これからのこと4
「牧場の遺体か……」
購買倉庫にやってきた俺たちは、さて。と息を吐く。
気が重いのもあるが、何処に埋めるかという話もある。
「小川に聞かなくてもいいのかよ?」
「あら、今の小川君に聞きたいの? 絶対に切れるわよ」
「無断で埋めるのも切れるだろアイツ」
「腐って来てからじゃ移動させづらいでしょ。気が重いことはさっさと終わらせましょ」
「それはいい。持っていく場所は何処だ? 埋める候補地を教えろ」
大門寺が来てくれたのは意外だった。
彼が来てくれた上に率先して遺体を移動させようとしてくれるので俺たちは二人がかりで運ぶ事無く大門寺一人が抱えることで側を付いて歩くだけで済む。
「とりあえず、男子は倉庫に向かってスコップ持って来て。集合場所は校庭。私達が居る場所に来てくれればいいわ」
「あ、倉庫のカギは職員室にあるわよ」
食器の片付けをしながら告げる及川。
それくらいは分かりますぞっ。と叫ぶ足立飽戸。そう、次郎ではなく飽戸の方だ。
「じゃあ女性陣は皿洗いよろしく。高坂さん、賀田さん、井筒さんがつまみ食いしないように見張っていて」
「え?」
「おいおい、つまみ食いって、流石にやらねぇだろ。全員から恨まれるぞ?」
「……やったのか?」
大門寺がギロリと睨む。
射抜かれた井筒はひぅっと喉を鳴らして青い顔で脂汗を流しだす。
「その、えっとぉ……サンドイッチを少々」
「正確な数を言えッ」
くわっと見開かれた大門寺の眼力に、井筒はわひぃっと叫ぶ。
「すいませんおやつにサンドイッチ七つ食べましたぁっ!」
そのまま土下座する井筒。あの後そんなに食べやがったのかコイツ。流石にフォローできねぇわ。
「ちょ!? お前何食ってんだよ!? 皆の食糧だっつわれたろーが」
「だ、だって、小腹空いたし、サンドイッチ日持ちしないし、美味しいし……」
「駄目だこいつ……」
足立に呆れられていた。
ただ、正直に告白してくれたことで多少皆から険が取れた気はする。
「あ、でもでも、木場さん達も共犯だよね!」
「なに?」
ギロリ、大門寺の眼光が木場へと向かう。流石にうっと呻きを洩らす木場。しかし、怖気づくことなくふぅっと溜息を吐く。
「ええ。食堂に行った時につまみ食いしているのを見咎めたらこれで許せと一切れの半分づつ貰ったわ。私と沢木君、所沢君と忌引さんが半切れづつ分けたわ。その時は彼女が食べていたのもサンドイッチ一つだったから見逃したのよ。これ以上つまみ食いはしないように告げて、ね」
「ほぅ」
ギロリ。大門寺の眼光が再び井筒に向けられる。
脂汗をだらだらと流しながら視線をそらす井筒。手は真後ろで組み、指同士が忙しなく絡まりだす。
「えっと、そのぅ……」
完全に墓穴を掘った井筒。先程までならただつまみ食いしてたからこれからはするなよ。で済む話だったのに、既にそう言われていたのにさらに六つ。包装に入っているのは二切れだから合計で十二切れ食べた計算になる。いくらなんでも小腹空いたからというには多い気がする。
「ぎるてぃ?」
光葉、それ気に入ったの?
俺に尋ねて来る光葉にいい笑顔でサムズアップしておく。
ああ、当然ぎるてぃだ。
「井筒。一応言っておく。これ以上つまみ食いしたら殴り殺す」
「ひぅっ!?」
睨みつけた大門寺に宣言された井筒さんがへなへなっと尻持ちを付く。
慌てて食器洗いを止めた及川が井筒を守るように大門寺の眼光から彼女を自分の身体で塞ぐ。
「あまりイジメないでくれる。井筒さんはか弱いのよ?」
「か弱いなら、女なら何をしてもいい。というわけじゃねぇだろが。女も男も関係ねぇ。テメェの都合で俺の食糧を食い散らかすってなら誰だろうがブチ殺すだけだ」
ブオンと空を切った拳が及川の眼前で寸止めされる。
大門寺の一撃とか、例え寸止めでも食らいたくないぞ。風圧で及川の髪がぶわっと舞い上がったし。
「せいぜいつまみ食いさせないように監視しておけ。俺は本気で殺る」
それだけ告げて大門寺は購買倉庫へと向かって行く。慌てて後を追う最上がちょこちょこっと彼の背後を付いて行くのだった。
そんな彼が食堂から消えると、へなへなっと力尽きる及川。ゴリ川でもやっぱり大門寺の相手は無理か。
「ご、ごめんね清ちゃん」
「いいの。怪我も無かったし。でも玲菜、これからはつまみ食いしないようにしないと、あの人本気で殴るつもりだわ」
「あうぅ。我慢します」
泣きべそかいて及川と抱き合う井筒。せめてそこは賀田と抱き合ってくれないかな。なんかゴリ川との抱きしめあいは見ていたくないんだけど。
しかし、井筒がつまみ食いを止められるかどうか。なんかその内殴られそうだなぁ。それが殺人理由とかにならなけりゃいいけど。
とりあえず俺も井筒がつまみ食いしないようそれとなく注意しとくか。大して意味ないかもだけど。