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 全員の視線が光葉に集中する。

 俺、木場、大門寺、最上、小川、中田の十二の視線を受け、光葉はごくりと息を飲む。


「私は……本名井筒玲菜と言います。生まれはこの学校で、三十年前くらいに井筒家に当時の忌引光葉が連れていき、義理の娘として育てられたの」


 それから十数年、年頃になった光葉を、今の井筒が迎えに来たのだ。自分がお前の母親だと告げ、自分の代わりに人柱になって貰うと、嫌がる光葉を強引に連れ去った。

 そしてその時に彼女のクラスメイトだったのが、大河内の母や木場の父だったそうだ。


 その時は井筒が率先して不和の種を打ち込んでいったので瓦解するのは早かった。

 昭和時代での戦争を彷彿とさせるように、血で血を洗う闘争へと移行する、その直前。光葉は二人の男女を元の世界へと戻し、自身も逃げだしたのである。


 しかし光葉は直ぐに捕まった。

 そもそも逃げるにしても逃げる場所が無かったのだ。

 家自体はすでに井筒に把握されていたし、一人暮らしするには金が無い、結局、光葉一人で逃げ切るなど不可能で、直ぐに連れ戻された。


 そして、二度と自分たちに逆らわないように、自分のクラスメイトたちを、彼女自身に殺させたのだそうだ。

 じゃあ……光葉は既に、人を殺している?

 戦慄する皆に、光葉は視線を落とし、俺の裾をギュッと握りしめる。


「たぶん、木場さんの探してた女の人を殺したのも、私、です」


 それこそが、光葉にとっての巨大な秘密。

 所沢を使ってでも、大河内を殺してでも守りたかった最大の秘密だった。

 脅され、同じクラスメイト達を殺害させられていった光葉。その背後で彼女の絶望をあざ笑う井筒。クソ、そんな女だって分かってれば……


「十勝さんは?」


「え?」


「今の話、井筒さんがどういう存在かは分かったわ。でも、十勝さんはどう関わってくるの?」


「それは……」


 再び口ごもる光葉。

 まだ秘密を隠してるのか。光葉の秘密の多さに俺は思わず戦慄する。

 信じたい。でも、信じるにも限度がある。

 殺人を既に行っていた最愛の人物に、俺はどう接すればいいんだよ?


「そうか、卒業写真に井筒さんが忌引光葉として写ってたから何かつじつまが合わないと思ってたけど、そういうことなのね」


「木場? どういうことだ?」


「今まで井筒さんが元凶で昭和時代に処女性を失い忌引さんを産んだと思ってたんだけど、元凶は井筒さんじゃないってことね。つまり、もともとこの空間に封印されていたのが、十勝眞果」


「っ!?」


 弾かれたように驚く光葉。

 どうやら図星だったようだ。

 しかし、そうか。十勝が初めで、昭和時代に巻き込まれたのが井筒、だから彼女はクラスメイトの誰かに犯され、光葉を身ごもった。そういう順序か。


 となると、十勝がどういう立ち位置になるのかが問題になってくるな。

 あいつは敵か、それとも味方か。

 殺人は犯していない。

 今の所俺に接触して来る気配はあれどそれ以外のことはしてこない。

 一歩下がった状態でまるで観察者のように……観察者?


 そうだ。観察者。

 この世界に封印された存在は、観察者なんだ。俺達巻き込まれた者たちがどう結末を迎えるか、沈む船からは早々脱出し、安全地帯から対岸の火事を眺める。

 そう考えれば、成る程十勝の行動は一貫していなくもない。

 きっと校長室で隠したのは自分がどういう存在かのヒントが書かれていた何かだろう。


「ごめんなさい修君、私……死にたくない」


「死ぬ必要はないだろ」


 頭を撫でながら俺は優しく諭す。

 そもそも殺人犯した犯罪者は飛び降りるというのは大河内が告げた呪いだ。律義に守る必要はない。

 まぁ、脱出口がそこからしか向かえないから最後には飛び降りることになるんだろうけど、今の俺にはちょっと勇気が足りない。死にたくないしな。


「あー、ちょっと、頭が混乱して来たぞ」


「荒唐無稽にも程があるもの、大門寺君も足立君も考えるのは苦手のようね」


「うっせ」


「ぶっ殺すぞ木場」


 足立が軽口答えてその場に座り込む。

 舌打ちしながら同じく座る大門寺。

 その横にやって来た最上が正座して、ぽんぽんっと自分の太ももを叩く。


 むぅっと唸った大門寺は、しかしころりと横になり最上の太ももに頭を乗せた。

 むぅ、あれ、うらやまし……あとで光葉にやって貰おう。


「ある程度のことは分かって来たけど、追い詰めるにはまだ足りないわね」


「ああ。何かしら決定的な証拠を手に入れたいところだ。それと……」


「う、うわあああああああああああああっ」


 うおお!?

 突然の叫びに俺たちは言葉を止めて振り返る。

 小川が膝から崩れ落ち、大声上げて泣き出していた。

 声が大きいし突然過ぎて驚いてしまった。

 ノートを破らんばかりに握りしめていたので慌てて木場がノートを取りあげていた。

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