大河内の死
どうなってる?
なぜ大河内の死体がこんな場所に?
呆然としていると、話を聞いた大門寺達がやってくる。
昼食前だったせいもあり原以外の全員が集まって来た。
屋上のさらに上に居た俺と貝塚を見て即座に大門寺がやってくる。
「そこに何かあるのか!」
「ロープが居る。俺が入るから大門寺は上から引っ張ってくれ」
「引っ張ればいいのか。分かった」
坂東と榊が慌ててロープを探しに行く。
他のメンバーが見守る中、坂東達が持って来たロープを持って給水塔内部へと飛び込む。
まずは大河内の身体に結わえ、大門寺に引いて貰う。
しばし水の中で待ち、投げ渡されたロープを伝って脱出する。
腕が縄で擦れて痛い。
ロープ一本で身体を持ち上げられたから全ての体重が腕に掛かって掌にあざが出来てしまった。
しばらくはコレ戻らないだろうな。
ずぶ濡れになりながら給水設備から脱出した俺は、既に屋上部分に降ろされた大河内の死体の元へと向かう。
うん、間違いなく大河内だ。
死んでる……よな?
「なんで給水塔の中にこいつが?」
「つかそんな場所に居たってことは……ついさっき水飲んじまったよ……」
「うえぇ、死体の出汁飲んだのかよ」
榊が喉を押さえ坂東が榊から距離を取る。
まぁ、その辺りはどうでもいい。それよりも……
いつからだ?
大河内が死んだのはいつだ?
屋上から落下した時か?
いや、違う。直近大河内と出会ったのは所沢。
屋上で話し合いをして、大河内が去っていったと証言している。
いや、去っていった? 本当に去っていったのか?
爪を噛む木場と困ったような井筒の顔も気になる。
あの二人何か知っている?
いや、それよりも。
光葉、今、一瞬ニヤリと笑わなかったか?
思わず眼をこすった次の瞬間には元の無表情になってたけど、今、口元を歪めなかったか?
どういうことだ? 光葉、お前は大河内の死に関わってるのか?
そもそも井筒が怪しいというのも光葉の言葉を信じたからだ。
もしもそれが嘘だったとしたら?
井筒の方が人柱で、光葉が封印された存在だったとしたら?
ああクソ、現状じゃ二人を追い詰める要素が無い。
信じたくない思いと犯人なんじゃないかと言う疑い。二律背面の思考が俺の思考力を阻害する。
何も考えたくないと思いそうになる気持ちを必死に押しつぶし、頭を回転させる。
考えろ、真実を暴け。立ち止まったらそこで終わりだ。
十勝も怪しい動きをした。
木場も十勝も光葉も所沢も井筒も怪しい、怪し過ぎて怖い。
自分の知り合いに犯罪者やそれ以上の怪物が居るかもしれないと思うと、恐くて思考を放棄したくなる。
俺も、小川みたいになっちまった方が楽なんじゃないだろうか?
そう思ってしまう時もある。
「学級裁判を開くべきか?」
「それがわかんないんだよな。そもそも本来は自殺した犯罪者の筈だ。なぜ給水塔に浸かっていたのか……」
「まずは証拠探しね」
「証拠なんざ出てこねぇだろ。何か持ってたりすんのか?」
足立がそんな事を告げながら大河内を転がす。
仰向けになった大河内のポケットをさぐり、一つ一つ遺物を取り出して行く。
スマートフォン、学生証。ハンカチ、ぐしゃぐしゃのポケットティッシュ。
そして……ボタン?
またボタンじゃないか。
男子学生のボタン。でも、おかしい。
見た感じ俺たちは全員ボタンを付けたままだ。大河内のソレもしっかり付いている。
一つボタンが無いのは所沢だけど、こいつのボタンは音楽室で山田ともみ合った時に落としたモノだ。
じゃあ、このボタンは、なんだ?
「ボタン……だな」
「でも皆のボタンは付いているわよね?」
「そうだな。所沢のが一つ無いが、これは音楽室で見つけたし……」
「証拠って訳じゃないのかもしれないわね。でも、どういうことなのかしら?」
大河内が生きてたとして、なぜ殺される?
殺した奴は大河内が邪魔だったってことだよな。
となると、殺害理由があるのは、小川くらいか?
「学級裁判にしようにも証拠が無さ過ぎる」
「確かに。いつ殺されたのかも分からないわね」
「んじゃーよ。とりあえず食事しねぇ? 二交代に分けて、食事してから裁判っつーか」
「そう……だな」
正直証拠らしき証拠が無いというのはちょっと難し過ぎる。俺は名探偵じゃないんだぞ。
「なら、私と修は後で食事を取るわ」
「おい、俺に選択権が無いぞ」
「どうせ調べたいんでしょ。手間を省いただけよ」
「……まぁ、それなら、いいのか?」
そして俺達が後半食事を取ることに決まり、十勝や壱岐、井筒、賀田、光葉が一緒に残る。
他のメンバーはさっさと食事を取るそうで所沢は光葉とは別の先に食事を取るチームに入って去っていった。
少し疑問に思ったよ、だってアイツ光葉の騎士とか名乗りだしたからてっきり一緒に居ると思ったんだけどな。