嗟の声に、足立が切れて皆が押し黙る。
というか所沢。何同意しちゃってんの?
恐い奴ばっかりだよな。ほらよしよし、恐かったね光葉。
俺は怯える光葉の頭を撫でてやる。
すると俺を見上げた光葉が控えめに笑みを零す。
「がはっ!? なでぽだと!?」
「くぅっ、童貞には強烈なダメージ」
「オノレ裏切り者めぇ」
「忌引さんなんでそんな奴に……」
「俺の目の前でイチャつくんじゃねーよクソが」
いかん、全員敵に回った!?
嫉妬の視線を一身に浴びつつ、俺はそそくさ職員室に入るとマスターキー。というか全部のカギが付いた鍵束を取り出す。
「わざわざそっち取るのかよ。こっちに個別のあるだろ」
「いや、そうなんだけど、とりあえずマスターキーは確保しとこうかと。あと宿直室のカギと」
「それじゃお前がどこでも入り放題じゃねーか」
「いや、このマスターキーは木場に持たせとくんだ。いい隠し場所知ってそうだし。いや、むしろ大門寺に預けとけば誰かが奪おうとは思わないだろ」
「ああ。用心の為な」
そう納得しながらも足立は険しい顔をしている。
「やっぱり、大河内の言葉を信じてんのか?」
「呪い? いや。呪い云々じゃなくてな。追い詰められれば人間大抵のことはするもんさ」
「まぁ、そりゃそうなんだが……」
「マスターキーはあるだけで不破の元になりかねないからな。各寝室になる部屋のカギは代表者に持たせて管理させておいて、マスターキーだけはおいそれと手出しできない場所に置いておいた方がいい」
「それで大門寺サンか」
「まぁ安全所で言えば腕力が強く、容易に手出し出来ない大門寺は今のところ一番だろ」
「アレで意外と紳士的だしなぁ大門寺サン。まぁ、大門寺さんが預かってくれるなら俺も賛成だがよ。預かってくれっかな?」
「最悪校長室の金庫にでも放り込んどくよ」
「それ絶対いつの間にか無くなってるフラグだろ」
密室殺人トリック用のキーアイテムにされそうだな。
木場にいい案ないか募っとこう。
俺たちは倉庫のカギを手に入れて下足場へ。
倉庫に向かうと各々スコップを二つづつ持って木場たちが居る桜の木の根元へと向かう。
木場たちは遺体を木の根元に座らせ、俺達が来るのを待っていた。
皿洗いを終えたのだろう。賀田、井筒、及川、高坂の姿もある。
残念ながらオタクチームは食堂でゲームして動かなくなったようだ。壱岐の奴も同じ場所でゲームしているので放置して来たということらしい。
「んじゃ、やるか」
男子陣がスコップ両手に穴を掘る。
女性陣は遺体を綺麗に整え、死化粧を施していた。
少しでも綺麗にしてあげたいという女心らしい。
意外と光葉と最上が上手い化粧を施していた。
人一人入れる大きさを掘り切ると、牧場の遺体を入れ、土を被せて行く。
「こんな労働、もうしたくないモノだ」
「……全くだ」
額の汗を拭った俺の呟きに、大門寺が同意する。
この不良、意外と協調性もあるよな。実はいい人なんだろうか? 最上も救ってたし、いい人だと思いたいな。マスターキー、本当に管理して貰うべきかも。