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千切られた制服

「もう、何が何だか……」


 井筒が困った顔で告げる。

 俺だって多少混乱してる。でもすぐにやるべきことをやることにした。

 時間を置くほど溝が出来てしまう。


 俺は振り向き、呆然としていた光葉の前で土下座する。

 はっと気付いた光葉は、何が起こったかよくわからず俺を見ておろおろ。

 近くに居た木場に助けを求めるように視線を向けた。


「ど、どうなってるの?」


「貴女を嘘とはいえ犯人にしてしまったから土下座して謝ってるみたいよ」


「え? え? ど、どうすれば?」


「それは貴女次第でしょう。許すも許さないも、ああ、でも振るなら今ここで盛大に振って上げなさい。振られた後は私が貰っておくから」


「あ、あげませんっ」


 ほぼ即答した光葉。んーっと考えて、はぁと溜息を吐く。


「修君もういいよ。許します」


「本当にすまん。お前に嫌な思いさせて……」


「俺を信じろって、言ってくれたから……大丈夫」


 本当に?

 素で絶望してなかった?

 アレは演技だったのか?

 不安はあるが、恐る恐る光葉を見上げる。

 困ったような嬉しいような複雑な顔を浮かべた光葉がそこに居た。


「でも、驚いた。所沢君を誘い出すため私を使うなんて、思いもしなかった」


 言葉少なにしゃがみ込み、俺を立ちあがらせた光葉は「降参です」と意味が分からないことを告げる。


「と、とにかく、コレで殺人事件は終わりってことか。帰ろうぜ坂東」


「お、おう、そうだな」


 俺が光葉に許されたことで呆然としていた皆が戻って来たようで、屋上を後にしようと踵を返し始める。

 俺は慌ててそいつを呼びとめた。


「中田、ちょっと待ってくれ」


「……え? 私?」


「ああ。聞きたいことがあるんだ。残ってくれないか」


「私に? まぁいいけど……でも私が見てない時に小川君が自殺したりしたら許さないわよ」


「いや自殺って……ああ、それなら小川、お前もついでに残ってくれ、見てほしい物があるんだ」


「俺にか? ……まぁ暇だし、いいけどさ」


 溜息を吐いて立ち止まる小川。


「待て沢木」


 俺が小川と中田を引き連れ、光葉、木場と共に場所を移動しようとした時だった。


「大門寺?」


「出口はどこだ?」


「で、出口?」


「分かったんだろう? さっき所沢が逃げるとか、言ってただろうがッ、どこにあるッ」


 近づいて来た大門寺が胸倉を掴んで来る。

 あまりにも力強い引き寄せに俺の身体が浮き上がる。

 びりびりと破れた服の御蔭で俺の身体は落下し、尻持ちを突く羽目になった。


「チッ」


 手にした服の切れ端を投げ捨て大門寺が俺を睨む。


「ああ、もう、また服変えないと……」


「ンなこたぁどうでもいい。隠しとくもんでもねぇだろが、アァ?」


「今、ここじゃダメだ。少し落ち着いてくれ」


「落ち付いてられるかッ、アレだけ探してた出口だぞ! 見つけたなら何故言わねぇ! ブチ殺すぞクソがッ」


 こ、恐ぇ……本気の怒りをぶつけられ、俺は思わず身震いする。

 だが、今はダメだ。井筒や十勝が見てる場所で告げる訳にはいかない。


「木場……」


「ええ。大門寺君落ち付いて」


 思わず頼る。

 待っていたとばかりに木場が歩み出て興奮する大門寺に優しく語りかける。


「ア゛ァ?」


「ここでは言えないの、少しだけ、時間を頂戴」


「……理由があるのか」


「ええ」


「チッ」


 舌打ちを残し最上の元へ向う大門寺。

 立ち上がった俺は開かれた胸元を見て溜息を吐く。


「足立、悪いんだけど音楽室に小川達を連れて行ってくれ。集めるのは小川、中田、木場、大門寺、最上だ」


「おう、まぁいいけどよ。他のメンバーはいいのか?」


「ああ、むしろ居ない方がいい。俺は服着替えて来る」


 光葉と共に購買へ向う。

 その背後、井筒と十勝がじぃと無機質な瞳を向けていていたのを感じながら、俺は屋上を後にした。

 そのまま一階に降りる。

 窓から覗けば、地上に激突した所沢と貝塚の遺体が見えた。

 二人とも運悪く脱出は出来なかったらしい。


 貝塚には感謝しないとな。

 彼が死体を見付けてくれたから早々に所沢の犯行を明るみに出せた。

 あいつが犯人だと見切りを付けられたから光葉を犯人に仕立てることで罠に填められアイツ自身に自白させることも出来た。

 そして、逃げようとした所沢を自身を投げ打って……


「修君……」


 購買部に向かい、予備の学生服、は全て消費されていたので夏服のYシャツに着替える。少し寒いので胸元が千切り取られた制服を着直し、多少寒さをしのぐ。


「どうした光葉、もしかして、さっきのこと、やっぱり許せない、とか……?」


「そうじゃなくて、聞かないの?」


「聞く?」


「私の秘密、付いてた嘘」


 確かに気になる。でも光葉が秘密のままにしておきたいのなら、俺は無理に聞く必要はないかと思っている。

 多分、今回のことにその秘密は関係ないんだと思う。

 いや、例えあったとしても、俺にとってはどうでもいいことなのだ。


「聞かねぇよ、光葉は光葉。どんな秘密があってもだ。お前が悪いって訳じゃないんだろ?」


「……ありがと」


 少し哀しげに俯き、でも照れたように顔を赤らめる光葉。

 やっぱり光葉は暗躍するより傍で微笑んでくれてる方がいいな。

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