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第一の真相1

「大河内斈、犯人はお前だ」


 小川の隣にいた大河内を、俺は指差す。

 あり得ないといった顔で小川が隣の大河内に視線を向けた。

 俯いたままの彼からは表情が伺えない。


「ば、馬鹿を言うなよ沢木、斈が……なんで斈が伊織を殺すんだよっ!?」


 信じられない。意味がわからない。小川の顔は怒りから焦燥感に変化していた。

 俺の指摘が信じられなくて、しきりに俺と大河内の間で視線を行き来させ始める。

 嘘だといえ。そんな視線を受けながら、俺はさらに告げる。


「体育館から自由行動に移る際、彼は牧場に購買倉庫に来るよう告げていた。話があったらしい」


 一斉に、皆の視線が大河内へと注がれる。

 本当のことなのか? そんな疑惑の視線に、大河内はニタリと口元を歪ませた。

 バカなことを言ってくれるな。そんな迷惑そうな顔で溜息を吐く。

 いきなり見当違いの指摘を受けてやれやれだぜ。といった顔をしているが、俺は確信してるしちょっと考えれば辿りつく答えだ。まるで見つかっても構わない。その程度のトリックとも呼べないただの殺人。


「待てよ沢木……確かに僕は伊織ちゃんにそう告げたけど、僕はまだ、購買に居ただろう?」


「ああ。そうだな。購買にいた。俺達が来た時には、な」


 そう、こいつは確かに俺達と一緒に居た。

 けれどそれ以前に何処に居たかは俺たちは知らない。

 そして悲鳴が上がる10分前までの間に購買横の倉庫から購買に向かい、俺達を出向えれば何の問題もない訳だ。その後、俺たちの後を何食わぬ顔でやってきて、さも今約束の場所に来ましたよという体でいればいい。

 すでに一度来ていたかどうかなど、その時の俺達に分かる訳が無いのだから。


 だが、時間的に犯行可能なのは彼か小川だろう。あるいは高坂か足立か。

 しかし高坂は足立に追われ、死体発見直後まで校内を逃げていた。足立はそれを追っていた。

 小川は10分前まで教室で被害者に会っていたけど別れた。そしてあの取り乱し様なら犯人ではないだろう。

 あれが演技だと言われればそれまでだけど、あいつのようなリア充直情系が演技など出来るとも思えない。


 消去法から言っても彼以外にはありえず、時間的にも場所的にも、殺人を起こせるのは彼しかいなかった。

 ならば彼以外の犯行を考えるよりも、彼のアリバイを崩して行く方がスムーズに犯人が見つかるはずだ。流石に小川が嘘ついてたらどうしようもない。

 小川が殺して購買倉庫に遺体を捨てて教室に戻ったなら今までの情報が全て意味の無いモノになる訳だが、前提条件が合っていると考えるのなら小川犯人説よりも大河内犯人説の方が有力だ。


 それに、彼女が死んだことで激昂し、殺人者は絶対に許さんと叫ぶ小川に比べ、幼馴染が死んでいるというのに冷静すぎる大河内の方が怪しさは満載だろう。

 そもそも購買倉庫に行っていないなら、なぜあそこにこのストラップが落ちていたのか。このストラップが三人だけのモノであり、努力、友情、勝利を一人づつで持っているのなら、落ちていたストラップは彼のモノだという事実に直結し、彼が一度購買倉庫に向かった後だということの証明となる。

 なにしろ、彼女に近づかなければ落ちないような場所にストラップがあったのだから。


「購買倉庫から購買に向かうとして、何分かかる?」


「いや沢木、何分っつかそりゃ何秒だろ。直ぐ横のドアなんだからよ」


 足立の言葉に俺は頷く。その通り。1分すら掛からない。


「ああ。そうだ。そして俺達が来たのは悲鳴が上がる1分程前のこと。小川と牧場が離れて牧場が10分以内に教室から購買倉庫に来たとして、おおよそ2分。幾ら離れてる教室から来たとしても狭い校舎内だ。そう時間がかかるもんじゃない。購買倉庫でやってきた牧場を殺し、購買に逃げ込んだとして、かかる時間は5分以内。俺達が来た時にはもう殺害を終え購買で誰かがアリバイ証明してくれることを待っていた。あるいは本当ならやってきた誰かと購買倉庫に向かい第一発見者の一人になるつもりだったのかもしれないな。残念だけどお前の殺人はトリックにすらなってない。衝動的殺人だったんだろ。確かに購買に来たのが一人だったり、購買倉庫での発見が先だったら問題はなかった。でもあんたは牧場を倉庫に呼び出し、直ぐ横の購買で待機していた。それを俺達が先に発見した。怪しすぎるだろ」


「……」


 告げられた言葉に大河内は俯き口ごもる。


「お、おい、斈? 嘘、だよな? お前が伊織を、なんて……」


 焦る小川の言葉に、しかし大河内は反応すらしない。

 否、肩が小刻みに揺れる。

 ……笑っている?


「ふふ。はは……ははは。いやー参った。やっぱあの程度じゃ隠すの無理かぁっ」


 顔を上げた大河内。そこには後悔も俺の推理に対する否定もなかった。

 言い当てられて残念だ。程度の失敗した顔でしかなかった。

 ただただ侮蔑と嘲りの顔で皆を見回す。


「まぁ、言い逃れようと思えばまだ言い逃れできるけど疑念は残るだろうしね。ここらで素直に認めとくよ沢木。伊織を殺したのは僕だよ。正解だ」 

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