情報共有2
「マジか……」
井筒が光葉と名前を交換していること。
忌引光葉が昭和時代より前から存在していること。
十勝が人柱である可能性。
今の光葉が井筒の娘で今まで人柱としてこの学園を維持していたこと。
今まで分かっている情報を皆に告げる。
足立や木場の知らなかった事実もあったようで、多少息を飲む場面もあったがかなり詳しく説明できたと思う。
とはいえ俺自身もこの話の全てが本当とは思えていない。
まず最初から荒唐無稽なのだ、実は光葉が全てのシナリオを考えて各所に散りばめていただけと言われてもおかしくは無い、それくらいに信じ難い事実である。
「それで、だ。中田に聞きたいのは十勝に付いてだ」
「え、ええ。それが本当なら十勝さんの行動に付いては私に聞いた方がいいでしょうね、いつのこと?」
「丁度牧場が殺された辺りだ。確か川端と三人でトイレに居たんだよな」
「……ええ、あの辺りの時間ね。えーっとちょっと待って」
そう言った中田が思案し始める。
流石に時間が経ち過ぎているので思いだすのに苦労しているようだ。
「とりあえず少しの時間でもいい、十勝は一人になったりしてなかったか? どこかに向かったりしたことは?」
「……いえ。ないわ」
「ない?」
「……ええ。何度も思い出してみたけど、あの時はずっと三人で居たし、トイレに入ったのも川端さんだけで私と十勝さんはずっと会話してた。十勝さんがどこかに行くような時間は無かった筈よ。そもそも牧場さんが死んだのは才人君と別れて十分後くらいでしょ? 時間もないのにタイミング合わせてなんて無理だと思うけど。そもそもそれが何か問題なの?」
「ああ。牧場は大河内以外に殺された可能性がある」
「なんだと!?」
俺の言葉に驚いたのは小川。予想通りではあるが、驚き過ぎだ。
何でお前も俺の襟首を掴み上げる。
折角着替えたのにまた伸びるじゃないか。
「お、落ち付け小川」
「お、落ち付けるか!? どうなってる? 斈以外? 伊織が、伊織が殺されたのは斈が俺から伊織を寝取っていたからだろっ!?」
「説明する、説明するから落ち付け」
事態が進展しないと大門寺が慌てて小川を引き離す。
ああくそ、また着替えないと物凄い伸びたじゃないか。
大門寺に羽交い締めされた小川はまだ興奮気味だったが、自分が俺を問い詰めても意味はないとりかいできているのだろう、ふーふーと息を吐きながら落ち着こうと努力している。
「で、どういう理由から十勝を疑った?」
「これだ」
俺が取り出したのは地図。
この学校の見取り図だ。
「これは、この学校の見取り図か」
「ああ。見てほしいのは購買倉庫だ」
「牧場さんの遺体があった場所ね」
小川と中田が食い入るように見つめる。
二人とも関係があるだけに結構前のめりだ。
互いに肩が触れ合う程に近づいているのだがあまり気付いてないようだ。
中田にとっては垂涎ものの筈なのだが、自分たちが関わっているかもしれない事情の方が重要なのだろう。
しばし図面とにらめっこしていた小川が初めに気付いた。
これは……と言葉を漏らした後、食い入るように見つめる。
それは確かに存在し、大河内以外の犯罪者がいる可能性があることを指し示していた。
「隠し通路? 何でこんな場所に?」
「そいつが真犯人の居る可能性だ。大河内の日記によれば校長が脱出するための通路らしい」
「校長が?」
「大河内の日記? 斈の日記があったのか!?」
「そっちは後だ。もともと戦時中に造られた旧校舎での隠し通路なんだ。校長室から購買倉庫、その後食堂近くに脱出するためのモノらしい。空襲にあった時用らしいんだが、新校舎になってからも残されていたみたいなんだ」
「つまり、ここを知っていれば校長室から購買倉庫に向かい牧場を殺害できる? だが大河内は自白していただろう?」
「そこで、ノートが関わってくる。大河内が残したノートによれば、自分が来た時には既に牧場が殺されていたそうだ。当時の彼には十勝や井筒、光葉という疑わしい存在が居たことと、脱出口の場所に確証が持てなかったこともあり、一芝居打って自分の身体を使って脱出口を見付けたらしい」
「ちょ、ちょっと待て、待ってくれ……一芝居?」
「小川君、その、コレがそのノートなのだけど、見る?」
木場が大事に隠していたノートを取り出すと、小川は震える手でそれを取り、読み始める。
もう口出ししては来ないだろうから彼はこのまま放置の方向で。
俺は皆を見まわし言葉を続ける。
「そういう理由で、彼は牧場を殺してない可能性があるんだ。もしもそうだと仮定するならば……真犯人は別にいる。校長室からなら十勝が牧場を殺すことも可能になるんだ」
「それはいいけど……十勝さんが牧場さんを殺す理由は無いと思うけど?」
「そもそも隠し階段はもう一つあるんだろ? そっちはどうなんだ?」
大門寺の疑問に、俺は被りを振る。
「もう一つは外なんだぞ。あの時点で食堂近くのそんな場所に行ける人物は居ないはず……」
「待って、食堂近く、なのよね」
俺の言葉を遮って、木場が割り込む。顎に手を当て思考モードに入った彼女は自分の考えに恐怖を覚えつつも、その可能性を指し示す。