第七の真相
「待て、待てよ沢木ッ」
所沢が激昂する。
しかし、既に俺の口から出てしまった言葉は仕舞いようがない。
光葉が容疑者へと浮上し、皆の視線が光葉に集まる。
「お前ッ、忌引さんの彼氏だろうッ、なんで忌引さんを切り捨てるような真似をするんだよ」
「俺だって守りたかった。お前に罪を着せれたらと何度も思ったよ。でもないんだ。お前が大河内を殺した決定的証拠はさッ。だから調べた、必死に調べた。そしてこの手帳を発見しちまった。容疑者はそこで三人に増えた。原を殺したことでパニックになってた貝塚と、大河内と直前に会っていたお前と、アリバイが唯一存在しない時間を持つ光葉。貝塚が発見者になってお前が犯人じゃないとなれば、もう光葉しか居ないんだよッ」
「ふざけんなっ! 忌引さんが殺す訳ないだろッ」
所沢が走り寄り俺の胸元を掴み上げる。
真正面で憤る所沢を見ながら、冷静に告げる。
ここで売り言葉に買い言葉。所沢に合わせれば終わる。
ここからが勝負なのだから。
「俺が犯人で光葉が濡れ衣を着せられそうになってたならさ、俺だって正直に告げるよ。自分が犯人でしたってな。でも、罪は罪だろ所沢」
「テメェ……待て」
不意に、俺の胸倉掴んでいた手が緩む。
気付いたか所沢。
「お前……そういうことか。そういうことか沢木ッ」
「本当に、残念だ。俺じゃ光葉を救えない……」
「クソッ、卑怯者ッ、なんでお前が忌引さんの彼氏なんだっ。僕を、忌引さんを使って僕を嵌めたな外道野郎ッ」
「外道で結構。で、どうするんだ騎士君」
そう、俺は本当に光葉が殺したなどとは思っていない。
手帳に書かれた文字は光葉のモノじゃなかった。
おそらく光葉が言った言葉をそのままメモした手帳だろう。
そして俺の殺害計画に付いてだが、アレは嘘だ。
手帳をよくよく見てみれば、俺は最後まで生かすこと。と殺害計画詳細欄に記載されていた。
つまり、あれは光葉から下された彼女の騎士への指令書だ。
忘れないように騎士がメモを取った、その手帳だったんだ。
「ああそうさっ。僕だよッ。チクショウッ、大河内を殺して貯水槽に蹴り込んだのは僕だッ! これで満足か外道探偵ッ」
「お前は殺害を否定したんじゃなかったのか?」
「嘘だよッ、殺害計画はまだ最初なんだ。ここでお前に見付かる訳にはいかなかった、なのに、こんな手を使って来るなんてッ。見損なったぞ沢木ッ!」
「見損なうも何も俺が外道なのは最初からだからな。お前に逃げ場のない状況を用意するには光葉を犯人に仕立てるしかなかった。正直に告げてくれて嬉しいよ、犯罪者」
そう、俺が犯人として告発したのはこいつが自分から罪を自白してくれることを期待したからこそ。
自分が逃れるために姫を犠牲にするなど騎士に出来る訳がない。だから彼は光葉が犯人候補になった瞬間、自分が身代りになってでも自白するしかなくなったんだ。
それが、騎士である彼の生き様なのだから。
「け、結局誰が犯人なんだ……?」
話に付いていけてなかったらしい坂東達が呟く。
「光葉は犯人じゃない。大河内を殺したのは所沢さ。決定的な証拠はないから一芝居打たせて貰った」
「いや、それで自分の彼女を犯人扱いって……マジ外道だな」
榊の言葉に俺は押し黙る。
俺だって嫌だったんだぞ。でも所沢を追い詰める方法なんて他に思いつかなかったし。やるしかないだろ。
光葉に嫌われないかな。と、とにかくことが終わったら速攻土下座しないと。
「じゃあ、所沢。お前が大河内を殺したと認めんのか?」
「……そうさ、大門寺。僕が大河内を殺した。あいつは忌引さんの周りを嗅ぎまわる厄介者だったし、山田を嗾け忌引さんを殺そうとした。あんな奴死んで当然なのさ。小川だってそう思うだろ。自分の彼女寝取られたんだしさ」
「う、うるさいッ、黙れッ」
途端血相変えた小川が叫ぶ。
押しちゃいけないボタンを押してしまったようで、失敗したなと所沢が困った顔をする。
「はぁ、参った参った。沢木、今回はあんたの勝利だ。僕は潔く屋上から御暇するよ、次は、こうは行かない」
不穏な言葉を吐きながら、屋上の縁に向かう所沢。
ちょ、そこは、俺たちの教室がある場所!? こいつ、出口に向かう気か。
「待てっ。逃げるのか所沢ッ」
「確信したよ沢木。やっぱりお前は忌引さんにふさわしくない。必ず殺しに戻る」
「マズい、あいつ出口に向かう気だッ」
出口!? と驚く皆。
所沢がニヤリと笑みを浮かべて屋上から飛び降りる、その刹那。
「うわああああああああああああああああッ」
落下を始めた所沢に飛び付くように、貝塚が飛び込みのタックル。
「なっ!?」
「よくか分からんが、罪は償うべきだろ所沢氏、僕同様、罪は償うべきだっ」
「ふざけんなっ!? チクショウ、ずれた!? クソ、このデブがっ、忌引さんっ、僕は、僕はあぁぁぁっ」
背中から押された所沢とタックルを行った貝塚、二人揃って屋上から落下していく。
何が起こったのか、俺たちは理解するまでただただ呆然としていた。
俺の言葉で何かしら逃げる要素が所沢にあるのだと察した貝塚が、自分の身を犠牲に所沢の企みを潰したのだと理解するまで、しばしの時間を要した。