第六の真相1
「私は……田淵さんと合流した後、音楽室に向かったの」
準備室じゃなくて音楽室!?
「音楽室、なのか?」
「うん。防音出来る部屋、音楽室だから」
音楽室に来た田淵と光葉は、密談を始めたようだ。
しかし、しばらくすると、突然ドアを開き山田が入って来た。
驚く光葉と田淵に、山田は包丁を振り回し襲いかかる。
光葉のスカートが切り裂かれ、田淵のイヤリングが斬り落とされ、このままでは殺される。そう思った次の瞬間、山田の背後にやってきた所沢により昏倒させられたそうだ。
所沢がロープを使い山田を宙吊りにし、身動きが取れないようにしておく。
その後、山田をどうにかするために道具を取りに行こうとした所沢だったが、途中で大河内に会って屋上へ。山田が脱出する術はないからまだ大丈夫だろうと屋上に向かったのだそうだ。
その間に田淵と光葉は音楽準備室に移って密談を再開。
山田はその間、首と両脇を吊られてぶらぶら揺らされていた。
つまり、俺達が発見した時、彼はまだ生きていたのだ。
「ん? それって俺らが発見した時はまだ生きてたっつーことか?」
「う、うん……」
「なんだそりゃ!? だったらそう言えよ!?」
「あぅ……」
足立に凄まれたじろぐ光葉。
溜息付いて田淵が口を開く。
「言ったら言ったで説明面倒だったでしょ。そもそもアイツが起きたら忌引さんにまた襲いかかって来そうだったし」
「それに……殺す予定だったし?」
田淵の言葉に木場が被せる。
田淵はフォローの言葉を打ち消されムッとした顔で木場を睨んだ。
「そんな予定は無かったわ」
「本当に? 少なくとも、忌引さんにはあった筈よ。彼を殺す動機が。何しろ、放っておけば自分を殺しに来る存在なのだし、ねぇ忌引さん」
「それは……」
「忌引さんの敵を殺すのは僕の役目だ。忌引さんが山田を殺す訳がないだろ」
所沢が慌てて口を挟む。ややこしくなるから口噤んでてくれないかな?
しかし、山田があの時生きてたってことは、俺が見たロープの違和感はそのためってことか。
山田はただ気絶していただけってことだな。
となると、山田は俺を気絶させた犯人が殺したってことになるのか。
「それが本当なら、山田君が死んだのは放送のあった後。修が昏倒させられ、私達が音楽室に辿りつくまでの間ってことになるのだけど……」
「その間に山田を音楽準備室に連れ去り首を絞めて殺害した人物……か」
「俺、犯人分かったかも」
「あー。俺もー」
坂東と榊がニタリと笑みを浮かべ俺を差す。
「犯人は……お前だ「沢木修一!!」」
「アホか」
俺が犯人って……
「いいか、お前は山田が吊りあげられてることに気付き、皆に指示を出し自分だけが残った」
「なぜならばお前は一人になることで自由な時間を手に入れ、ロープを外し山田を音楽準備室に連れ込んだからさ」
「愛する忌引さんが狙われてると学生証で理解したんだろ。だから学生証を奪い取り、誰かに奪われたことにして証拠を隠したんだ。そして山田の首を絞めて確実に息の根を止めた」
「その後は何食わぬ顔で音楽室で倒れていればいい。誰かに襲われたと言えば皆は信じるさ。何しろ、今まで探偵をしていた実績がお前が犯人の筈は無いと先入観を植え付けていたからだ!」
「だが残念だったな。俺たちは騙されんぞ!」
いやいや、正気かこいつ等は。
いや、だが、確かに俺はその時間帯のアリバイはない。
「ふむ。一理あるな」
「ちょっと修?」
「だけどそうなると、だ。坂東、榊、無くなっている筈の光葉の学生証、そして山田の首に掛かっていたロープはどこに行ったんだ?」
「そ、そりゃぁ、なぁ?」
「どっか捨てたんだよ」
推理が穴だらけ過ぎる。俺らよりも酷いじゃないか。
「そもそも俺が絞殺したのなら両手に……」
そうだ。犯人が絞殺したのならば、両手に縄の跡が残っていてもおかしくない。
まだ時間的にそんなに経っていない。なら……
「全員、両手を前に出してくれ」
「は?」
「いいから全員両手を出しなさい」
木場に言われて渋々両掌を見せる坂東たち。
俺と木場が一人一人見ていく中、たった一人だけ、両手を握ったままの人物が居た。
「なぁ、なんで両手を握ったままなんだよ?」
しかし、そいつは青い顔のまま両手を握り込み開こうとしない。
きっと何を求められているか理解してしまったのだろう。
開いてしまえば、自分が殺人者だと分かってしまう。今ならまだシュレディンガーの猫。開かれていない掌に、縄目の痕があるかどうかは手が開かれるまで分からない。
「な、なんだよ。どういうことだよ!? 何も無いだろ? 嘘だと言ってくれっ」
「諦めろ。この証拠は処分しきれない」
俺は彼女に近づき手を開かせる。
そこには確かに、縄を強く握り込んだ痕が残っていた。
「お前が山田殺しの犯人だ。田淵美里」