怪しげな石
それからしばらくの時間、おそらく光葉達が食事を終えるまでの間。俺は木場と二人でさまざまな場所を回ってみた。
大河内の指し示す地図の×印を重点的に調べていたのだが、大したものは見付からなかった。
やはり探してある場所にはもう何も無いとみた方がいいだろう。
後は、怪しいと思って×印こそあるもののまだ大河内が探していない場所か。
「これ、一つは靄の先に×印があるわね」
「ああ。多分大河内もここが最後に行く場所だと決めてたみたいだ。あえてここだけは探索を避けてるようにも見える」
「多分、この先が無いかもしれないと薄々感じてたんでしょう」
「じゃあここは行かないということで、あと探してないのは……」
「そうね、後は……これは畑?」
「多分裏庭の中央位の位置だな。掘らないとダメだろ」
「今は時間が無いわね」
「そろそろ皆揃った頃だ。大河内に付いて犯人を見付けないといけないんだが……」
「追い詰められそう?」
木場の疑問に俺は首を横に振る。
「正直追い詰められるような証拠は無い」
「ふむ。じゃあ相手が自分から告白してくれるようにするしかないわね」
「自分からか……」
やろうと思えばやれなくはない。
しかし、それを行うことは俺にとっては面白くない結果になりかねない。
あまりやりたくはないが、可能性の一つとして選択肢を持っておくべきなのだろう。
本当にやりたくは無いのだが。
「方法はある。そっちは?」
「無いわね。貴方に任せるわ。お手並み拝見ね」
この野郎、何かとっておきを隠しておきながら俺に全て任せるつもりだ。
そのとっておき、俺にくれよ。もしくは自分が矢面立てよ。
しかし俺の思いは全く気付かれることも無く、木場はさっさとこの場を後にして屋上へと向かって行く。
ところで木場、俺そろそろ腹減って来たんだけど。食事しない?
「木場、先に食事とか、ダメかな?」
「え? ああ、そう言えば私達は食べてないわね」
今気付いたといった木場、自身のお腹に手を当て意外そうに告げる。
「お腹が空いてるわ。意識したら途端に食べたくなって来た」
「よし、んじゃ行くか」
俺と木場は食堂に向かう。
そう言えば大河内の足跡、ここにもあったな。
食堂にやってくると既に全員食事を取り終えたようで誰も居なかった。
二人きりの食事だ。
木場が適当な冷凍食品を取り出し温める。
出来た食事を二人隣合って並べると、木場と同時に食事を始める。
「そろそろ冷凍食品も無くなりそうよ」
「そうなのか」
「ええ。明日からは冷凍の食材を使って作るしかないわね」
「食糧庫も残り少なくなったか……ん?」
食事を止めて食糧庫の在庫を見に向かった俺は冷凍庫の奥底に置かれたそいつに気付いた。
冷たく凍り付きながらもひっそりとその存在を輝かせるそれに、俺は思わず手を伸ばす。
「これは……」
「何ソレ? 石?」
「ああ、石だ。これが、要石?」
「まさか? でも、変わった石なのは確かね。角ばっている十六面体と言ったところかしら?」
「光に当てると虹色に輝くな」
これが要石だろうか?
でもそれならば大河内が気付いてない訳が、いや、待て。これはついさっき木場が冷凍食料を取り出したから発見できた訳で、それまでは奥底に隠されていたことになる。
つまり発見すらされていなかった可能性が高い。
「そう言えばさ」
「何?」
「この食料、いつここに持って来たんだろうな?」
「どういうこと?」
「そもそも百年以上前からある位相世界なんだろ、もともとは旧校舎だったみたいだし、いつ更新されてんだろうな?」
「……そういえばそれも謎ね」
俺達が居る間、食料が自動で今の時間帯の元の世界と同じ分量に更新されている気配は無い。
しかし俺達が来た時には満杯だった。
でも、二十年前の時から変わっていないと仮定するとこれはおかしい。
どこかでこの学校全体が更新されて現代の学校と同じ状態に保全されるはずなのだ。
誰もいなくなったら更新される、とか?
まだ謎の部分が多いな。この辺りの疑問もいつか解決出来る日が来るのだろうか?
井筒に聞いたら教えてくれないかな? 逆に口封じされそうだしやめとこう。
石は一先ず俺が預かることにした。
一番自分で持っとくのが安全だろうし、多分これがお探しの要石なのだと思う。
この世界を形作らせるために必要なのか、それとも別の何かの為の石なのか。
その内分かればいいけれど、あるいは永遠に謎のままなのかもしれない。
「食事を食べちゃいましょう。皆待ってるわ」
「それもそうだな。急いで食べよう」
俺と木場は速攻で食事を掻き込む。
偏った食事を終えた俺たちは木場が流しでトレーを洗っている間に俺が食堂を調べていくことにした。
まぁ、流石に大人数が出入りしているだけあって他の証拠品などは全く無かったんだけどな。