第一の真相2
「お、お前……嘘、だろ……」
「ふん。嘘ってのはどの辺を言ってるんだ? 僕が伊織を殺したこと? 伊織がお前に隠しごとした事か? それとも今まで仲良しごっこ続けてたことか?」
「……え?」
呆然と、大河内の言葉に小川が驚愕する。
仲の良い幼馴染。三人組。その筈だった。
牧場に隠し事があったことなど知らなかった。
仲良しだと思っていた三人は仲が良いように見せられていただけだと言われても信じられるわけがない。それじゃあまるで小川がピエロのようじゃないか。
大河内は幼馴染とは仲が良くなかった? 良く思っていなかったってことなのか?
「折角だから教えてやるよ才人。伊織の初めての相手な、お前じゃねーんだ。処女膜無いのはわかっただろ。あいつなんて言った?」
「そ、それは、小学校で鉄棒してた時に股打ちして……」
動揺するように告げる小川。先程までの怒りは完全に勢いを失っており、困惑の中昔言われたことを思い出しながら告げる。
すると、答えは予想済みだったようで、大河内が下卑た笑みを浮かべた。
「去年まではしっかり守ってたぜ。僕が貰っちまったけどな!」
「な、なん……」
衝撃的事実だった。
その場の誰もが声を失う。
果たして小川は、しっかりとこの言葉を認識出来ただろうか?
「幼馴染の二人が付き合う。それでも俺達三人は幼馴染で仲良しだ。なんてよ、ストラップ三つ買いながら言ってたよな? でもお前考えたことあるか? あぶれた一人の想いってよ! お前ら二人のイチャラブずっと隣で見続けなきゃならねぇ僕の想いを! だからさ、仲のいい三人だったら、もう一人も楽しませてくれてもいいだろ?」
「お、お前……まさか……」
小川の言葉にニタリと笑みを浮かべる大河内。
「ああ。俺は伊織を呼び出しレイプした。それでもあいつは仲良し三人組をやめたくなかったらしくてな。お前と付き合いながら俺に腰振ってたって訳だ」
さもおかしそうに告げる大河内に、怒り狂った小川の拳が炸裂した。
押さえなど効かなかった。誰も止められもしなかった。
鼻息荒く殴りつけたまま大河内を睨みつける小川に、大河内はそれでもおかしそうに笑う。
「お、お前は……お前はなんでっ! なんでっ……」
「伊織を呼び出したのもあいつがお前にぶちまけるとか言ってやがったから釘を刺すためだった。バレて困るのは伊織の方だしな。だけどあいつは頑固にもお前に真実を告げると抜かしやがる。だから、つい……」
首を絞め、気付いたら、彼女は死んでいた。
とっさだったのだろう。
殺す気はなかったのだろう。
ただ、彼女の口を封じなければ自分達幼馴染は崩壊すると、思わず塞いだのだ。
そして彼女の人生をも塞いでしまった。
慌てて逃げ出した彼は俺達が来る気配を察してとっさに購買に身を隠した。
やってきた俺達に購買にずっといたみたいな顔で挨拶したのだ。
一種の賭けもあったのだろう。逃げようとしたのか、混乱して別の事をしようとしていたのかは分からないが、とにかく自分と牧場が会っていた事実を隠蔽したかったのは確か。それはきっと、殺したことよりも、小川にばれる事を隠したかったんだ。
彼らはどこまで行ったところで幼馴染だったから。
きっと大河内は自分が行った裏切りを小川に隠し通したかったのだろう。
結局、バレた彼はもうどうでもいいと息を吐く。
「斈、お前……お前はッ」
怒りを制御できない小川は怒りと友情のせめぎ合いで言葉も満足に言えない。
詰まった言葉を必死に口から吐き出し、感情を制御しようと試みる。
しかし、大河内はそんな彼を嘲笑う。
「そう言えば知ってたか才人。伊織な、妊娠したらしいぞ。どっちの子だろーな。まぁ、一緒に死んじまったわけだが……」
「斈ぅぅぅっ!!」
制御など出来る筈がなかった。
大河内の顔面を殴りつける。
怒りに任せた一撃で吹き飛ばされた大河内は、しかし不敵に笑いながら俺達を見た。
ゆっくりと立ち上がりながら告げる。
「ここにゃ警察はいない。罪を犯しても裁く奴はいない。でもさ、皆犯罪者とは一緒に居たくねーだろ? だから呪いをかけてやる。お前らは必ずまた人を殺す。そして暴いて槍玉上げて、犯罪者を皆で殺す。そうして最後の一人になるまで殺し合えっ」
一歩、また一歩。大河内は後ろに退がる。
そこには屋上の縁があり、その先には何も無い。
「ふふ、ははは。あはははははははっ」
「待て大河内ッ、その先はっ」
気付いた大門寺が動こうとする。
一歩踏み出し手を出した時には、既に大河内が縁の後ろへと足を踏み出した後だった。
「才人っ、伊織は、俺が貰う。伊織の初めても、最後も、死後も、全部。先にあの世で、待ってるぜぇ」
狂気を孕んだ笑いと共に、大河内の姿が消えた。
屋上の縁よりも奥へと退がり、宙空へと踏みだした彼は、重力に引かれ落下していったのだ。
「クソッ!」
最初に駆け寄ったのは大門寺。
不良な男は動物的感か、一番早く行動したようだ。
遅れて俺達も縁へと向かう。
「っ!?」
「な、なんで……?」
屋上から落下した大河内。その姿は、何処にもなかった。
まるで神隠しにあったかのように消え去っていたのだった。
「ど、どうなって……」
「もう訳わかんないっ! 結局何なの!? 殺人って、自殺って……」
「斈……なんで……」
「クソッ」
小川が俯き大門寺が拳を強く握る。
皆が皆、今しがた起こった出来事に対処しきれずただただ呆然としていた。
誰だっただろうか? ポツリ。「教室に戻ろう」と言いだしたのは?
数秒だったか、数時間だったか、俺達は一人、また一人と幽鬼のごとく教室へと向かうのだった。