大河内の日記3
川端が殺されたようだ。
犯人はどうでもいい、今回の件に十勝が関わっているかどうかが問題だ。
でも、どうやら巻き込まれただけのようだ。これでは奴らの繋がりが明確に出来ない。
どうも当初の考えとは違い、忌引、井筒、十勝は協力関係には無いらしい。
てっきり皆が死ぬのを見て楽しむために三人が協力していると思っていたのだが三者三様何かしらの目的を持って行動しているように思う。
一先ずは動き始めた忌引に付いて山田を嗾けてみることにした。吉と出るか凶と出るか、できるならば好転してくれればいいんだが。
「やっぱり山田は嗾けられてたのか」
「あれだけ忌引さんを敵視し始めていたらね。つまり、三人の中で大河内君が一番危険だと判断したのが忌引さん、なのね」
「光葉がなんで……」
犯人の日上が自殺した。
残念ながら僕が求めていた場所に落下してはくれなかったようで、本当に死んでしまった。
また一人、消えてしまった。
警察の人たちとの連携も無駄になっている。
なんとか連絡を取り合いながら手を打ちたいが、下手に彼らを入れると面倒なことになることも分かってる。おそらく忌引は許さないだろう。そうなればどうなることか。
大丈夫、入口については警察はまだ気付いてないはずだ。それよりも、十勝だ。アイツの目的が分からない。
もともと井筒が柱としての能力を失ったから人柱にされていた筈なのに、なぜ嫌な顔をせずに井筒や忌引と一緒に居られる?
やはり二人とは親密になっているのか?
だが二人を避けるそぶりも多々見受けられる。
彼女だけがどういう状態なのか分からない。
「十勝の目的は不明、か」
「そもそもの驚きは十勝さんが人柱になっていたことね。そしてこの世界を維持するために必要な処女、それが最上さんになる予定ってことは、十勝さんは既にその任務に付けないってことよね?」
「アイツも処女じゃないってことか。誰かと既に?」
「可能性があるなら昭和から近代まで人柱してた訳だし、お父さんたちの時期に処女性を失ったとみた方がいいわね。小川君とも修とも行っていないでしょう?」
「まぁ、そうなんだが、あるいは、既に俺相手に捧げる予定だからって可能性も?」
「流石にそれはうぬぼれじゃないかしら」
「ひでぇなおい!? 盛大な自爆だよっ」
どうやら忌引に感付かれたようだ。
クソ、もう少しで要石が判明しそうだったのに。
所沢から話がしたいと誘われた。
今は忙しいから一旦保留させてくれと言うと音楽室に居るから用意が出来たら来てくれと言われる。
だから今おそらく最後になるかもしれない日記を書く。
これが終わったら所沢に会うつもりだ。
もしも奴が忌引の秘密に気付いた僕を殺そうとしているのなら、日記はココで途絶えるだろう。
最悪でも奴のボタンくらいは引きちぎって証拠を握っておきたいところだ。
「ボタン……」
「大河内殺人の犯人は、多分所沢だ」
「でも彼のボタンが取れていたのは一つだけ。それは音楽室にあったでしょ?」
「ああ。だがもう一つ証拠がある」
俺は懐にしまっていた手帳を取り出す。
「それは?」
「何かの証拠になるだろうととある場所から持って来た。もしもこれが所沢のだったなら、アイツのトリックとも呼べないトリックは崩れる。追い詰めるまでにはいかないが、な」
「そう。ならそこに載ってることを祈りたいわね」
「そうだな。それに……」
それに、大河内の日記はここで途絶えている。
本当に、所沢に会いに行った後に殺されてしまったようだ。
「犯人は……所沢」
「後は彼の犯罪を立証しなきゃいけないわ」
そこが一番難しいのだが、木場は期待した眼を俺に向けるだけだ。
「どうしたものか。問題は状況証拠すらない状態なのが、な」
「そうね。何かしらの方法は?」
「やろうと思えばやれる。ただあまりにも外道なやりかただから、ちょっと躊躇するというか、下手したら光葉に嫌われる」
「ふふ、なんだかそれは楽しそうな方法そうね。やりましょう、ぜひ。振られたら私が貰ってあげるわ」
「振られる前提とか止めてくれます?」
くすくすと笑う木場。
からかわれたことに気付いたものの、木場の笑顔が珍しかったのでしばしぼぉっと見つめる。
「な、何? 恥ずかしいのだけど」
「いや、笑顔が可愛らしかったからな」
「……っ。と、突然そういうこと言わないでくれない。襲うわよ」
「ここでか!?」
「ふふ。さすがに肉体関係を迫るには汚れ過ぎてるからここでは嫌だけど、このくらなら、ね」
え? と振り向いた唇に柔らかな感触。
唐突な口付けに、俺はしばし呆然としていた。
「いい修? 例え忌引さんが大切だとしても、探偵は犯人を名指すモノよ。躊躇わないで」
例え誰が犯人だとしても。
ミステリアスに微笑んで、木場は大河内のノートを回収する。
俺を残してさっさと天井裏から出て行ってしまった。