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第六回学級裁判6

 小川がパタンとノートを閉じ、足立に返す。

 全員が見終えたようで、一様に顔が青い。

 特に、忌引の名を持つ光葉は絶望的な顔になっている。

 だから俺はそっと光葉の肩を抱いて引き寄せた。


 驚く光葉は、しかしすぐに意図に気付いたようでぎゅっと制服を掴んで来た。

 震える彼女がとても可愛い。

 頭にキスの一つでも落としてやりたいが、流石に皆の手前そんな事をする勇気は無い。


「一応、聞くぞ忌引」


 びくり。大門寺の冷えた声に光葉が震える。


「このノートに書かれた忌引、お前の知っている奴か?」


 ごくり。光葉の喉が鳴る。

 しかし、覚悟を決めたようにコクリと頷いた。


「私の、お母さん」


 じゃあやっぱり忌引の誰かがこのクラスに紛れ込んでいたのか。

 だがそうなるとおかしい母親と言うのもおかしな話だ。

 だってこれは昭和の時代。俺達からすれば爺さん婆さん、あるいは曾爺ちゃんくらいの年代が体験した神隠しだ。


「本当に……?」


 尋ねる原に、光葉は俯いて答えない。

 ただ、気になるのはもう一つ。

 本来こういうミステリーに首を突っ込む筈の木場は光葉に尋ねようとすらしていない。


「原、今はそっちは関係ないでしょ。それよりも問題は、コレを知ったことに気付いた忌引さんが私の元へ来たこと。そして……私は忌引さんと共に人気のない音楽準備室で彼女の相談に乗っていたということだけ。他の場所には向っていないわ」


「本当に?」


「ええ。本当よ」


 そう断言する田淵。しかし、その耳元に揺れるイヤリングは片方しかない。

 片方……だけか。

 あっちゃうんだよなぁ、証拠。

 この三つだけは取られたなかったみたいだし。一応出してみるべきか?


「本当に、田淵は音楽準備室以外に入ってないのか?」


 俺は光葉に尋ねる。

 やや戸惑ったように、コクリと頷く。

 俺が聞いた意図がわからなくて不安げにしている。

 俺としても疑いたくは無い、けど、証拠が出ている。そして証言がその証拠と一致していない。


「田淵、嘘は付かないでほしいんだが」


「嘘?」


「俺が音楽室で山田を調べていた時、その周囲に四つの異物が残っていた。その内の一つが、コレだ」


 と、取り出したのはイヤリング。

 それを見た田淵は眼に見えて焦る。

 自身の耳元に手をやり、次第顔を青くする。


「な、なんで……それが……」


「これは山田が吊られていた時に音楽室の床に落ちていた。他にも二つ、遺留物があった」


「おい、さっき四つって言ったじゃん!?」


「山田の手にあった光葉の学生証が最後の一つだよ。さっき言ったから省いたんだ。床に落ちていた訳じゃないし」


「な、なるほど。で、その残りの二つって?」


「スカートの切れ端と、男子の裾に付けられたボタンだ」


 何故か腕の先辺りに二つづつボタンが付けられているんだよ。おそらく制服のボタンが取れた時用だと思うんだが、昔は他の用途があったのかもしれないな。


「スカート? おい田淵、お前のスカートどっか切れてんのか?」


「……いいえ。たぶん、忌引さんのスカートね」


「え?」


 皆が驚き光葉を見る。

 光葉は俺から離れ、震えながら後ろを向く。

 スカートを少し伸ばせば、尻側の一部が切り裂かれていた。


 木場から事前に聞いてなければ俺もしばし呆然としていたことだろう。

 これはつまり、音楽室に田淵、だけじゃなく光葉も居たってことか。

 じゃあ、まさか!?


「おい所沢、お前の服は……」


「はぁ、はいはいお察しの通り、僕のボタンだよソレ」


 ちょ、待ってくれ。それじゃあ、それじゃあ山田が死んだ時、その場に三人の人間が居たってことなのか!?


「はぁ!? ちょっ。所沢! テメェさっき音楽室には入ってねェっつっただろ」


「うん。だって忌引さんに疑いかかるだろ。それはマズいから省いたんだ」


 この野郎、やっぱり嘘ついてやがったか。

 だがこうなると色々と問題になってくる。

 当時光葉、田淵、所沢が山田と一緒に居たとなると、三人は犯人を知っていることになるんだろう。

 つまり彼らは結託して犯人を庇おうとしている。


「それじゃあ……犯人は三人のうちの誰か……ってこと?」


 木場が震える声で告げる。

 彼女も光葉が巻き込まれていたことは想定外だったようで、どうしようと俺に視線を向けて来る。

 どうするったって、俺達が出来るのは真相を究明するだけだろ。

 信じたい。だからこそ、光葉、お前の行動を聞かせて貰うぞ。


「光葉、証言を修正して真実を教えてくれないか?」


「そ、それは……」


 憔悴したような顔で俺を見つめ、田淵と所沢に視線を向ける。


「忌引さんに聞くの? 私がわざわざ代表して告げたのに」


「光葉だからこそ聞くんだ。俺は彼女が犯人じゃないと信じたいんでね」


「……そう。好きにすればいいと思うわ」


 小川の崩壊を見ていたでしょうに。とでもいいたそうに田淵が押し黙る。

 頼む光葉。お前じゃないと、言ってくれっ。

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