見つけたくなかった
大河内の死体を調べる。
というか冷たい。
「修、とりあえず着替えてきたら?」
「それもそうか。ちょっと購買行って来る」
そう告げて、壱岐の元へ近づき小声で告げる。
「全員怪しいんだ。変な行動しないかお前が見てて欲しい」
「喜んで」
俺に頼まれたのが余程嬉しかったのか、笑顔満面の壱岐。ぱっと見は美少女に見えるからちょっとヤバい。一瞬キュンとしかけた。
壱岐に監視を頼んで購買へと向かう。
屋上から一階へ戻るのは結構大変だったが、濡れたままで風邪を引くよりはマシだろう。
購買でタオルを入手し身体を拭きながら制服類の替えを探す。
パンツ、シャツ、ズボンは見付かったが制服が無い。
もしかして在庫全部使い切った? 仕方無い。一つぶかぶかになるけどLサイズ着るか。
ふと、ゴミ箱に何か入っているのに気付く。
これ、男子制服?
思わず手に取る。
右のボタンが二つ取れている制服だ。
ポケットを探す。
何か忘れものをしていたらしい。出て来たのは……手帳?
小さなポケットサイズの手帳を入手する。
一応証拠になるのか? だがココで見つけたということは全く関係ないのかもしれない。
一先ずこいつは確保しといたほうがいいな。保健室で保管しといて貰おう。
服を着替えて保健室に向かうと、戸棚の一つにボタンの取れた男子制服を突っ込んでおく。
ここなら余程の事が無い限り誰かに暴かれたりはしないだろ。
切り札になればいいんだが。
しかし、一日に二人も死者がでてきたか。
あるいは自殺した大河内が貯水槽に出現してそのまま溺れた?
屋上へと戻ってくると、壱岐が怪しいほどに皆を凝視していた。
あれじゃ監視がバレバレである。
木場たちもああ、壱岐の奴監視頼まれたんだなぁ。と温かい目で見守っていた。
俺は思わず額に手を当てる。頼む相手を間違えた。
賀田にでも頼めば良かったかもしれない。
まぁ、御蔭で誰も怪しい動きはしなかったようなので良し、だな。
「何か進展は?」
「全く無し、ね。死体よりも別の側面から調べた方がいいらしいわ」
「だろうな。おそらく背中を押されただけとか、睡眠薬を盛られてる間に溺死させられたとかだろうし」
「怪しい人物はいた?」
「所沢くらいしか思い浮かばんな。山田が死んだ時の証言で大河内と屋上で会ってたのはアイツだけだ」
「そうなのよねぇ。どう見ても状況的には所沢君なんだけど、所沢君が言った事が全部本当だった場合、一度大河内君が立ち去ってるはずなのよね。その後に誰かに出会って殺されたってことになっても普通に可能性を消しきれないから断定が出来ない」
「証拠もない、証言も無い。コレでどうやって犯人捜せと? 警察とかだと毒物の有無とか指紋鑑定とかして犯人特定出来るんだろうけどな」
「犯行現場の特定は?」
「どうやって? 貯水槽に投げ込む以外はどこで犯行が行われたかすら不明だぞ?」
「だったら、探すしかないわね」
「うわぁ……」
これからまた校内探索か……
「あ、待って」
「どうした?」
「これ、証拠かも」
と、木場が手に取ったのは、大河内の腕。
なんだ? と見てみれば、爪の辺りが赤くなっている。
「水に浸かっただけだから落ち切らなかったみたいね」
「これは多分、引っ掻いた?」
「抵抗はしたみたい。立派な証拠でしょ? 犯人はひっかき傷がある」
「全員に服脱いで貰うのが一番か」
「女性は私が見るわ」
「もう一人必要だろ。えーっと、そうだな。中田に頼んでくれ」
「中田さん?」
「一番犯人とは縁遠そうだろ。他のメンバーよりは確信が持てる。俺が頼んで来るよ」
「それは良いけど……修、学級裁判前に二人きりで会えないかしら?」
「いいけど、何故だ?」
「いろいろと相談しておかないといけないと思って。私も、信頼されて無いんでしょ?」
「……わかった」
木場は俺の信頼を得るため、俺は木場の疑惑を解消するため、俺は二人で会うことを了承した。
「壱岐、悪いけどまたしばらく監視を頼む」
「うん」
「光葉、木場とちょっと探索行って来る。殺害現場を探して来るよ」
「あ、じゃあ私も……」
「いいえ、こっちは二人で大丈夫。忌引さんたちはこの屋上を隈なく調べてほしいの、お願い」
木場に機先を制され不承不承頷く光葉。
光葉には悪いと思いながら、俺と木場は屋上を後にした。
「とりあえず四階からね。音楽室辺りが怪しいからそっちは後廻しにして和室側から調べましょ」
「だからこっち着たのか」
「ついでに誰もいなければ話し合いを……は、無理みたい」
和室の扉を開いた瞬間、俺たちは発見してしまった。
首を絞められ窒息し、命を散らした女の死体を。
原円香が、和室で殺されていた……